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結城組  作者: マー・TY
25/30

25話 処刑の花火

 黒宮の姉貴は囮。

 これまでの姫奈達とのやり取りは、全て姉貴のスマホから俺達に伝わっている。

 姉貴が急に発砲したのも、俺達が現場に到着して合図を送ったからだ。

 俺も遅れて廃倉庫に入る。

 中では既に、戦闘が始まっていた。

 黒宮の姉貴がチャカを抜いていて、3人が頭から血を流して倒れている。

 急な展開に、“環異蛮”の奴らは理解が追いついていないようだった。

「おっ…お前ら何なんだよ!!!?」

 姫奈が青ざめた顔をしつつ、ヒステリックに叫ぶ。

 それに答えたのは、椿野の姉貴だった。

「どうもぉ、結城組です。社会のゴミを掃除しに参りましたぁ」

 姉貴はヘラヘラしながらそう言ってみせた。

「結城組…!?」

「結城組って、あの……ヤクザだろ?」

「俺ら消しに来たのか!?」

 うちの組の名を聞いた半グレ達は、皆震え上がっていた。

 名前を出しただけでこの反応。

 結城組のネームバリュー、流石というべきか…。

「くそっ!クソったれが!…なんだってんだ……!」

 “環異蛮”トップの岩井が、愚痴を垂れながら、フラフラと起き上がる。

 黒宮の姉貴に潰された右目から、血が零れ落ちる。

「なんでうちにカチコんでくるんだよ!?俺らアンタらに迷惑かけてねェだろ!!」

「かけてんだよ。お前らうちのシマでカタギ襲ってんだろ?俺らが来たのも、殺された子の仇討ちのためだ。テメェら悪質過ぎる。地獄行き以外ありえねェ」

 椿野の姉貴は狂気的な笑みを貼り付け、そう言った。

 それを聞いた姫奈が、歯軋りをする。

「あのクソ女ァ!生きてたのか!!」

「さぁ?どうなんだろうねぇ」

「うるせェ!!」

 黒宮の姉貴に煽られたことで、姫奈の怒りは頂点に達した。

「カズ君!コイツら殺して!!殺しちゃって!!」

「うぅ…!」

 片目を潰された岩井を労ることなく、姫奈は命令を下した。

 岩井は姫奈と俺達を見比べてつつ、ポケットに手を入れた。

「くそっ…がぁ……!」

 奴が取り出したのは、ナイフだった。

「こんなん、殺られる前に殺るしかねェだろ!お前らァ!敵は女だ!!やっちまえェ!!!」

 岩井はそう命令する。

 手下達もまた、得物を手に取った。

 ほとんどが角材やバット、鉄パイプ。

 光物は少ない。

 奴らは焦りながらも、一斉に襲い掛かった。

「居るんだよなぁ。女だからってナメて掛かる奴」

 椿野の姉貴はボソリと呟く。

 すると次の瞬間、姉貴の背中が大きくなったように見えた。

「その女に殺されると思わずになァ!!」

 椿野の姉貴が、叫びながらスタートを切った。

 速い。

 兄貴達の踏み込みと、引けを取らない。

 先頭の奴が、慌てて鉄パイプを振り上げる。

「遅いなぁ青年」

「なっ_____!?」

 振り下ろされる前に、姉貴は片手で鉄パイプを押さえる。

 それと同時に、そいつの腹にドスをぶっ刺した。

 そのまま斜め上に斬り上げる。

「ぎゃああああああああああ!!!」

 そいつは悲鳴を上げならが、血の海に沈んだ。

 椿野の姉貴の目線は、既に別方向にある。

 ナイフを構えた奴が、突っ込んできていた。

「工夫が無い」

 姉貴は瞬時にチャカを抜く。

