15 衝撃の事実
なんとあの弟子がお貴族様だとは想像もしていなかった私は、驚きを隠せず思わず声を上げた。
「え、うそでしょ? あのテーブルマナーの存在すら知らなかった田舎者の代表格みたいなあんたが?」
「ひどい言いようですね!? ま、まあ事実なので否定できないのが辛いところです……」
そうなのだ。この子、前世の途中あたりからエルフの女王として動いていた割には最初のほうは普通の庶民と何ら変わらない生活をしていたのだ。王家の血筋にもかかわらず、だ。理由としては傍系だったこととちょーとばかりの天然、そして最大の理由は性格が向いていなかったためである。当時エルフの王族は後継ぎが腐るほどいたため放置していても問題なかった。そこに私がエルフの国を訪れた際に弟子にした、というわけである。私もその時は魔王になる前のことだったため色々融通が利いたのである。それよりも今は情報共有が先決だ。
「とりあえず質問。あんたなんで魔族に転生したわけ? 私と会うだけならエルフのままでよかったじゃん?」
《異種族指定転生魔法》――これはただでさえ難しい転生魔法をさらに難しくしたものだ。
その名の通り、指定した他種族に転生するための魔法である。私も使えるが正直リターンよりもリスクのほうが高いため今回私は普通の転生魔法を使ったのだ。この先も使うことは無いだろう。
私が無言で次の言葉を待っているとノーリが「これが一番大切でした!」と言いながらしかし、少し眉を下げて申し訳なさそうに話し始めた。
「ああ、そのことなんですが……。実は――私も覚えていないんです」
「……は? 記憶に欠損があるってこと?」
「おそらく。何かを伝えて魔族として共に戦う必要があったんです。それで魔族に転生したのは覚えているんですが、それが何かまで思い出せないんです」
それが意味するのは、つまり。
「魂の、欠損――……」
しかしノーリは「別にそこまで心配するほどじゃないですよ?」とこともなさげに言う。しかし魂の欠損は『死への第一歩』と言われるほどのことだ。
なぜなら魂の欠損は対処しなければ悪化するものだからだ。そのヒビが中心まで至ったとき起こるのは――魂の完全崩壊、すなわち魂の死だ。
魂とは肉体という入れ物を動かす原動力や心臓部と呼ばれる。
つまり魂が完全崩壊するということは死そのものということだ。魂は脳のように多くのパーツからなるもので、そのどれもが欠けることによって致命傷となりかねない繊細なものだ。
本来ならば転生魔法による負荷によって完全崩壊しかねないのだ。それを防ぐために転生魔法には防御魔法が組み込まれ、魂の保護を行っている。
しかし今回ノーリが行った《異種族指定転生魔法》とは魂の在り方を変えるという無茶である。種族とはその魂が存在すると決定づけられたときに決められるもので、変更するということは自己改造にも等しいのである。正直私はやりたくない。というか気持ち悪い。だって考えてみてほしい。自分の魂を弄って角とか翼とか生やすのと同じようなことだ。
私はメカでもプラモでもフィギュアでも二次元でもない。ここは三次元、二次元みたいな世界ではあるが現実なのだ。
それを平気な顔をして「ちょっと失敗しちゃったけど何とかなりました!」とか言ってるノーリはやっぱりこの世界の人間……いやエルフ(今は純粋なエルフではないが)なのだろう。
感覚のズレはどうしても一番最初の人生の影響が残る。それに不満を持ったことは無いし、むしろ自分がまだおかしくないと確認できるため、この感覚がなくならないことを願うばかりだ。
「それじゃ私が転生した後について聞かせて貰える?」
「はい、師匠が転生した後――」
そう今回の本題は私が転生した後何が起きたか、だ。私が魔王として君臨してだいぶ治安は良くなったものの魔王という絶対者が消えて反乱が起きたかもしれないし奴等が何か仕掛けてきたかもしれないのだから。
※
一通りの話を聞き終わり意見交換を終えると雑談に移る。今回話し合った内容はおいそれと漏洩できないものばかりのため、一人で少し精査することにしたのだ。それにしてもノーリが貴族という衝撃からは抜け出せたものの、やはり興味はある。
「ところでノーリ。あんたさっき貴族と言ったよね? どこの家の者なの?」
すると事もなさげに「あ、エリフィーラン侯爵家ですよー。と言っても兄が居るので私は家督継ぐ必要がないので暇してますが」と返ってきて本日二度目の驚きに見舞われる。え、侯爵って公爵の次に位が高い家柄じゃん。そんなお嬢様だったのかコイツ……。いや待てならなんでこいつ誘拐されてんの? 警備緩すぎでは? そう思って本人に聞くと「あ~私側室の子なんで」と返ってくる。
なんでもお母さんとなった女性が他家のお嬢様らしく家の繋がりで娶ったそうな。貴族って難しいね!
しかし私はホッと息を吐いた。何故なら今回私が転生した目的は「普通の女の子」らしく「普通の恋愛」をして「普通の幸せ」を手に入れることにあるからだ。
貴族に転生なんてしたら政略結婚とかさせられそうだし、本当に優しい両親でよかった――そう考えてふと思い出す。そういや私の家って本当に貴族じゃないよね? と。
当たり前になりつつあるが普通の家にはメイドさんこんなにいないはずだし、私が知らないだけでそこそこの家なのでは疑惑が浮上する。いや早とちりは良くない。もしかしたら商人とかの可能性も十分に残っている。それは後で両親に確認することにして私は紅茶を飲み干したのだった。
…伏線って難しいですね(๑・᷄ὢ・᷅๑)




