22話 御守りが手榴弾
俺の名前は苗木宗佑。結城組の舎弟だ。
この日、結城組の全ての構成員が事務所に集められた。
皆の前に出てきたのは、長こと結城組長。
長は殺し屋クーガーからの奇襲を受け、今まで入院していた。
そして今日、ついに復帰してきたんだ。
その隣には、塚原のカシラも付いている。
「…こうして顔を合わせるのは久しぶりだな。皆、よく集まってくれた」
「とんでもねェっス!」
「長が居なきゃ始まりませんよ!」
「どこまでもついて行きますよ!長!」
構成員から次々と賛美の声が上がる。
本人の人柄もあってか、長は下からの信頼が厚い。
かく言う俺も、この人の背中で見せる組長像に、憧れを抱きつつある。
塚原のカシラが構成員達を宥めると、長は本題に入った。
「…今日集まってもらったのは他でもない。“刃裟羅”についてだ」
さっきまでのにこやかな表情から一変。
真剣な眼差しを俺達一人一人に向ける。
「先日、蓼丸、仙堂、夏目の3人が、“刃裟羅”のトップ 神木蓮と接触した」
“刃裟羅”…。
俺達結城組と敵対関係にある組織。
暴力、人攫いから、殺人まで平気で行う救いのない連中だ。
俺の親友 山井義成も、“刃裟羅”No.3 牧浦遊真によって殺されたんだ。
接触した時のことを思い出しているのか、蓼丸の兄貴と仙堂の兄貴の目には怒りが宿っていた。
「解ったのは、奴らが赤木町の利権を狙ってること。弱者を傷つけることに何とも思ってねェこと。そして何より、結城組をナメているということだ」
長が鋭い眼光を放つ。
普段は温厚な人だが、やはり複数の武闘派をまとめ上げるだけあって威圧感も半端ない。
「加えてクーガーという殺し屋を雇っていることも判明した。奴には俺と海星が襲撃されている。これまで膠着状態が続いていたが、流石にもう生かしちゃおけねェだろう」
長は再び全員の目を見た。
「結城組は本格的に“刃裟羅”殲滅へと乗り出す!トップの神木、並びに幹部連中とクーガー。奴らを全員この世から消せ!」
「「「「「はい!!!!」」」」」
俺達は気合いを入れた返事をする。
こうして“刃裟羅”のトップ層への殺害命令が下された。
後に結羅戦争と呼ばれるこの戦いは、ここから本格化していく。
「宗〜佑♪」
「黒宮の姉貴……」
解散後、黒宮の姉貴が話しかけてきた。
この人とは“琵出御”粛清後、交流ができた。
最近飲みに誘われて、石田の兄貴との思い出話を聞かされている。
「この後どうするの?」
「そうですね…。今日のシノギまでまだ時間ありますし、見回りに行こうかと」
“刃裟羅”に集中したいところではあるが、シノギも無視できないんだよな…。
「だったらさ、車出してくれない?海星にさっきのお話聞かせてあげなきゃ」
「そうですね。すぐに出します」
入院中の石田の兄貴は、唯一あの場に居なかった。
もしかしたら、既に長やカシラから話を聞いているかもしれない。
だけど、ここから本格的に“刃裟羅”を叩くんだ。
俺もせめて顔を合わせとかないと。
「よぉ。海星のとこ行くんだな?」
車に向かおうとしていると、後ろから低い女性の声が聞こえた。
俺は振り返る。
そこに立っていたのは、背の高い女性だった。
長い金色の髪を一纏めに結んでいて、山吹色の法被みたいな上着を着ている。
両手の甲には、花火みたいな入れ墨。
そして左側の首元から鎖骨の辺りまで、火傷の痕が目立つ。
この人の名前は確か…椿野燈子。
「椿姉も来る〜?」
「あぁ。丁度今から見舞いに行くとこだったんだよ。これも渡しておきたくてな」
椿野の姉貴はそう言って、白くて小さい布袋を見せてきた。
もしかして、見舞いの品だろうか。
「椿野の姉貴、それ何ですか?」
「あぁ、これな。手榴弾」
「はぁああ!!?」
平然ととんでもないことを言う姉貴に、俺は驚く。
近くに居た組員達が皆、怪訝そうに俺を見てきた。