 そして的確に、そいつのどてっ腹を撃ち抜く。

 その弾丸は、命を刈り取るものだった。

「もらったぁァアアアアア!!!」

 今度はバールを持った奴が、後ろから襲い掛かる。

 だが姉貴には、それが見えていた。

「もらったぜ」

 姉貴の素早い後ろ蹴りが、そいつの股間に命中する。

 奴は股を押さえ、その場に蹲った。

 今ので睾丸が潰れていた。

「死ねェ!!!」

 今度は角材を持った奴が、フルスイングを放つ。

 姉貴はそれをしゃがんで避ける。

 それと同時に、懐に飛び込んでいた。

「うおっ_____!?」

「長物は入られたら終わるぜ」

 そう言って椿野の姉貴はドスを振り上げる。

 そして思いっ切り、そいつの頭蓋骨を叩き割った。

「「「………」」」

 戦闘力が違い過ぎた。

 残りの半グレ達は、もう動けずにいた。

「どうしたぁ?怖気づいたか?まぁ怖がったところで殺すには変わりないが……」

 そう語る椿野の姉貴の目は、俺に向けられた。

「苗木ィ」

「はっ…はい!」

「ボサッとすんなよ〜?お前もちょっとは働け」

「うおっ…はい!」

 くそっ、また呑まれちまった。

 姉貴に言われ、俺はドスを抜く。

 そして残りの半グレ達目掛けて、駆け出した。




 その頃、もう1人の姉貴も、半グレ達を戦慄させていた。

「あぁ〜、いい〜な〜。うたごえ〜は〜アイアイア〜イ♪」

 黒宮の姉貴は、何故か歌いながらくるくると踊っている。

 その歌声と仕草は、まるで幼い子供のよう。

 だが、半グレ達は先程思い知らされたばかりだ。

 黒宮の姉貴の、危険性を。

「世界いっぱい、いっぱい、い〜っぱい♪」

 最初は気弱な女子大生だと思っていた。

 思う存分欲望を吐き出して、そのまま捨てるつもりだった。

 だがその女は、一瞬で奴らのボスの片目を奪い、チャカで3人も殺したんだ。

 その動作には、少しも澱みがなかった。

 姉貴の危険性を理解したからこそ、下手に動けなかった。

「ララひ〜び〜き〜あ〜う〜〜♪」

 黒宮の姉貴は妖艶な笑みで歌い続ける。

 その様を見て、奴らはあることに気づいた。

 子供向けの歌を歌いながら、踊る姉貴。

 その両手には、チャカは握られていなかったのだ。

 もしかして、今なら行けるのではないか。

 姉貴を前にする、全員がそう思った。

「うたうた〜え、うたうた〜え♪」

 奴らは一斉に襲い掛かった。

 チャカさえ使えなければ、ただの華奢な女だ。

 抜かれる前に、全員で抑え込んじまえばいい。

 だが、その考えは甘かった。

「ッ!!?」

 1人が異変に気づく。

 黒宮の姉貴の手に、いつの間にかチャカが握られていたんだ。

 いつ抜いたのか。

 その疑問を投げかける前に、引き金は引かれていた。

「うたえバンバンバンバンバ〜ン♪」

 姉貴は「バン」と言うと同時に撃っていた。

 歌のリズムに合わせ、計5発。

 その全てが、急所にヒットしていたんだ。

「あっ…あぁ………!」

 糸が切れた人形のように倒れる半グレ達を見て、姫奈は絶句する。

 ここまで行動を共にしていた奴らが、呆気なく殺されたんだ。

 それも、弄ぶようにして。

 黒宮の姉貴の無邪気な振る舞いが、逆に絶望を引き立てていた。

 当の姉貴は、鼻唄を歌いながら姫奈に近寄ってくる。

「ふっざけんな!!ぶっ殺してやる!!」

 姫奈は半グレが落としたナイフを拾い、姉貴に向けた。

