#007.いきなりバトル!
「全員、集まったな。ではこれより、戦闘訓練を行う。呼ばれた者は前へ」
入学式翌日の午後のこと。
全身黒のジャージに身を包んだ六花先生が、体育座りをしている私たちの目の前でそう告げた。
凛とした美しいとも言えるその顔とプロポーションで、ジャージすら着こなしている。
さて、なぜこんなことになっているかというと、それは今朝のHRことにまで遡るーー。
▼▼▼
「ーーさて、今日の午後はLHRということで、全ての科の1年生がそれぞれクラスメイトと交流を深めるべく何かしらの催し……もといレクリエーションをする予定だ。そして、当然だがうちのクラスもレクリエーションをする。その内容だがーー」
そこで、一瞬の間を空ける六花先生。
静かにそれを聞いていたみんなは、その答えを待ちわびんと限り期待の目を寄せる。
「アビリティ科たるもの、やはり互いを知るには互いのアビリティを知ることが1番の交流であると私は考える。よって、我が1年A組のレクリエーションはアビリティを使った1対1の試合形式の組手……要は戦闘を行ってもらおうと思う!」
「……え?」
その答えに、思わず声が漏れる……が、クラス一帯がザワつきはじめたのでその声は周りには聞こえなかったと思う。
そりゃそうだ。
普通、レクリエーションと言えばみんなで出来るゲームだったり、体を動かしたりするのが考えられる。
いや、戦闘も体は動かすけど。
「静かにしろ。まだ続きがある。なぜレクリエーションで戦闘?と思ったものも少なからずいるだろう」
少なからずどころか恐らく大半だと思いますよ、六花先生。
「まず、アビリティ科に入った以上は、最低限の戦闘はこなせるようになってもらわないといけない。皆もわかってるとは思うが、授業の中には実習……つまり実際ダンジョンに入ったりすることもある。それに必要単位の中には、最低でも冒険者ランクのブルーの取得も含まれる。もちろん、それが出来る見込みのある者がこの場に集まってるわけだが、それでも戦闘が苦手という者も恐らくいるだろう。それを踏まえ、今回のレクリエーションの主な目的はこれから3年間共にする仲間のことをよく知ること。どんなアビリティを使って、どんな動きが出来て、どんな思考をするのか。それをしっかり見て、これからに活かせていければと私は考えている」
しんと静まる教室。
納得したような人、面倒そうな顔の人、ニヤけてる人、オラわくわくそっぞみたいなオーラの人(晃太)ーー。
周囲を見渡せば、各々色んな顔をしているが試合をやる理由は理解したような雰囲気だった。
かくいう私もそんな感じである。
嫌というほどではないけど、ほぼ初対面の状態でこれから仲を深めるかもしれないクラスメイトといきなりバトルというのはなんか少し気が引けるなあ……。
△△△
と、時は戻って現在。
私たちがいるのは、アビリティ訓練用のアリーナ。
広さは学校の体育館くらい……というより、この学校の体育館の地下にあるので敷地面積はまんまである。
バスケットコート4面分の広さなので、平均かちょっと大きいかくらいだ。
「最初は神崎美穂と猫塚伊織だ。コートの中に入れ」
「はーい」
「は、はい」
いきなり名前を呼ばれ、少し驚きつつも立ち上がり指定されたコートの中へ足を踏み入れる。
私とは対照的に呑気な声で返事をした猫塚くんも、ゆっくりとした足取りで私の後にコートに入った。
事前に六花先生に言われた注意事項は以下のこと。
・試合時間は5分。その間にギブアップかどちらかが戦闘不能状態になった時点で試合終了。
・物理的な武器の使用は禁止。基本は己のアビリティと体術のみで戦うこと。その際、あからさまな人体の急所狙いはしないこと。
・コートはラインに沿って結界が貼られる。結界はアビリティが当たればマナを強制分解して霧散させるので、外に被害が及ぶ心配はなし。そして、体が激突した場合は壁のように硬く普通に痛いので注意すること。
・コート内にいる限り、死傷もしくは重症を負うような怪我はしないようになってるため、思いきりやってもよし。
コートの大きさはアリーナほぼ丸々。
壁から2m程離れたところに敷かれたラインの内が戦場となる。
審判を務める六花先生はコートのすぐ外に立っているが、他のみんなはゾロゾロと2階のギャラリーへと移動していく。
「美穂ちゃん……だっけ?よろしくねっ」
お互い、立ち位置に着いたところで手をひらひらとさせながら可愛らしい声で話しかけてくる猫塚くん。
黄土色の瞳を宿す人懐っこそうな目つき、長髪をまとめたサイドテール、グレーの指定ジャージは上は萌え袖風に手が半隠れしてて、長パンツも膝下くらいまで折って穿いている。
見た目は完全女の子、でも性別は本人曰く男の子……らしい。
「よろしく」
いくら見た目が可愛くても、アビリティ科に入ってくる以上は油断は出来ない。
「両者、準備はいいか?」
六花先生の声に、2人同時に頷く。
「では……始め!」
掛け声と同時に六花先生の隣で鳴り響くタイマーのブザー。
まずは先制攻撃を……!
