21話 “刃裟羅”のトップ
半グレ“黒悪火”のアジトは、緊張感に包まれていた。
蓼丸、仙堂、夏目の前に現れたのは、“刃裟羅”トップ 神木蓮。
俺達が捜し求めていた相手が、普通に目の前に立ってやがる。
「はじめまして。蓼丸さんと仙堂さんと、その舎弟君。結城組の強い人達に会えて光栄だぁ。あっ、でもこういう挨拶って、先に組長さんにするべきだったかなぁ」
神木は飄々とした態度で喋る。
コイツ、敵対組織を前にしてやけに友好的だ。
「神木ィ、会えて嬉しいわ。丁度お話したいと思ってたんや」
蓼丸は敢えて敵対心剥き出しで言い放つ。
うちのシマは、主にコイツの組織に荒らされてんだ。
ムカついて当然だろう。
「いいよ。強い人との対話、楽しそうだし」
神木は相変わらず余裕そうだ。
見たところ、コイツはまだ若い。
だが蓼丸と仙堂を前に1ミリも臆してねェ。
流石は1組織のトップといったところか。
余裕の笑みを浮かべる神木に、蓼丸が話を切り出す。
「クーガーって殺し屋に、うちの長と若いのが襲われた。単刀直入に訊くけど、クーガー雇ったのお前らか?」
「そうだよ。よく解ったね」
神木の野郎は、あっさり肯定しやがったんだ。
普通否定するなり惚けるなりして躱すモンだ。
奴とは対称的に、蓼丸の声に怒気が籠る。
「お前、自分がやっとること解っとるんか?」
「勿論。きみ達結城組に喧嘩を売ってるんだ」
神木はどこまでも平常だった。
当たり前のように全部バラしやがった。
完全にナメてやがる。それでも蓼丸は、聞き取りを続けた。
「目的は赤木町か?俺ら殺して利権奪おうってか?」
「そうだね。裏の世界の頂点に立ちたくてさ。その足がかりとして、赤木町から貰っちゃおうと思ってね」
「俺らはあくまで前座かい。そんなにデカなってどうすんねん?」
「どうするって、別に?今と変わらないんじゃない?」
神木はここにきて、不思議そうに首を傾げた。
「お前…裏社会のてっぺんに立ちたいんやろ?ほんならそれなりの理由とかあるやろ」
「別に?僕からすれば、ただのゲームみたいなものだし」
「ゲームやと…?」
蓼丸の眉間にしわが寄る。
「自分で言うのも難だけど、俺って生まれつき天才でさぁ、案の定表の世界はイージーモードだったんだよね。でも表じゃさぁ、何でも上手くいきすぎてつまらないんだよね。それに普通に働き始めたなら、僕より無能な相手に頭を下げ続ける日々になる訳じゃん。それが嫌でさぁ…」
神木は薄ら笑いを浮かべながら続ける。
「だから裏社会に入ったんだ。ここなら力が全てでしょ?表よりも自由が利くし、常に生きるか死ぬかの痺れる環境。頂点を目指すにはうってつけだと思わない?」
刃裟羅トップ 神木蓮。
コイツには、信念なんてなかった。
ただ楽しいかどうか。
奴の中にあるのは、それだけだ。
「どう思おうが勝手やけどなぁ、やってええことと悪いことがあるやろ」
結城組を含め全てを舐め腐ってる態度に、蓼丸は完全にブチギレていた。
「お前ンとこの奴らに、うちのシマのカタギが襲われてんねん。うちの舎弟にもダチを殺された奴がおんねん。自分の組織の統制も取れんで、何が裏社会の頂点や」
「力の無い奴は強者に有効に使われる。表だろうが裏だろうが、それが常でしょ。俺の部下にやられるのだって、弱いのがいけないんだよ」
「……蓼丸の兄貴ィ。コイツぶっ殺してもいいですよねェ?」
最早開き直りとも取れる神木の発言に、仙堂も憤る。
前傾姿勢になり、今にも襲い掛かろうとしている。
それを横目に見る蓼丸…。
答えは1つだった。
「ええで、仙堂。ぶっ殺せ」
蓼丸がそう言った途端、仙堂がスタートを切った。
「夏目、お前は下がっとれ」
「はっ…はい!」
相手は“刃裟羅”のトップ。その実力は確かだろう。
佇まいからして、下手に手を出せば死ぬと踏んだ蓼丸は、夏目を後ろに下げた。
「地球の裏まで吹っ飛べやぁアアアアアアアア!!!」
仙堂が放つのは、助走が乗った飛び蹴り。
ベンガルトラを彷彿させるような勢いで迫る。
「いいね。遊ぼうか」
神木は涼しい顔で、体をズラす。
その結果、仙堂は神木の横を通り抜けた。
「チィ____!!」
仙堂は部屋の入り口で着地。
神木は既にナイフを抜いていた。
仙堂の無防備な背中に突き立てようとする。
しかし奴は、背後に僅かな殺気を感じ取った。
神木は瞬時にしゃがむ。
その刹那…。
“ドン______!!”