「死ねェえええええ!!!」

 そして叫びながら、姉貴に特攻を仕掛けた。

 だが、それはあまりにも無謀だった。

 黒宮の姉貴は、その刺突を軽々と躱す。

 そして姫奈の背後に回ると、左腕を首に回し、右手のチャカを口の中に突っ込んだ。

「モゴッ!!」

 口内をチャカで埋められた姫奈の体が、小刻みに震える。

 異物をぶち込まれた不快感よりも、緊張が勝つ。

 先程までの威勢は、もうどこかへ行っていた。

 コイツからすれば、黒宮の姉貴は得体の知れない狂人だ。

 いつ発砲されるか解らない。

 恐怖に呑まれた姫奈は、動けなかった。

「はぁい。そのまま動かないでね〜。変なことしたらぁ、うたえバンバンしちゃうから♡」

「ふぃっ!!」

 黒宮の姉貴の囁きで、姫奈はさらに恐怖する。

 そしてコイツの取り巻き達はというと、全員倉庫の隅で固まっていた。

 姫奈を捕まえた黒宮の姉貴を前にして、何もすることなく、ただ震えている。

「あなた達も動いたらぁ、うたえバンバンだからね?」

 そう言われた取り巻き達の顔が、絶望に満ちる。

 黒宮の姉貴の笑顔は、まさに悪魔そのものだった。




「オラァ!!!」

 俺は半グレの腹にドスを突き立てた。

 そのまま斜め上に斬り上げる。

 そいつは悲痛に顔を歪ませながら、仰向けに倒れた。

 “環異蛮”の下っ端は、コイツで最後。

 俺は横目で椿野の姉貴を見た。

 姉貴は岩井と対峙していた。

 奴は片目が見えないながらも、なんとか立ち上がっていた。

 その手にあるのは、ナイフ。

「クソアマ共がァ!!調子に乗りやがって!!俺を誰だと思ってんだ!!」

「誰だよ」

 岩井は凄んでみせるも、椿野の姉貴は鼻で笑う。

 姉貴からすれば、奴らは体だけ成長しただけのガキだ。

 1ミリもビビってない。

「うるせェ!!死ねやァ!!」

 岩井がナイフを振り上げる。

 そこから放たれたのは、袈裟斬り。

 トップを張るだけあって、その迫力は手下達とは大違いだった。

「やるじゃん」

 そう言いつつも、椿野の姉貴は軽々と躱す。

 そして素早いサイドステップで、岩井の死角に入った。

 両目だったら見えていただろう。

 だが、潰された方に入られたせいで、岩井には見えていなかった。

結城組うちなら良い戦闘者にしてやれただろうなっ!」

 椿野の姉貴のドスが、下から跳ね上がる。

 その刃は、岩井のナイフを握る右手を通り抜けた。

「へっ…?」

 岩井は何が起こったのか解っていなかった。

 だが、姉貴はこれで終わらせない。

 そこから繋げるように、ドスを右太腿に突き刺した。

 そのまま下へと斬り裂く。

「あっ…ぎゃああああああアアアアアアアアアア!!!!」

 岩井はその場にぶっ倒れた。

 奴の絶叫が、廃倉庫に木霊する。

「右だけボロボロになっちまったなぁ」

 椿野の姉貴は、岩井を見下ろしてそう言った。

 奴は右太腿を激しく切り裂かれた。

 さらに右手は刎ね飛ばされている。

 そして序盤の、黒宮の姉貴による目突き。

 コイツはもうまともに戦えなかった。

「こんなもんじゃ終わらせねェぞ。お前は楽に死なせねェから」

 椿野の姉貴は、岩井に顔を近づけてそう言った。

 その目はまるで、猛禽類のように鋭い。

 そして俺に、岩井を死なせず運ぶように指示した。

「あなたも楽に死ねないよ?」

「ぶぎぃ!!」

