#006.神結
「さて、突然呼び出して悪かったな」
職員室に呼ばれ、他の先生の視線がこちらに突き刺さる中、橘先生は自分の席であろう場所に腰をかけると、そう語りかけてきた。
「用件は、ヨロイワグマの件だ」
そして、ヨロイワグマという名前に3人ともぴくりと反応した。
「ギルドから連絡があった。普通ならば、ギルドと学校間での連絡は提携していることやトラブル以外は取ることはほとんどないが……まあ今回は異例な事態ということでな。ギルドの方でも呼びかけてるが、学校の方でも一応注意喚起してくれということですぐに連絡が来たぞ」
まあ、やっぱりそうだよね。
「で、こちらにはお前ら3人は大丈夫だったと報告が来ているが、一応確認のためにな。怪我とかはもう大丈夫なのか?」
「うす! すっかり元気っす!」
「私も、痛みとかはすっかりです」
「俺はそもそも大して怪我してないので」
「そうか。それならいいんだが……日向、大した怪我をしてないというがお前がヨロイワグマを倒したのだろう? 聞いた時には流石に驚いたが……」
「確かに、止めを刺したのは俺ですけど、この二人との連携があったからです。俺一人じゃ、多分ヨロイワグマの鎧を壊すことは出来なかったんで、多分」
日向くんの言葉に、目を細めて口元を少し緩める橘先生。
「なるほどな……。とにかく、何事もないのであればいいんだ。しかし、お前らも冒険者になって初っ端でヨロイワグマとはついてなかったな。あれは、カッパーランク相当の冒険者が相性次第ではどうにか単独で倒せるモンスターだ」
――冒険者には、実力別にランクが振り分けられる制度がある。
成り立ての冒険者が与えられる初心者マーク『ビギナー』
初心者マークが取れた通常冒険者『ブルー』
ある程度の実力が伴ったと認められる『カッパー』
いわゆる中級クラスの冒険者『シルバー』
冒険者の中で上澄みの存在『ゴールド』
最強の『プラチナ』
「――つまり、お前らは3人でカッパーランク1人分の討伐を行えたということだ」
……まあ、半分くらいは日向くんのおかげだけどね。
「ギルドというのは、噂が広まるのが早い。気をつけろよ」
気をつけろ……?
「何にですか?」
私と同じことを思ったであろう晃太くんが訊き返す。
「……お前らが、初心者冒険者でヨロイワグマを倒したというのが分かったら、嫌でも色々な冒険者に目をつけられることになる。それは、羨望、物珍しさ、嫉妬……まあ本当に色々な目線が向けられることになるかもしらん。校内でもそれは同様だ。つまりあれだ。もし何かあったら、私に気軽に相談してくれ」
そう言うと、橘先生は頬を緩め優しく微笑んだ。
……この人、めっちゃ良い先生だ。
「特に日向、お前は『神結』だ。変な奴が絡んでくるとも限らんだろう」
……かみゆ……い……?
……え、
「『神結』!?」
自分でもビックリするくらい大きな声を出してしまい、周りの先生たちにジロリと睨まれる。
「声が大きいぞ神崎……」
「す、すみません……」
「というか、お前一緒に戦ったんだろ? 知らなかったのか?」
先生の言葉に、急いであの日のことを思い出す。
『神結』は、その言葉の通り神と呼ばれる存在と契約を結び、その神の力を授け与えられる者のことを指す。
……朱色の炎に、朱色の小さい鳥――
「ハバネロ……!」
― ― ―
「――悪かったな神崎。説明するのすっかり忘れてた」
今どき珍しい開放されてる学校の屋上。
テーブルが設置された向かい合わせのベンチに座り込み、向かいの日向くんが申し訳なさそうに手を合わせた。
「ハバネロ」
そして、胸元から朱色のクリスタルのペンダントを取り出すと、ハバネロの名を呼んだ。
すると、クリスタルが淡い光に包まれて、その光からは先日も見た朱色の羽毛に包まれた小さな鳥、ハバネロが姿を現した。
「……美穂か。息災であったか?」
「……うん、元気だよ」
「ならば良かった。南や晃太は頑丈だからともかく、美穂のような可愛げのある女子に傷でも残ろうものなら心が痛むからな」
「「おい」」
ハバネロの言葉に息のあったツッコミが入る。
「はっはっ、冗談である。それで、今日は入学式ではなかったのか? 出番がないと思って眠っていたのだが……」
「ああ、神崎にお前と俺の事を説明してなかったからな。改めて自己紹介……つーか、そもそも俺たち、出会い方があんなんだったから碌に自己紹介してなかったな」
「言われてみれば、確かにそうかも……」
「じゃあ、さっきの自己紹介タイムの続きだな! まずは南から!」
手を挙げて、ノリノリに司会進行を始める晃太くん。
元気だなぁ……。
「じゃあ改めて……俺のアビリティは見ての通りだと思うけど、火のフォース……と、風のフォースを少々使える。んで、その二つの力は、ハバネロと契約して得た力だ。んで、ハバネロだけど、こいつは四神の南の一角、神名『朱雀』」
「『南』だけにな」
ん? ああ、日向『南』だから……?
