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結城組  作者: マー・TY
21/24

21話 “刃裟羅”のトップ

 半グレ“黒悪火”のアジトは、緊張感に包まれていた。

 蓼丸、仙堂、夏目の前に現れたのは、“刃裟羅”トップ 神木蓮。

 俺達が捜し求めていた相手が、普通に目の前に立ってやがる。

「はじめまして。蓼丸さんと仙堂さんと、その舎弟君。結城組の強い人達に会えて光栄だぁ。あっ、でもこういう挨拶って、先に組長さんにするべきだったかなぁ」

 神木は飄々とした態度で喋る。

 コイツ、敵対組織を前にしてやけに友好的だ。

「神木ィ、会えて嬉しいわ。丁度お話したいと思ってたんや」

 蓼丸は敢えて敵対心剥き出しで言い放つ。

 うちのシマは、主にコイツの組織に荒らされてんだ。

 ムカついて当然だろう。

「いいよ。強い人との対話、楽しそうだし」

 神木は相変わらず余裕そうだ。

 見たところ、コイツはまだ若い。

 だが蓼丸と仙堂を前に1ミリも臆してねェ。

 流石は1組織のトップといったところか。

 余裕の笑みを浮かべる神木に、蓼丸が話を切り出す。

「クーガーって殺し屋に、うちの長と若いのが襲われた。単刀直入に訊くけど、クーガー雇ったのお前らか?」

「そうだよ。よく解ったね」

 神木の野郎は、あっさり肯定しやがったんだ。

 普通否定するなり惚けるなりして躱すモンだ。

 奴とは対称的に、蓼丸の声に怒気が籠る。

「お前、自分がやっとること解っとるんか?」

「勿論。きみ達結城組に喧嘩を売ってるんだ」

 神木はどこまでも平常だった。

 当たり前のように全部バラしやがった。

 完全にナメてやがる。それでも蓼丸は、聞き取りを続けた。

「目的は赤木町か?俺ら殺して利権奪おうってか?」

「そうだね。裏の世界の頂点に立ちたくてさ。その足がかりとして、赤木町から貰っちゃおうと思ってね」

「俺らはあくまで前座かい。そんなにデカなってどうすんねん?」

「どうするって、別に?今と変わらないんじゃない?」

 神木はここにきて、不思議そうに首を傾げた。

「お前…裏社会のてっぺんに立ちたいんやろ?ほんならそれなりの理由とかあるやろ」

「別に?僕からすれば、ただのゲームみたいなものだし」

「ゲームやと…?」

 蓼丸の眉間にしわが寄る。

「自分で言うのも難だけど、俺って生まれつき天才でさぁ、案の定表の世界はイージーモードだったんだよね。でも表じゃさぁ、何でも上手くいきすぎてつまらないんだよね。それに普通に働き始めたなら、僕より無能な相手に頭を下げ続ける日々になる訳じゃん。それが嫌でさぁ…」

 神木は薄ら笑いを浮かべながら続ける。

「だから裏社会に入ったんだ。ここなら力が全てでしょ?表よりも自由が利くし、常に生きるか死ぬかの痺れる環境。頂点を目指すにはうってつけだと思わない?」

 刃裟羅トップ 神木蓮。

 コイツには、信念なんてなかった。

 ただ楽しいかどうか。

 奴の中にあるのは、それだけだ。

「どう思おうが勝手やけどなぁ、やってええことと悪いことがあるやろ」

 結城組を含め全てを舐め腐ってる態度に、蓼丸は完全にブチギレていた。

「お前ンとこの奴らに、うちのシマのカタギが襲われてんねん。うちの舎弟にもダチを殺された奴がおんねん。自分の組織の統制も取れんで、何が裏社会の頂点や」

「力の無い奴は強者に有効に使われる。表だろうが裏だろうが、それが常でしょ。俺の部下にやられるのだって、弱いのがいけないんだよ」

「……蓼丸の兄貴ィ。コイツぶっ殺してもいいですよねェ?」

 最早開き直りとも取れる神木の発言に、仙堂も憤る。

 前傾姿勢になり、今にも襲い掛かろうとしている。

 それを横目に見る蓼丸…。

 答えは1つだった。

「ええで、仙堂。ぶっ殺せ」

 蓼丸がそう言った途端、仙堂がスタートを切った。

「夏目、お前は下がっとれ」

「はっ…はい!」

 相手は“刃裟羅”のトップ。その実力は確かだろう。

 佇まいからして、下手に手を出せば死ぬと踏んだ蓼丸は、夏目を後ろに下げた。

「地球の裏まで吹っ飛べやぁアアアアアアアア!!!」

 仙堂が放つのは、助走が乗った飛び蹴り。

 ベンガルトラを彷彿させるような勢いで迫る。

「いいね。遊ぼうか」

 神木は涼しい顔で、体をズラす。

 その結果、仙堂は神木の横を通り抜けた。

「チィ____!!」

 仙堂は部屋の入り口で着地。

 神木は既にナイフを抜いていた。

 仙堂の無防備な背中に突き立てようとする。

 しかし奴は、背後に僅かな殺気を感じ取った。

 神木は瞬時にしゃがむ。

 その刹那…。

“ドン______!!”