「“アクーー」
手のひらを相手にかざし魔法を撃とうとした刹那ーー
「先手必勝っ!」
それより先に相手の右手が2本指で銃の形を作って、指先から何かを発射してきた。
「ーーッ!」
その何かのスピードに、詠唱をする暇も避ける余裕もなく、咄嗟に無詠唱で作った不出来な“プロテクト”を眼前に展開。
相手の攻撃は防いだものの、不出来な緑の盾は即座に割れてしまい消滅する。
「ありゃっ、防がれちゃった」
舌を出して軽い口調でそう言いつつ、また同じ構えをする相手。
今度はしっかりとーー!
「“プロテクト”!」
「バンッ!」
相手のその掛け声より早く、“プロテクト”を詠唱。
それにより、今度は相手の攻撃を盾が割れることなく防ぐことに成功。
スキル【詠唱破棄】により、通常必要な詠唱を無くし、魔法名を唱えるだけで私の魔法はその効力を100%引き出せる。
さっきの不出来な“プロテクト”は30%ほど言ったところだろうか。
正直、防げただけでも御の字の結界だった。
聞いた話によると、熟練の魔法使いにもなればスキルがなくともその経験値だけで詠唱破棄、もしくは無詠唱でも魔法が使えるらしい。
なのでさっきみたいな状況でも、完璧な“プロテクト”を貼れる人も世の中にはいるだろうけど、そんなのは今の私からすれば雲の上の話だ。
今は私が持ってる天才的なスキルと超範囲属性の魔法でこの相手をどうにかしないといけない。
さっき油断は出来ないって言ったけど訂正。
油断した瞬間に負ける相手、主観的に見て少なくとも同格の相手であると認識を改める。
自分がどんな魔法を使ってどんな戦い方をするのか。
それを見せて理解してもらえば、あとは適当にこなして勝ち負けとかはどうでもいいかなって思ってた自分をバカ野郎と言いたい気分だ。
相手が奇抜な人だろうと、アビリティ科に入ってる以上手を抜いて戦っていい人なんていない。
下手すれば、南くらい強い人もいるかも……。
いや、あそこまで強いのがそうそういてたまるかって話だけど。
「ありゃりゃ、今度は割れなかった。かったいなー。しかもそれ魔法だよねー?詠唱がなかったけど、それでこの感じ?しかも、さっきは割れたとはいえ無詠唱での魔法発動……美穂ちゃん、凄いね!天才的だよ!しかも、手加減したとはいえ僕の弾丸に反応出来るなんて中々良い反射神経してる!」
弾丸のように言葉を捲し立てる猫塚くん。
一見無邪気そうな反応に見えて、こちらのことをしっかり見ている。
そして多分だけど、自分の実力にも自信をちゃんと持っているタイプだ。
「褒めてくれてありがとう!猫塚くんのそれも、なんのアビリティか教えてくれないかな?」
「えー気になるー?じゃあ教えてあげる。僕のアビリティは超能力。得意なのは、念力を弾丸にして射撃することーーだよ!」
問いかけに親切に答えてくれながらも、指先を再び向けてきて弾丸を放ってくる。
その弾丸はさっきよりも速くてーー。
「ッァ!」
思わず貼っていた“プロテクト”に魔力を込めてさらに強化させまた弾丸を弾くことに成功するも、今度はその盾に亀裂が走っていた。
このままでは防戦一方になってしまう。
こっちからも仕掛けないとーー!
「“サンダーアロー”!」
咄嗟に思いついた攻撃、“プロテクト”の前方で魔法陣を展開させ、そこから矢を形取った雷を一直線に放つ。
早い、手軽、便利を個人的には揃えてると思っているテンプレ攻撃魔法、アロー系。
消費魔力量が少なく、攻撃性能も悪くない。
おまけに雷属性は発生から攻撃が到達するまで早い。
なので、これは命中したと思ったけど。
「ふいー……危なかったー。ちょっと、2個の魔法同時発動はズルじゃんや!」
当たるところで間一髪、猫塚くんはまたしても弾丸を撃って“サンダーアロー”と相殺させた後、そう文句をつけてきた。
あれを防がれるとなると、距離を詰めて戦う?