「あ?」
鋭い眼光を晃太くんに向けて、低い声でそう言う日向くんは端から見ても怖い。
「おー怖ぁ……」
晃太くんは慣れてるかのような反応で、両手を前に出してどうどうと落ち着くようにジェスチャーしている。
「朱雀……って言われると見た目的にも確かに納得しかしないけど、体って元からこんなに小さいの?」
「いや、これはあくまで精神体というべきか別動体というべきか……ともかく、本体は人間から見れば巨躯である故、違うところにある。流石に私が本体でその辺を飛び回る訳にも行かぬからな」
「……確かに」
「ほら、神崎さん、去年のABF観てた? あれに映ってたじゃん、青龍が」
晃太くんの言葉で思い出す。
『ABILITY BATTLE FESTIVAL』
高校生冒険者たちの真剣勝負の祭典。
平たく言えば、夏の高校野球の冒険者バージョンみたいなものだ。
「……そう言えば、ちらっとだけ観たような。なんか話題にもなってたみたいだし。私、その時期ちょうど色々あってABFあまり観れてなかったんだよね」
「そっか。去年のやつも熱かったよなー。今年のABF、俺出れるかなー?」
「晃太、話が脱線してんぞ」
「おっと! ごめんごめん。で、どこまで話したんだっけ?」
晃太くん、もしかして思ったことがすぐに口に出るタイプなのだろうか……?
いや、私も人のことは言えないけど。
「……でだ、この間の戦闘で俺の髪と目の色が変わってたのが、『神結』特有のスキル〈スードクロスト〉。契約した神の波動のオーラを全身に張り巡らせることで全体的な身体能力、放つフォースの威力が上がるスキルだ。この間見せたのはそんなところか……?」
それで以て、何事もなかったかのように話を進めていく日向くん。
こちらも慣れた様子で、互いが互いにどういう扱いでいいのかわかってるかのような感じだ。
「はーい、んじゃあ次俺な。俺の主力魔法は“魔装変身”。全身を魔力で作った装甲で包んで身体能力を底上げするすげー魔法なんだ!」
自分ですげー魔法って言うんだ。
まあ、気持ちは分かる。
それに……。
「その魔法、私も気になってたんだけど、凄く複雑な魔法陣になるんじゃない?」
「ああ! だから、魔法陣は、南と今は遠くに住んでる幼馴染に手伝って貰って試行錯誤しながら仕上げていって、完成した魔法陣を発現させる詠唱もすごく長いやつになったから、このSギアスイッチに魔法陣をプログラミングさせて、俺の魔力を流し込んですぐ発動出来るようにしたんだ」
そう言って、どこからともなくそれを取り出してテーブルの上に乗せた。
Sギアスイッチ。
魔法の補助装置である『Sギア』の一種で、起動用のスイッチ型アイテムだ。
円形状の片手サイズの台座のようなものの中心に、ピンポン玉サイズの緑色のマナストーンが埋め込まれている
マナストーンは、マナが凝縮された不思議な石のことで、これに魔法陣をプログラミングさせて、魔法を即座に使えるようにしたり、自身のマナが足りなくなった際に補給することも出来る優れものだ。
そして、Sギアはストーンギアの略称。
ストーンギアは、マナストーンに込めた魔法陣をスムーズに出すための手助けや魔法の効果増大等の補助の役割を果たすもので、晃太くんがこれを使って“魔装変身”を即座に使えるというのは理解出来た。
ただ――
「そのマナストーン、あの魔法をプログラミング出来るってかなり貴重なものなんじゃ……」
「まあなんというか……色々あって貰ったやつなんだ! あ、で、俺の使える属性は雷と水と火の三種類! あとは、形態を変えれる魔法とかあるけど、とりあえずはそんなもんかな」
「なるほど……その形態を変えるっていうのも気になるけど……それは置いておいて次は私か……」
正直、私は今まで自分のアビリティは他の人に自慢出来るくらいの優れたものだと思っていたけど、二人の話を聞いているとそんな気も薄れてきて少し自信が無くなった。
「私のアビリティは知っての通り魔法。使えるのは、水、風、土、氷、雷、火の六属性とちょっとした他者発動型の回復と、自他の強化魔法。あとは、攻撃魔法はあまり威力が高いのは使えないけど、魔法の即発動スキル〈詠唱破棄〉があるから、魔法を発動させるのに詠唱がなくても魔法が使えること……くらいかな?」