奴の頭上を、弾丸が通り抜けた。
撃ったのは蓼丸だ。
「タイマンとは言っとらんで。天才君」
「へぇ……」
神木の目が楽しそうに輝く。
「おい、ぺしゃんこだぜェ」
仙堂は既に立ち上がっていた。
後ろから神木の背中を踏み潰しに掛かる。
神木は転がって回避。
程なくして…。
“ドガン!!!”
仙堂の踏みつけが、コンクリートの床に蜘蛛の巣状ひびを入れた。
「これだから裏社会は楽しい」
そう言って神木が飛び出す。
異様に速い。カウンターの逆袈裟が飛ぶ。
「うおっとォ!!!」
仙堂はギリギリでそれを弾いた。
互いの距離が近い。
流れで真正面での斬り合いに移る。
「クソ野郎の割にやるじゃねェかァアアアアア!!!」
「凄いや。竜巻みたいだ」
強者を前にして、仙堂の顔に狂気的な笑みが戻る。
蹴りも強力だが、コイツの剣圧は異常値だ。
神木の体から血飛沫が舞う。
流れ自体は、仙堂に傾いて見えるだろう。
だが、蓼丸の見解は違った。
(あのクソ…。全部皮一枚やな。その上俺に撃たせんよう仙堂を盾にしとる。技術も判断力も高いレベルや)
そもそも仙堂と真正面からやり合える奴なんざ、そう居ねェ。
蓼丸は斬り合いの中で、神木の能力の高さを見抜く。
だが、神木の驚異はここからだった。
「流石仙堂さん。凄いパワーだ。…まぁ、ちょっと慣れてきたかな」
戦況は唐突に変わった。
神木が仙堂の猛攻に対応し始めたんだ。
仙堂のナイフを、柳の葉のように受け流していく。
次第に仙堂の方が血飛沫を上げ始めた。
(天才ってのは口だけじゃねェようだなァ!)
斬られながらも、仙堂は神木を認め始めていた。
神木はもう、仙堂のナイフの癖を完全に見抜いている。
そして奴のナイフが通り抜ける。
「はい通った」
“ビュッ____!!”
「うおっ!!」
当然のように入る刺突。
だが仙堂はギリギリで反応。
ナイフは左の脇腹を掠めるだけに留まった。
とはいえ、コイツはタダじゃ帰さない。
「これ通るよなァ!!」
神木のナイフが通り抜けると同時に、仙堂の右足が跳ね上がる。
繰り出したのは、カウンターのハイキックだ。
「おっと」
神木は左腕を入れてガードした。
だが、そんなんで止まる訳がない。
神木は簡単にふっ飛ばされた。
「凄いや」
飛ばされながらも、神木は笑っていた。
奴は瞬時にチャカを抜く。
その銃口は、なんと蓼丸に向いていた。
(何やと!?)
蓼丸は神木が射線に入れば、いつでも撃つつもりで構えていた。
だが、神木はそれを想定していた。
そして飛ばされてる途中で弾きやがった。
“ドン________!!”
「危なァああああああ!!」
蓼丸は間一髪で直撃を回避した。
神木は床に転がるも、瞬時に起き上がる。
奴は余裕そうに左腕をブラブラと振っていた。
「エグいなぁ、今の蹴り。左腕が痺れてる」
その様子を見て、仙堂は舌打ちをする。
(あの野郎、蹴りに合わせて跳びやがったなァ?)