 黒宮の姉貴が耳元に囁くと、姫奈は豚みたいな悲鳴を上げた。




 “環異蛮”のアジトから2時間程離れた山中。

 俺達はその拓けた場所に、岩井と姫奈、姫奈の取り巻き達を連れてきた。

 まるで特撮物の撮影現場みたいな風景。

 草も生えてない土だけの広場の中心に、縛られた岩井と姫奈を置く。

 奴らの周りには、黄土色の玉がいくつも置かれていた。

 手のひらサイズのものから、サッカーボールくらいのものまで、大きさは様々だ。

 そしてひとつの玉には導火線が付いていて、それは少し離れた俺達のところまで伸びていた。

 黄土色の玉まみれの岩井と姫奈を、俺と椿野の姉貴、黒宮の姉貴、それから姫奈の取り巻き達が観ている形になっている。

「姉貴、あの玉って……」

「あぁ、花火玉だよ。花火大会の時はなぁ、あれを空に打ち上げるんだ」

 椿野の姉貴は嬉々とした顔で説明する。

 やっぱあれ、花火なんだ、

 じゃあやっぱり、そうか。

 構図的に間違いない。

 姉貴は今から、岩井と姫奈を花火で爆殺しようとしている。

 当の2人は、何やら言い争いをしていた。

 それが俺の目には、醜く見えた。

「苗木ィ、なんで俺が花火を使うか解るかァ?」

「えっ?花火が好きだから…ですか?」

「それもあるけどよォ。あぁいう奴らの人生って、汚いことばっかだろ?だから最期くらい綺麗に散らしてやりたいんだよ。俺なりの優しさなんだわ」

 椿野の姉貴は、終始笑顔でそう語った。

 その目に宿っているのは狂気…。

 優しさなんて微塵も感じられない。

 この人、本当にあいつらのことを想ってるのか?

「という訳でェ!!2人の旅立ちを祝いましてェ!!祝砲を挙げさせていただきまァす!!!」

 椿野の姉貴が、突然大声でそう宣言した。

 全然祝いの言葉に聞こえない。

 姉貴の手には、火の着いたライター。

 岩井と姫奈の顔が青ざめる。

「待て!!待ってくれ!!そうだ、俺アンタらの下に付くから!!俺、結構使えるぜ!!だっ…だから_____!!」

「お前みたいな外道いらな〜い」

 岩井の必死な訴えは、黒宮の姉貴に一蹴された。

 姉貴の目は、まさにゴミを見るようなもの。

 岩井は悟った。

 もう、何を言っても聞き入れてもらえないのだと。

 だが、それでも姫奈は生存を諦めなかった。

「やめて!まだ死にたくないの!何でも言うこと聞くからぁ!お願いやめてぇ!これまでのこと全部謝るからぁ!」

 姫奈は思いつく限りのことを吐き出した。

 コイツだってまだ10代そこそこ。

 これからの人生、やりたいこととかたくさんあっただろう。

 だが、そんなモン通る筈がない。

 俺も姉貴達も通さない。

「ごめんで済んだら警察いらねェんだよなァ」

 椿野の姉貴が、姫奈の論理をそのまま返す。

 そしてライターの火を、導火線に着けた。

 火がバチバチと音を立てながら、姫奈と岩井に近づいていく。

 死が訪れるまでの数秒間が、導火線という形で見えていた。

 その間、2人は何度も謝罪を繰り返していた。

 「やめてくれ」とか、「死にたくない」とか、そういう言葉を何度も何度も…。

 早苗と睦月だって、そう懇願した筈だ。

 だけどコイツらは聞き入れなかった。

 だから、俺達も聞かない。

 奴らを眺めているうちに、火はいよいよ花火玉に触れる。

 そして_____。

“パンパンパンパンパァアアアアアアアアアアン_______!!!!”