語り終わると、二人が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
……うん、こういう反応されるのは慣れている。
今までも、どこのなろう主人公だだの、合法チーターだだの、イカレてる等の言葉を冗談半分とは言え、散々言われてきた。
だけど……。
「え……マジで言ってる? いや……確かに“プロテクト”とかも詠唱無しで使ってたし、よくよく考えてみれば魔法名も口ずさむだけだったな……あの時はそれどころじゃなくて気づかなかったけど……」
「それだけじゃないぜ南……! あの“プロテクト”……いや“プロテクション”、強度もしっかりしてたぜ!神崎さんすげえな!!」
晃太くんが目を輝かせて私を見てくる。
「いや……うん、私もそう思ってたけど、なんか二人のアビリティ聞いてたら実はそんなことない気もしてきた」
「そんなことはないぞ美穂。まず、魔法をその齢で六属性扱える者など滅多にいるものではないし、その上〈詠唱破棄〉とは……いやはや感服である」
ハバネロも驚いたようにそう言ってくる。
……が。
「でも、それだけ持ってても私だけじゃヨロイワグマには手も足も出なかった」
「普通はそうだろ」
「普通は……ね。まあ、確かに六属性の魔法が使えるっていっても使えるのは普通の魔法だけだし、そう考えたら私って実は普通の魔法使いだった……!?」
「え……あ、いや、多重属性と回復と強化の魔法を〈 詠唱破棄〉で発動できるやつは一般的には普通と呼ばないぞ……?」
「わかってるよ、冗談冗談」
自分が抱いた劣等感で場が悪くなりそうな気がしたので、そう言ってその場を茶化す。
―――世の中、上には上がいる。
この間のことで分かったのは、全体的に秀でたものがあっても、突出して優れたものがなければ格上には通用しないということだ。
だから……。
「ということで本題だけど、私たちでチームを組みたいんですけど、どうすかね?」
「……え?」
再び、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする日向くん。
多分、突然の話題変換に驚いたのだろう。
だけど、これは突拍子のない話というわけでもない。
「マジで!?」
私の話に食いつくように反応した晃太くん。
「良かったな南! 実は俺達も神崎さんを一緒のチームに誘わないかって話をしてたとこだったんだよ!」
「うん、そんな気はしてた」
冒険者が、自分のアビリティについて詳細を話す時。
それは、緊急時を除けば一緒に組みたいという暗喩のようなものである。
私たちはこれから三年間を同じ校舎で過ごすわけなので、別に今語り合わなくても、嫌でも後々互いのアビリティについては把握出来るようになる。
それでも、こうやってわざわざ場を設けて話したということはそういうことだったのだろう。
「え……いや、うん。それはこっちとしてもすごく有難いしそのつもりはあったけど……いいのか俺たちで?」
「むしろ日向くんたちがいい。それに、この間の見立てだと二人とも近接戦闘がメインっぽいし、優秀な後方支援はいた方がいいでしょ?」
「おー! 南、神崎さんも俺たちと同じ考えだ! 良かったな! 優秀な後方支援がいれば魔迷宮でも楽になるぞ!」
「……ああ! それじゃあ、これから優秀な後方支援、よろしく頼むぜ神崎」
…………。
「……うん、とりあえず、自分で言っておいてあれだけど、その、『優秀な後方支援』っていうの、やっぱり恥ずかしいからやめて」
二人とも、冗談で言っただけなのに真に受けてくれてるから、逆に恥ずかしい!
顔がちょっと熱い!
「本当なんだけどなー」
「……ああ、そうだな」
……違うなこれ。
結城くんは素で言ってるっぽいけど、日向くんの顔がちょっと笑い堪えてる感じの顔だこれ。
この野郎楽しんでるな。
「ま、とりあえずこれからよろしくな神崎」
と、こんな感じで私たちはチームを結成することになった。




