#004.新たな日常の幕開け
魔迷宮での激闘からおよそ一週間。
朝の陽射しが窓から差し込む部屋の中、私は姿見鏡の前に立って、自分の格好をまじまじと見ていた。
「うーん……さすが私。似合ってるわ」
白いワイシャツ。
小さな黄色い星が散りばめられた桜色のネクタイ。
ベージュのブレザーに灰色のスカート。
膝に怪我の後がまだ少し残っていたのと、今日は小寒いという理由で下はタイツを履いている。
―――そう!
今日は高校の入学式である。
「お姉ちゃーん、私出るからねー」
昨晩、仕事の残業で遅く帰ってきていた姉に部屋のドア越しに声をかける。
「……うーん……いてらー……気つけてねー……」
すると、微かな返事が来たので「いってきます」と返し、家を出た。
近所の人たちにすれ違いざまに挨拶をしながら、足取りを進めていく。
これから通う高校の徒歩圏内に、丁度良く一人暮らしをしていた成人済みの姉。
転がり込んだのはいいものの、どうやら務めている職場がブラックっぽく常に疲労した顔をしている。
今日は休みだそうで、妹としてはなんだかいたたまれない気持ちになるので、たまの休日くらい少しでものんびり寝ててほしいものだ。
―――と、私の家事情はさておき、家から高校までは徒歩20分ほどである。
朝、運動がてらに歩くには丁度いい距離かなと個人的には思っているので、自転車はあまり使わないだろう、多分、きっと。
―――あの後どうにかこうにかして脱出出来たのだが、色々と大変だった。
基本、魔迷宮内とその周辺ではスマホの電波がろくに立たないため、電波が立つところまで日向くんが走っていって、そこから救急車を呼んで晃太くんを病院へ。
幸い、大事には至らなかったので様子見での一晩の入院で済んだ。
これに関しては、晃太くんの体が丈夫すぎると思う。
意味がわからないもん。
……と、晃太くんを病院へ送り届けた後は、ギルド――正式名称『JAPAN・MAGYRINTH・QUEST GUILD』への連絡と事後処理だ。
初心者向けダンジョン『始まりの洞窟』にヨロイワグマが出現したことの報告と、後日の事情聴取。冒険者になって早々、怒涛の数日間だった。
冒険者になって早々、こんなことになるとは微塵も思ってなかっただけに、冒険者ちょっとなめてたなーとか、でもあんなのイレギュラーだしなーとか色々考えて結局あれ以来まだ魔迷宮にはいっていない。
というか、正直もう一人では出来れば二度と潜りたくない。
だから―――
「神崎さん!」
突如、自転車のブレーキ音とともに後ろから声を掛けられる。
聞き覚えのある声。
振り返ってみると、そこには自転車に乗った晃太くんがいた。
「おはよう! 今日からよろしくな!」
そう言って、眩しい笑顔を見せる晃太くん。
「おはよ、よろしくね」
着ているのは私と同じ高校の制服。
そう、私たちは同じ高校に通う同級生だった。
そして―――
「お……」
少し遅れて自転車を漕いでやってきたもう一人の茶髪の少年。
「うっす、神崎」
「おはよ、日向くん」
日向くんも同様に同じ高校だった。
私に合わせてくれたのか、自転車を降りて押して歩きはじめる二人。
「足、大丈夫か?」
そして、ふと気にかけたように日向くんが聞いてきた。
「うん、痛みとかはもうすっかり大丈夫だよ。跡だけ消えてくれればって感じ」
「そっか。早く治るといいな」
「ありがと。そう言えば、晃太くんの方こそ頭は大丈夫なの?」
「あー……んん……大丈夫だな!」
自分の頭を左右に振ったりポンポン叩いた後、ケロッとした顔で晃太くんは答える。
「そっか……」
「お前、あんまり頭叩くんじゃねえよ。これ以上バカになったらどうすんだ」
「“これ以上バカになったらどうすんだ”!?お前それはひどいぞ!?」
そう言いつつ、笑い飛ばす晃太くんと「冗談だよ、半分」と言って笑顔を見せる日向くん。
この二人、ボケとツッコミが様になるな……。
そんなことを思いつつ、他愛もない話をしながら通学路を歩いていくと、目の前には―――
「――いつ見てもでっけえ学校だよなぁ」
私たちはあっという間に学校の校門に辿り着いた。
私立星桜高等学校。
偏差値が少し高めの普通科と商業科、そして実技科目の多い『アビリティ科』の三学科から成る高校だ。
――そもそもアビリティとは何ぞや? という話は、おいおい説明していくことにしよう。
そのうち、多分、きっと。
昇降口の手前まで来ると、そこには人だかりが出来ていて、入口にはクラス名簿が張り出されていた。
「俺たちは……まあ見るまでもなく全員A組だな」
クラス名簿は、学科ごとに区切られて記されていた。
アビリティ科のA組、商業科のB組とC組、普通科の1組と2組という組分けになっていて、アビリティ科は1クラスしかない。
私たちは、とりあえず自分たちの席だけを確認して自分の教室へと向かった。