猫塚くんの超能力があの弾丸を撃つだけならそれが良い気はするけど、もし他の能力もあったらーーと考えかけたところでそれは捨てることにした。
これは互いを知るための戦い。
今は分からん殺しの可能性よりも、私らしい戦いを見せるほうがベスト!……なはず。
「“サンダーアロー”!」
再び雷の矢を猫塚くん目掛けて盾の前方から発射させる。
「よっ」
それを今度は弾丸で相殺させることなく横に走ってかわしていく。
私の“サンダーアロー”は、猫塚くんの弾丸に比べて速度は少し遅いくらい。
なので、これをいなされるのは織り込み済み。
「“アクアウェーブ”」
足元に大きな魔法陣を発動させ、魔法陣の外側から大量の水が溢れ出す。
そして、大量の水は魔法陣の内側を除きコート内を大きな波を立てながら周囲へと……というよりは、逃げ場を無くすように猫塚くんへ襲いかかる。
「水の無いところでこれだけのレベルの水属性魔法を……って言ってる場合じゃないね!?」
想定していたより焦る様子を見せてコートの端まで駆けていく猫塚くん。
波の高さは、私の身体を隠すのに充分。
であれば……!
“プロテクト”を解除し、足元の“アクアウェーブ”の魔法陣に手を乗せてさらに魔法陣を重ねる。
「“エレキ”」
“アクアウェーブ”+“エレキ”。
波打つ大水の中、バチバチと音を立てながら黄色い閃光が迸る。
電気を纏った波の完成だ。
本来、魔法を少し齧った程度の中高生はもちろん、大人ですら鍛錬を重ねなければ違う魔法の同時発動や重ねがけをするというのは難しいものだ。
だがしかし!
私は自他共に認める天才なので、こんなのは朝飯前である!
……と言うのは見栄っ張りなだけで、本当は2つ同時発動が限界なのはここだけの話。
さて、これで片がついてくれればーー。
「そぉりゃっ!!」
そんなことを思ったのも束の間、“アクアウェーブ”で視界が水しか見えない中で、さっきまでより一際大きいその掛け声と共に、猫塚くんがいた辺りから大きな衝撃音がした。
そしてそれはーー。
「……嘘でしょ」
“アクアウェーブ”+“エレキ”の電流が流れる大波は、その衝撃音とともに散らされるように弾け飛びコートの結界に当たり、マナとなって消えていった。
「い……今のは焦ったー……。というか普通にビリビリするしぃ」
視界が良好になり、そこに見えた猫塚くんは服が若干濡れて足を震わせながら立っていた。
……今だ!
「“エレキ”!」
「ギィッ!?」
すかさず猫塚くんの足元に魔法陣を展開させて、“エレキ”を発動。
追加で猫塚くんの身体をしびれびれ状態にさせて、身動きが取れない隙に右手に魔力を込めながら、走って距離を詰める。
そして目の前まで来たところで、魔力を込めた右手を膝をついた猫塚くんの頭にかざして魔法陣を展開させる。
「にゃ……ギ、ギブアップゥ」
観念した猫塚くんは、痺れた両手を震えながら上げて降参。
「そこまで。勝者、神崎美穂」
六花先生のコールとともにタイマーは時間を計るを止めて、コートの結界が解かれていった。
「ごめん、体動かせる?」
「にゃはー、ありがとう。でも遠慮なく痺れさせられたからちょっと厳しい……くないや。あれ?あれれ?」
猫塚くんに少し申し訳なさを覚えつつ、手を差し伸ばすと正直な言葉が返ってきたところで猫塚くんは自分の力ですくりと立ち上がった。
「この結界は特殊でな。結界を解いたら結界内の者を結界に入る前の状態に戻すように術式を組まれている。まあ、濡れた服とかはそのままになってしまうが」
コート内に入ってきて、凛とした表情のまま説明する六花先生。
「にゃるほど……確かに消費したマナとかも元に戻ってるかも……?」
猫塚くんの言葉に、私も自分の体の異変に気づく。
マナはアビリティを使う大元のエネルギーだ。
マナを魔力、フォース、念力へと変換してはじめてそれぞれのアビリティが使える。
なので、そのマナが消費されていくと当然疲労感みたいなものが溜まっていくのだが……。
「その感じが全然ない」
さっきまであったマナを消費したことによる疲労感が綺麗さっぱりなくなっていた。
「だから思いきりやって大丈夫ってこと……すごいね、この結界」
「ああ、2人ともお疲れ様だったな。初番としては申し分ない試合だった。神崎、【詠唱破棄】だけでなく魔法の同時発動に異なる属性の重ねがけは見事だった。これから期待しているぞ」
「ありがとうございます!」
「猫塚、お前も能力はシンプルながら中々強力な力を持っている。最後のあの弾丸も見事だった……が、今回は神崎が一枚上手だったな」
「ほんとだよー。【詠唱破棄】って超レアスキルじゃん。その上水と電気の合わせ技なんてねぇ。初見じゃムリムリ。……でもまあ、次は負けないからねっ」
アイドル並みのウインクをしてみせる猫塚くん。
……本当に男の子なのかなこの子。
そんな疑問を頭に浮かべつつ、六花先生の批評を聞き終えた私と猫塚くんは次の試合の人と入れ替わるようにギャラリーへと足を運んでいった。




