挿話 彼女も知らない両親の心の裡
今回は両親たちの回です
「あなたリアのことなのですが」
私は敢えて今まで口に出ずにいたことについてとうとう話し合うことにした。その内容は恐らく夫も感じているであろう違和感について。
そう――今回話し合うのは最近生まれた我が子・リーリアについてだ。夫も話の内容を察して防音魔法を部屋にかけ、姿勢を正した。
「……やはりお前も感じていたんだな」
私は夫の言葉にこくりと頷く。
「当たり前でしょう? だって私達の天使ですもの。子の可愛い姿を愛でるのは当然ですわ」
私がそう言うと夫も「ああ。それはそうだな」と肯定してから本題に入る。そう、リアに感じる違和感についてだ。
「僕とエーラが感じている違和感は同じものだろう。リアはどこか普通の赤ん坊らしくない。泣くタイミングも僕たちが忙しくない時間帯を見計らったようにして泣くし、言葉も理解しているような行動を取っている。何より魔力量が赤ん坊にはあり得ないほどの量だ」
魔族は常に戦いと共に生きてきた。そのため生まれて直ぐに生きていけるようにある程度は行動できる。
しかし言葉は知識に分類されるため、周りの言葉を聞いて覚えるものだ。でもリアは私達が話していると決して泣かないし、何より話を聞いている。(このとき本人は寝た振りをしている。なお、両親はもちろん使用人達にもバレている)
夫は更に言葉を続ける。
「あの子は普通の子ではないのだろう。二人を育てた時と比べても夜泣きもあまりしないし、我が儘も言わない。あれは理性のある者の行動だ。多分リアは転生者なのだろう」
私は夫の考えを聞いてやっぱりその考えになるのねと思いつつも疑問を口にする。
「でもあなた、転生魔法はかなり高度な魔法のはずよ? それこそ魔王様の時代の方々でなければ不可能よ。今では魔法式すら解読不可能で喪われた魔法として最も有名な物なのにそれを使える方なんてそれこそ魔王様ぐらいよ?」
そう。転生魔法は当時から使い手が少なかったとされ、実力者でもその精密な魔力操作をすることが出来ず匙を投げたというのはあまりに有名な話だ。
それを使って転生した存在なら私達の子は一体誰の転生体なの? ……まさか。
私の考えを否定するように首を振ると夫は更に続ける。
「いや。転生者といっても必ず転生魔法によるものだとは限らない。魔王様は異世界から転生なさったという話だし、単純に賢い子だという可能性も残っている。決めつけるのは危険だよ」
「それに」と言って私に笑いかけると、
「例えあの子がどんな子でも、僕たちの可愛い娘だよ」
そういうと夫は話はこれでおしまいだと言うように態勢を崩した。
※
あの話し合いから数日後。
初めての外出でリアが拐われた。
子の突然の失踪に私達は大いに焦った。最近子どもの誘拐は多発しているため気をつけていたはずなのに、気がついたらリアが消えていた。
私達は慌てて探そうとして魔力の痕跡があることに気がついた。それは今まさに消えたリアのもので通常残る魔力の痕跡に比べ濃い。つまり本人が意図的に残したものということになる。私達は考えるのは後回しにして痕跡を追うことにした。
そして追いかけた先に居たのは多くの子ども達を連れて建物から出てくるリアの姿だった。リアは私達の姿を認めると嬉しそうに駆け寄ってきた。思わず抱き締めたが、今回の行動は怒らないといけないだろう。リアはやらかした自覚はあるようで、怒られてシュンとしてしまった。
しかしこれも本人のため。人に頼ることの大切さを知らなければこの先一人きりで対処出来なくなってしまったとき困るだろうから。
リアはその事に気付かされたようにハッと顔を上げると、私達の顔を見て小さな声で「ありがとう」と言った。
その夜のこと。リアから話があると言われ、夕食後に時間を作ることになった。
そしてリアの秘密について聞くことになるのだった。
※
リアの話を聞いた。リアの話は絶対にあり得ないだろう、と予想していたものドンピシャだった。
最初は信じられないという気持ちが大きかったが、あの子の使う魔法はどれも喪われた技術を使っており、尚且つ緻密で正確なものばかりだった。――それこそ今の実力者と呼ばれる者達でも再現不可能と思われる魔法ばかりだった。その実力者の一人である私の夫殿は、
「いやーとんでもない魔法だったな!! とても綺麗な魔法発動だった!! 魔力の揺れも少なく、発動までも速い!! 僕も出来るようにならなければ!!」
とリアから離れてからずっとこんな状態だ。
リアの前では父親の威厳を保てていたが、部屋に入った瞬間ずっとリアの魔法の話しかしていない。
「貴方……。そろそろリアの話をしませんか……?」
「ハッ!?」
興奮状態の夫を何とか沈めて私は姿勢を正してから話し始める。
「で、リアの事だけれど……」
私が口を開くと夫も真剣な顔になる。
「ああ。あれは魔王様でなければ不可能だ。魔王様でなくともそのレベルの者――例えば勇者でなければ無理だろう」
「そう……。でもあの子が魔王様でも関係ありません。先程も言った通り私達の子どもに変わりはありませんから」
夫も「ああ」と同意してから解説を始める。
「最初の防音魔法は、結界魔法と音波魔法を組み合わせたものだった。音を結界で外に出さないようにするものと音波魔法で外に向かう音を改竄している。そして話の後に見せてくれた攻撃魔法はそれこそかなり威力を抑えたものだった」
「あれで威力を抑えていたの!?」
私は話の途中にも関わらず思わず声を出してしまった。
先ほどの魔法は今の時代において最大威力の魔法よりも威力が高かった。それですら威力を抑えたものだったなんて……。
私が絶句していると夫は更に爆弾を落とす。
「しかもあれは余力を残した状態で放たれたものだった。つまりあの魔法の他にも同時に魔法発動が可能と言うことだ」
「……流石魔王様の転生体ってことなのね」
私は少し考えた後今後どうするかについて話し出す。
「あの子の魔法は正直に言って異常。あの状態で学校に入学なんてさせればトラブル確定案件よ。あの子には力の抑えかたを学ばせなければなりませんね……」
「僕もその意見に同意だ。あれが多分最低威力なのだろう。あれより威力を抑えてしまったら魔王様の時代では通用しなかったから、あれ以上威力を抑える事をしてこなかった。だから練習すればすぐにでも威力を抑えて発動できるだろう」
私はホッとして安堵のため息を吐く。
(あの子の願いは普通の生活を送ること。それはつまり魔王様のように戦いから離れた生活のこと。なら私達はその願いを叶えるために行動する。魔王様はこれまで大変な人生を送ってこられた。なら新しい人生ぐらいその細やかな願いを親としては叶えてあげたい)
私は一つ決意するとしなければならないことを考えながら眠りについた。
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