 奴の頭上を、弾丸が通り抜けた。

 撃ったのは蓼丸だ。

「タイマンとは言っとらんで。天才君」

「へぇ……」

 神木の目が楽しそうに輝く。

「おい、ぺしゃんこだぜェ」

 仙堂は既に立ち上がっていた。

 後ろから神木の背中を踏み潰しに掛かる。

 神木は転がって回避。

 程なくして…。

“ドガン!!!”

 仙堂の踏みつけが、コンクリートの床に蜘蛛の巣状ひびを入れた。

「これだから裏社会は楽しい」

 そう言って神木が飛び出す。

 異様に速い。カウンターの逆袈裟が飛ぶ。

「うおっとォ!!!」

 仙堂はギリギリでそれを弾いた。

 互いの距離が近い。

 流れで真正面での斬り合いに移る。

「クソ野郎の割にやるじゃねェかァアアアアア!!!」

「凄いや。竜巻みたいだ」

 強者を前にして、仙堂の顔に狂気的な笑みが戻る。

 蹴りも強力だが、コイツの剣圧は異常値だ。

 神木の体から血飛沫が舞う。

 流れ自体は、仙堂に傾いて見えるだろう。

 だが、蓼丸の見解は違った。

(あのクソ…。全部皮一枚やな。その上俺に撃たせんよう仙堂を盾にしとる。技術も判断力も高いレベルや)

 そもそも仙堂と真正面からやり合える奴なんざ、そう居ねェ。

 蓼丸は斬り合いの中で、神木の能力の高さを見抜く。

 だが、神木の驚異はここからだった。

「流石仙堂さん。凄いパワーだ。…まぁ、ちょっと慣れてきたかな」

 戦況は唐突に変わった。

 神木が仙堂の猛攻に対応し始めたんだ。

 仙堂のナイフを、柳の葉のように受け流していく。

 次第に仙堂の方が血飛沫を上げ始めた。

(天才ってのは口だけじゃねェようだなァ!)

 斬られながらも、仙堂は神木を認め始めていた。

 神木はもう、仙堂のナイフの癖を完全に見抜いている。

 そして奴のナイフが通り抜ける。

「はい通った」

“ビュッ____!!”

「うおっ!!」

 当然のように入る刺突。

 だが仙堂はギリギリで反応。

 ナイフは左の脇腹を掠めるだけに留まった。

 とはいえ、コイツはタダじゃ帰さない。

「これ通るよなァ!!」

 神木のナイフが通り抜けると同時に、仙堂の右足が跳ね上がる。

 繰り出したのは、カウンターのハイキックだ。

「おっと」

 神木は左腕を入れてガードした。

 だが、そんなんで止まる訳がない。

 神木は簡単にふっ飛ばされた。

「凄いや」

 飛ばされながらも、神木は笑っていた。

 奴は瞬時にチャカを抜く。

 その銃口は、なんと蓼丸に向いていた。

(何やと!?)

 蓼丸は神木が射線に入れば、いつでも撃つつもりで構えていた。

 だが、神木はそれを想定していた。

 そして飛ばされてる途中で弾きやがった。

“ドン________!!”

「危なァああああああ!!」

 蓼丸は間一髪で直撃を回避した。

 神木は床に転がるも、瞬時に起き上がる。

 奴は余裕そうに左腕をブラブラと振っていた。

「エグいなぁ、今の蹴り。左腕が痺れてる」

 その様子を見て、仙堂は舌打ちをする。

(あの野郎、蹴りに合わせて跳びやがったなァ?)

 仙堂の思う通り、神木はハイキックが左腕に当たるタイミングで横に跳んでいた。

 それにより威力を殺したんだ。

 今の一撃、ダメージはほぼ0ってとこだろう。

(ふりやろうけど、なんで飛ばされながら照準合うねん。機械ちゃうやろコイツ)

