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脱獄

 イサムはローブの腰の辺りを探った。

 隠しポケットを付けていたのだ。布をクッションのように詰めていて、外からの手触りでは物があるとはわからないから、小型の道具ぐらいはこのポケットに隠しおおせると踏んでいた。

 案の定ボディチェックをすり抜けて、解錠のためのピックなんかを持ち込めた。

 貴重品は道中の宿に預けてあるが、さすがに荷物が全くないのは怪しまれるので、生活雑貨を入れた小袋くらいはもっていたが、すでに没収されて、階段下の机の上に置かれている。

 そして、そこには脇差しが二本と刀が一本立て掛けられていた。

 もちろん、神奈の得物だ。


「……なんで武器を持ち込むんだよ。とられちゃうだろ。せめて隠せよ」

「隠すってどうやって?」

「全部はともかく、脇差しの一本くらいならどうにでもなるだろ?どこかに持って行かれたら……」


 少しだけ口調がキツくなるイサムだったが、すぐに諦めた。


「……行かないよ?目の届く範囲からは消えない」


 そう、遠くへは引き離されないのだ。

 神奈はそのことをよく知っているし、イサムも分かってはいる。呪いのような物なのだから。


「さて、そろそろ……」

「脱獄する?」

「……そうだな。いま道具を出して……」


 監獄の閂は、小さな金属製の錠で固定されているが、それほど複雑で面倒そうなタイプではなさそうだった。

 解錠できる。

 隠しポケットからイサムがロックピックを取り出すとほぼ同時に、満面の笑みを浮かべた神奈は扉の側に近寄った。

 そして、格子を両手で握ると大きな声で階上に向かって呼びかけた。


「おーい、看守さーん!」

「おい、バカ!何してんだ!」

「え、外に出るんでしょ?」


 外に聞こえないように小声で神奈を止めようとしたイサムだったが、もう遅い。

 すぐに階段を一人の若い兵士がゆっくり降りてくる。


「静かにしろ!騒ぐな」


 革製の軽鎧に制式の鉄剣を腰に吊った若い男が降りてくる。ランプの灯りが丸い輪となって石壁を浮き上がらせた。


「ねえ、この人が脱獄しようとしてるよ!」

「おい!」

「な、なに!?」


 戸惑うイサムに不信を感じたのか、看守は小走りになって檻の前に近づいた。

 イサムは後ずさり、看守は慌てて鉄格子の前に歩み寄って鉄格子の中をのぞき込む。


「おまえ、なに企んでる?ここは砦で兵士もたくさんいるから逃げられんぞ!」

「い、いや。なにも企んでなんか……」

「別に逃げないよ?」


 固唾をのんで見守るイサムと、職務に忠実な兵士の前で、臆することのない神奈は軽く首を傾げて言った。


「砦に用事があるんだもの」

「へ?」


 間の抜けた看守の返事と同時に、神奈は素早く左手を格子の隙間から伸ばすと、腰に吊られた看守の鉄剣を抜いた。

 そして、そのまま身体を左回転させて逆袈裟に格子を切り上げ、返す剣で水平に薙ぎ払った。火花が飛び跳ね、同時に格子が大きく吹き飛んだ。ランプが宙を舞ったが、神奈が器用に剣に引っかける。

 中々の大きな音がして、扉の脇に出入り口が完成した。

 看守は突然のことに驚き、腰を抜かしてへたり込んだ。


「あ……あ……」


 声も出せずに後ろへずり下がる看守の首筋に、神奈は容赦なく剣の腹を打ち込む。看守はもんどり打って失神した。

 幸い、近くに兵士がいなかったのか誰も駆け込んでは来なかった。

 神奈はランプを床に下ろし、鉄剣を床に投げた、イサムはそれを見て頭を抱えた。


「おま……また斬鉄しやがって……騒ぎを起こすなよ」

「大丈夫だったでしょ」

「大丈夫だったじゃねえよ。しかも、こんな量産の、それも剣で無茶しやがって」

「自信はあったわよ?」

「……あのなぁ……」


 イサムはブツブツこぼしながら、ボロ布のフードを脱ぐと倒れている兵士の鎧を剥ぎ取って身につけた。ローブをマント代わりに羽織る。


「私も正装に替えるわ」


 こうして二人で潜入任務というのも何度目だろう。

 イサムはそんなことを考えながら机の上の荷物を回収する。

 その間に神奈は纏っていたボロ布を、マントを脱ぐように肩から勢いよく剥ぎ取ると、次の瞬間には東部諸国連合の民族衣装「着物」姿が現れた。黒地に紅い華の柄が大きく描かれ、山吹色の帯を胸高に締めて紅色の羽織を掛けている。


「いつもどうなってんだ?それ」

「内緒」

「……殺すなよ。王国の大事な戦力なんだ」

「分かってるわよ。人は斬らなかったでしょ」


 イサムから三本の得物を受け取った神奈は、脇差しを腰に差すと長刀は左手に鞘のまま握った。


「……おまえと仕事すると飽きねえ代わりに寿命が縮むよ」

「そのわりに元気そうよね」


 イサムはランプを拾い上げると、覆いを掛けて階段を上り始めた。


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