仙堂の思う通り、神木はハイキックが左腕に当たるタイミングで横に跳んでいた。
それにより威力を殺したんだ。
今の一撃、ダメージはほぼ0ってとこだろう。
(ふりやろうけど、なんで飛ばされながら照準合うねん。機械ちゃうやろコイツ)
そう思いつつ、蓼丸はチャカを仕舞う。
そして得物であるククリナイフを取り出した。
「せやったら俺も、近距離で行ってみよか!!」
今度は蓼丸が接近戦を仕掛けた。
神木は嬉しそうにナイフを構える。
だが刃がぶつかり合う直前…。
「まともちゃうで。俺は」
蓼丸が白くてデカい布を投げた。
神木の視界が塞がれる。
「へぇ…」
神木は感心しながらも、布を斬り裂いた。
視界がすぐに開ける。
蓼丸は左サイドに立っていた。
「腸ぶちまけろや」
そこからククリナイフの逆袈裟を放つ。
「おっと危ない」
神木はギリギリで回避。
その一撃は胸を浅く斬るだけに留まった。
ここで蓼丸が追い打ちを掛ける。
「串カツなっとけ」
蓼丸の左手を伸ばす。
すると袖口から、3本の針が発射された。
流石の神木も、これは予想外。
「危なっ!」
どうにか反応するが、1本が頬を切った。
蓼丸は既に前に出て、ククリナイフを振り上げていた。
「もろたで」
蓼丸の腕の筋肉が隆起する。
神木は体勢が悪い。
(受けるしかないか)
奴はナイフで受けにいく。
次の瞬間…。
“ガキン___!!”
強烈な金属音が鳴り響く。
蓼丸のククリナイフが、神木のナイフにぶつかった。
ククリ特有の刃の厚さ。
それが抜群の破壊力を生む。
蓼丸が強引に振り抜くと同時、神木はその勢いを利用して後ろに跳んだ。
(コイツまた!)
神木は跳びながら振り返る。
その先に居るのは仙堂だ。
「いいねェ!!!もういっぺんやるかァ!!?」
仙堂が迎え撃ちに掛かる。
「さっきより強いよ」
神木は勢いが乗った一刀を振り落とす。
「オラァ!!!」
仙堂はそれをナイフで受ける。
勢いが乗った一撃を、仙堂は単純な筋力で止めた。
「力むとすぐには動けないよね」
神木が言った通り、仙堂に僅かな隙が生じる。
奴はそこを突く。
思いっ切り床を踏み抜いた。
(震脚やと!?)
蓼丸が目を見開く。
神木が放ったのは、発勁。
掌底が仙堂の腹に突き刺さる。
「ガハァアアアアアアアアアア_____!!!」
あの仙堂が、吹き飛ばされた。
奴は血を吐きながら、壁に叩きつけられる。
そのまま床に崩れ落ちた。
「仙堂の兄貴!!」
夏目が思わず叫ぶ。
「お前…中国の拳法家に弟子入りでもしとったんか?」
「別に。やり方だけ調べたらできるようになったよ。俺天才だし」
独学でここまでの威力。腹立たしいくらいの才能だ。
神木は余裕そうに体を伸ばす。
今ので終わったとでも思ったんだろう。
だが、仙堂はこれくらいで沈むタマじゃない。
「ゲフッ……腹が爆発したかと思ったぜェ」
仙堂はゆっくりと立ち上がる。
ダメージはデカい。
だが仙堂の肉食獣のような目は、未だにギラついている。
コイツは生粋の戦闘狂。
相手が強ければ強いほど燃え上がる。
「さぁ、続きやろうぜェ」
仙堂が口角を上げながら、前のめりになる。
瞬時に間合いを詰める時の構えだ。
「フフッ。結城組、面白いなぁ」
神木の野郎は素直に褒め称える。
そして自然な動作でナイフを仕舞った。
「楽しみは取っておこう。遅かれ早かれ殺すんだから」
そう言った途端、神木が速射。
「アギッ_____!!!」
その弾丸は、“黒悪火”のトップ 大林の頭蓋を貫いた。
大林は目を見開いたまま即死した。
「逃げんのか!?」
「待てコラァ!!!」
蓼丸と仙堂が前に飛び出す。
たが2人が届くより先に、神木は煙玉を床に叩きつけた。
部屋の中が白煙に包まれる。
「チッ…。やられたわ」
蓼丸が舌打ちをする。
煙が晴れた頃には、神木は完全に姿を消していた。
「クソがァ!!ここからだろうがよォ!!!」
仙堂が八つ当たりで壁を蹴る。
それは部屋を揺らし、壁にひびを入れる程の衝撃だった。
「……蓼丸の兄貴、どうしましょう?」
夏目はそんな仙堂にビビリつつも、蓼丸に指示を仰ぐ。
「とうしようもない。まぁ、奴の思想も聞けたし、一戦交えただけでもデカいやろ。夏目、仙堂、一旦帰るで」
「はい」
「チッ…。了解でェす」
こうして3人は、“黒悪火”のアジトから立ち去った。
“刃裟羅”トップ 神木蓮。
コイツは蓼丸と仙堂を相手に、ずば抜けた能力を発揮した。
だが奴の恐ろしさは、ここからだったんだ。