 そう思いつつ、蓼丸はチャカを仕舞う。

 そして得物であるククリナイフを取り出した。

「せやったら俺も、近距離で行ってみよか!!」

 今度は蓼丸が接近戦を仕掛けた。

 神木は嬉しそうにナイフを構える。

 だが刃がぶつかり合う直前…。

「まともちゃうで。俺は」

 蓼丸が白くてデカい布を投げた。

 神木の視界が塞がれる。

「へぇ…」

 神木は感心しながらも、布を斬り裂いた。

 視界がすぐに開ける。

 蓼丸は左サイドに立っていた。

「腸ぶちまけろや」

 そこからククリナイフの逆袈裟を放つ。

「おっと危ない」

 神木はギリギリで回避。

 その一撃は胸を浅く斬るだけに留まった。

 ここで蓼丸が追い打ちを掛ける。

「串カツなっとけ」

 蓼丸の左手を伸ばす。

 すると袖口から、3本の針が発射された。

 流石の神木も、これは予想外。

「危なっ!」

 どうにか反応するが、1本が頬を切った。

 蓼丸は既に前に出て、ククリナイフを振り上げていた。

「もろたで」

 蓼丸の腕の筋肉が隆起する。

 神木は体勢が悪い。

(受けるしかないか)

 奴はナイフで受けにいく。

 次の瞬間…。

“ガキン___!!”

 強烈な金属音が鳴り響く。

 蓼丸のククリナイフが、神木のナイフにぶつかった。

 ククリ特有の刃の厚さ。

 それが抜群の破壊力を生む。

 蓼丸が強引に振り抜くと同時、神木はその勢いを利用して後ろに跳んだ。

(コイツまた!)

 神木は跳びながら振り返る。

 その先に居るのは仙堂だ。

「いいねェ!!!もういっぺんやるかァ!!?」

 仙堂が迎え撃ちに掛かる。

「さっきより強いよ」

 神木は勢いが乗った一刀を振り落とす。

「オラァ!!!」

 仙堂はそれをナイフで受ける。

 勢いが乗った一撃を、仙堂は単純な筋力で止めた。

「力むとすぐには動けないよね」

 神木が言った通り、仙堂に僅かな隙が生じる。

 奴はそこを突く。

 思いっ切り床を踏み抜いた。

(震脚やと!?)

 蓼丸が目を見開く。

 神木が放ったのは、発勁。

 掌底が仙堂の腹に突き刺さる。

「ガハァアアアアアアアアアア_____!!!」

 あの仙堂が、吹き飛ばされた。

 奴は血を吐きながら、壁に叩きつけられる。

 そのまま床に崩れ落ちた。

「仙堂の兄貴!!」

 夏目が思わず叫ぶ。

「お前…中国の拳法家に弟子入りでもしとったんか?」

「別に。やり方だけ調べたらできるようになったよ。俺天才だし」

 独学でここまでの威力。腹立たしいくらいの才能だ。

 神木は余裕そうに体を伸ばす。

 今ので終わったとでも思ったんだろう。

 だが、仙堂はこれくらいで沈むタマじゃない。

「ゲフッ……腹が爆発したかと思ったぜェ」

 仙堂はゆっくりと立ち上がる。

 ダメージはデカい。

 だが仙堂の肉食獣のような目は、未だにギラついている。

 コイツは生粋の戦闘狂。

 相手が強ければ強いほど燃え上がる。

「さぁ、続きやろうぜェ」

 仙堂が口角を上げながら、前のめりになる。

 瞬時に間合いを詰める時の構えだ。

「フフッ。結城組、面白いなぁ」

 神木の野郎は素直に褒め称える。

 そして自然な動作でナイフを仕舞った。

「楽しみは取っておこう。遅かれ早かれ殺すんだから」

 そう言った途端、神木が速射。

「アギッ_____!!!」

 その弾丸は、“黒悪火”のトップ 大林の頭蓋を貫いた。

 大林は目を見開いたまま即死した。

「逃げんのか!?」

「待てコラァ!!!」

 蓼丸と仙堂が前に飛び出す。

 たが2人が届くより先に、神木は煙玉を床に叩きつけた。

 部屋の中が白煙に包まれる。

「チッ…。やられたわ」

 蓼丸が舌打ちをする。

 煙が晴れた頃には、神木は完全に姿を消していた。

「クソがァ!!ここからだろうがよォ!!!」

 仙堂が八つ当たりで壁を蹴る。

 それは部屋を揺らし、壁にひびを入れる程の衝撃だった。

「……蓼丸の兄貴、どうしましょう?」

 夏目はそんな仙堂にビビリつつも、蓼丸に指示を仰ぐ。

「とうしようもない。まぁ、奴の思想も聞けたし、一戦交えただけでもデカいやろ。夏目、仙堂、一旦帰るで」

「はい」

「チッ…。了解でェす」

 こうして3人は、“黒悪火”のアジトから立ち去った。

 “刃裟羅”トップ 神木蓮。

 コイツは蓼丸と仙堂を相手に、ずば抜けた能力を発揮した。

 だが奴の恐ろしさは、ここからだったんだ。

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