 花火玉が次々と破裂した。

 色とりどりの綺羅びやかな光が、暗闇を派手に照らす。

 2人の悲鳴は、轟音によって掻き消される。

「うぉおおおお!!!」

 あまりの衝撃に、俺は仰け反った。

 熱波が直に伝わってきて、爆音が腹の中を揺らす。

 花火って近くで見ると、ここまでおっかないのか…。

 だけど、それでも綺麗に思えてしまう。

 姉貴達はこれを、どう見ているのだろう。

 俺は横目で2人の姉貴の顔色を伺った。

 黒宮の姉貴は、いつも通り微笑を浮かべている。

 手をメガホンの形にして、何かを言っていた。

 口の動きからして、「たまや〜」だろうか。

 子供っぽく、無邪気に叫んでいる。

 最もその花火の中核には、人間が居るのだが…。

 一方の椿野の姉貴は、ただ無言で花火を見つめていた。

 さっきまでの狂気的な表情はしていない。

 その目は、何かを懐かしむようなものだった。

「………」

 俺はまた、花火に目を戻した。

 眩しすぎてまともに見られないけど、結城組を続けていたら慣れるだろうか。

 そんなことを思っている間も、花火は続く。

 数分間に渡る綺羅びやかな処刑は、一際大きなオレンジの火花と共に、幕を閉じた。

 その跡に残っていたのは、黒焦げになった2つの死体だった。




「さ〜〜て!あとは早苗ちゃんに報告するだけだな!」

 車の後部座席で、椿野の姉貴が伸びをする。

 死体を処理し、山を下りた後、俺達は姫奈の取り巻き達を帰した。

 奴らがデカい顔できてたのは、姫奈や岩井の存在があったからだ。

 その2人が死んだ今、もう調子に乗ることはないだろう。

 まぁ帰す直前に脅しまくったし、そもそも花火の処刑で相当トラウマになっただろうけどな。

「明日にしよ。早苗ちゃんもう寝てるだろうし」

「だな」

 黒宮の姉貴の言う通り、もうすっかり夜になっていた。

 早苗を拾ってからここまで、いろいろあった。

 時間の流れってのは速いもんだな。

 そんな中で、俺は気になることがあった。

「椿野の姉貴、ひとつ聞いていいですか?」

「お?なんだ?」

「姉貴は、どうして結城組に入ったんですか?」

 俺は運転しながら、姉貴に質問してみる。

「……ありきたりな話だよ」

 そう言って姉貴は、車の天井を見上げながら、ヘラっと笑った。

 この感じ、教えてくれるのか。

「俺、元々花火師でな。さっきの花火も、全部自作なんだよ」

「すっ…凄いですね…」

 薄々察してはいたけど、やっぱそうなのか。

 花火なんて、まず提供されてくるようなものではない。

「家族ぐるみでそういう生業だったんだよ。あのまま花火師として一生を終える。……そう思ってた」

 椿野の姉貴の声が、少しだけ掠れている。

 車のルームミラーから見えたその目は、どこか憂いを帯びていた。

「ある時、半グレが家を襲ったんだ。花火を武器にするため、奪いに来たそうだ。奴らは目の前で、家族を次々と殺していった」

 椿野の姉貴…。

 やっぱり、そうだったのか…。

「そんな光景を見せられた結果、俺の中で何かが切れた。気づいたら俺は、花火に火を点け投げていた。それで半グレ達を吹っ飛ばした。俺も火傷してさぁ、その時の傷、未だに残ってんだわ」

 椿野の姉貴は、首元を指差す。

 そこに付いた火傷痕は、その時のものか…。

「それでもあの時は戦闘者としては素人だ。花火で何人かは倒したけど、残った奴に追い詰められた。そこに偶然、長が駆けつけてくれたんだ。あの人メチャクチャ強くてさぁ、残った奴らも一瞬で殺しちまった。その時の恩もあって、俺は長に付いていったんだ」

 そうか…。

 長…結城組長が助けてくれたのか。

 何がありきたりだよ…。

 そんな言葉で片付けられるような話じゃないだろ。

「苗木?お前泣いてんのか?」

 椿野の姉貴のご指摘通り、俺の目からは涙が溢れていた。

「ひぐっ……ずびまぜん…!」

「泣いてくれるのは嬉しいけどよぉ、事故るなよ?」

「はい…!!」

「宗佑、そのまま」

 黒宮の姉貴にハンカチで涙を拭いて貰いながらも、俺は運転を続ける。

 姉貴達は優しいけど、ここに石田の兄貴が居たら、多分殴られてる。

 泣いてる場合じゃない。

 これから“刃裟羅”とも戦り合うんだ。

 俺は再び、気を引き締めるのだった。

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