俺は彼らに謝りつつ、話を戻す。
「お見舞いに手榴弾って、なに考えてるんですか!?」
「ピン抜かなきゃ大丈夫だって〜。それに、入院中に襲われるかもしれないだろう?だったら護身用に持っててもいいだろ。御守り代わりだよ。御守り代わり」
椿野の姉貴はヘラヘラしながらそう言った。
そういえばこの人って、火薬庫を管理してたっけ…。
その手榴弾も、そこから持ってきたのか。
ていうか、こんなイカれた人に火薬庫を任せて大丈夫なのかよ…。
「それより…。お前が苗木だな?今海星が面倒見てるっていう」
「えっ…?あぁ…はい……」
椿野の姉貴が唐突に話題を変えてきた。
「海星のこと、どう思ってる?」
「どうって、そうですね…。メチャクチャ厳しくて、ヘマする度にシメられてます。ですけど、筋は通すんですよね。ちゃんとアドバイスもしてくれますし。最初怖いと思ってたんですけど、意外と優しい人です」
「宗佑、解ってる〜♪」
俺の石田の兄貴への見解が良かったのか、黒宮の姉貴が上機嫌になる。
椿野の姉貴も、微笑を浮かべて頷いていた。
「だろう?海星は俺達が育て上げたんだからな。とはいえあいつ、組のために無茶するところがあるからな。お前もよく見といてやってくれ」
「はい。解りました!」
「つー訳で、闇医者へ出発だ」
「おー♪」
「車出してきます!」
俺は事務所の外へ走っていく。
椿野の姉貴…。
多少おかしいところはあるけど、もしかしたら、結構良い人なのかもしれない。
石田の兄貴が居る病院へ向けて、俺は車を走らせる。
助手席には椿野の姉貴。
後部座席には、黒宮の姉貴が乗っている。
走行中暇なのか、椿野の姉貴が話しかけてきた。
「なぁ苗木。お前、なんで結城組に入ったんだ?」
「えぇと……褒められるような理由じゃないですよ?」
「皆が皆、大層なモンを抱えて入ってくる訳じゃねェよ。とにかく暴れたい。名を売りたい。カッコよさそう。そういうのばっかだ」
「そういうもんスか……」
「私も気になる。宗佑が入ってきた理由」
黒宮の姉貴にまで興味を持たれてしまった。
話しづらくはあるが、ここは言っとくしかないか。
「俺、孤児院出身なんですけど、そこで一緒に育った奴が居たんですよ。ですがそいつが、“刃裟羅”の牧浦に殺されまして…。それで、復讐のために入ったんです」
「…」
「……」
俺が話すと、2人は黙ってしまった。
石田の兄貴は激怒したけど、姉貴達はどう思ってるんだろう…。
何にしても、沈黙は気まずい。
「……その…ごめんね、宗佑」
葬式ムードの中、黒宮の姉貴がガチトーンで謝ってきた。
「デリケートなこと聞いちゃった……」
「いやいや!気にしないでください!俺ももう目が覚めたんで!今は赤木町のために戦う所存でございます!!」
俺は動揺で若干言葉が変になる。
「言い出しっぺは俺だ。すまない苗木」
椿野の姉貴にまで謝られた。
「姉貴、俺は気にしてないんで…!」
「孤児院で幼馴染…もはや家族同然だろう。胸が裂けそうになるよな……」
椿野の姉貴は、しみじみとそう言った。
この切ない雰囲気。
もしかして、姉貴も誰かを亡くしてるのか…。
「あの…椿野の姉貴……」
俺が姉貴のことを訊こうとしたその時…。
「ッ…!!苗木止めろ!!」
椿野の姉貴が、突然叫んだ。
なんと、前方に少女が飛び出してきたんだ。
「うぉおおおおおおおおおお_____!!!」
頼む。間に合え。
俺は絶叫しながら、急ブレーキを掛けた。
車はなんとか少女の目の前で止まった。
「ッ……!!」
少女は血の気が引いた顔で、車道の上に倒れた。
「やべっ!」
「大丈夫!?」
俺と黒宮の姉貴が慌てて車から降り、少女の元へと向かう。
椿野の姉貴も、降りようとした。
「……?」
その時、姉貴は見ていたんだ。
現場から走り去る、別の少女達の姿を。




