第4話 不気味な村で、俺1人
嫌々ながら村の中に入り、辺りを探索しようと歩き出す。どいつもこいつも生気のない目をし、ダルそうに歩いているだけで、なにか目的を持っているようには感じられない。半開きになった扉を見つけ、こっそりと中を覗くが、外の奴らも俺が何をしようと気にしている様子はなく、案外堂々としていても大丈夫ではないかと思い始める。扉を開き中を確認するが、空間はジメジメとしていて、床板は足を踏み出す前からギシギシと悲鳴をあげそうだ。はっきりと届く隙間風の音。まともに手入れすらされていないのが一目で分かった。
「こんな木だけの家って実際あんま見ないよなぁ、シロアリに食われたらすぐ壊れちゃうよ」
そのまま軋む床を踏みしめ家の奥へと進み、何か分かることがないかと物色を始める。とりわけ泥棒になった気分で居心地が悪い。さっさと出ようと立ち上がると扉にメモ書きのような紙が張り付けられていることに気づいた。
「――の魔の手が近づいている。でも大丈夫、作物は枯れちゃったけど、きっとすぐ――が何とかし――さる。忘れないで」
(ぐにゃぐにゃした字で見えないなぁ。それと、忘れないで?このメモで何を忘れないようにしたかったんだろうか)
メモ書きに顔をちかづけ、読み取れない字を何とかして読み取ろうと目を細めていると、外からポーンとボールが跳ねるような音が聞こえてきた。加えて鈴の音に土を蹴る音。外に誰か居る。正気を失った人ではない別の誰かがそこにいる。そっとドアから顔をのぞかせ音が聞こえた方を見ると、地面をけったであろう跡が村の奥へと続いていた。
(このまま俺一人で進むべきなのか?誰かに1度声をかけた方がいいんじゃないか?)
とんでもない不安に苛まれるが、まだ何も分かっていない以上、戻っても瘴気という決定打を放つ事は無駄になりかねない。意を決して、重い足を上げ1歩、また1歩と前へと突き出す。途中で尖った木材を見つけ、武器代わりにと携える。地面はふわっとした柔らかい土でおそらく走ったのだろうか、足跡がハッキリとしていて見失わずにすんだ事が唯一の救いだろうか。
「はぁはぁ、何か酸素薄くない?肺に空気入っていかないよー?」
村には今まで見た家とは違い大きな石造りの建物があり、その建物に近づく度に空気が重くなっているのを感じる。もし瘴気が蔓延っているならここが中心なのだろう。
(あんま長居したくねぇな…)
流れてくる汗を拭い走り出す。少し見てすぐ帰れば何があっても大丈夫だろう。
入口付近に到着し建物を見上げる。よく見るとレンガ造りで城と少し似ているかもしれない。扉に手をかけ押すがビクともせず、引いてみるが鍵がかかっているかのような突っかかりも感じない。どうしようかと、考えを巡らすが、扉が壊れてしまっているならお手上げだ。ポーンとボールの跳ねるような音がし、鈴の音に足音。音の聞こえる方へ向き身構えた。しかしそこに立っていたのは小さな子供で、草履のような靴には鈴をつけ手にはボールを持ってこちらを虚ろな目が覗いていただけだった。この村には珍しく、一風変わった雰囲気を醸し出し、少し不気味だ。
「あ、あの〜ここって今入れないのかな?ちょっと気になったんだ!ほらほかの家とは見た目違うから目に付いちゃって」
その子供は話を聞いていないのか何も話さない。向こうも警戒しているだけかもしれない。まだ子供だし、知らない人には人見知りになる子供は少なくない。これは異世界でも変わらないだろうと謎理論を立てる。
「俺怪しい者じゃないよー、怖くないよー?ちょっとこの村に観光に来てさ、いやーこの村は良いね!静かだし…えっとーほら!人がさ、なんか…良いよね!」
そう身振り手振りで表現してみるが、じとりとした目に思わず冷や汗がどっと溢れ出る。
子供は表情を変えないまま大きな建物に沿ってぐるりと周り出した。何をしだすのかと唖然としたところで、ハッと我に返り子供の後を追う。
「君!ここは危なそうだし、1度村を出ない?ねぇ―」
建物の裏、そこには先程の子供が持っていたボールだけが転がり、子供の姿はなくなっていた。ボールのそばには崩れたのだろうか、頑張れば通れなくもない穴が空き、覗くと中に繋がっているようでいくつかの椅子が見えた。もしかしたらここに入っていったのかもしれない。でも何故―俺がここの入り方を聞いたから?とにかく身をかがめて穴へと潜り込む。中は広く、いわゆる教会と呼ばれる建物なのだろう。椅子にはグッタリとした白い服の人々が座っている。いや気絶に近いのだろうか。しかし子供の姿はなく疑問符が頭に浮かぶ。何か嫌な予感がする。咄嗟にそう感じ入口へと近づき思いっきり突進するが、俺がひ弱すぎなのか扉はビクともしない。何かあってからあの穴から逃げるのは流石に無理があると感じ、何度か扉へ体当たりを決めるがどんなにやっても開く様子はない。
(木造の家はあんなにすぐに壊れそうなのに、ここの扉はビクともしないという摩訶不思議な現象が起こっています!)
脳内に響き渡る、手品でお馴染みの『オリーブの首飾り』の陽気なBGM。緊迫した状況のはずなのに、俺の頭は完全にふざけ始めていた。
『うわ、壊れちゃったよ頭』
(おいおい余裕そうだな!俺!)
脳内はBGMに不安に悲しみに、色んなものが混ざってもうグチャグチャだ
『あれ使えそうじゃないか?』
なにか使えそうなものがないか辺りを見渡すと四角く細長くそれでいて丈夫そうな木箱があるじゃないか。体が柔らかいから衝撃が弱いんだ。だからこの木箱で叩けば。
「いける!」
扉は出してはいけないような音を立て俺を教会の外へと放り投げる。勢いづいてたせいか上手く止まれず顔面から地面にダイブし投げ出された箱が上へと降ってきた。まさに泣きっ面に蜂だ。
「酷すぎるよ、なんで俺がこんな目に。リーダーが行ってくれりゃ良かったのに」
(まぁジャンケン始めたの俺だけど―)
とにかく扉は空いたんだし教会の中を探索するしかないと思い立ち、急いで中へと舞い戻る。扉の修繕費はディエストさん持ちで行けるだろう。これも世界を救うための必要な犠牲と言うやつだ。
しかし、中を覗いたところで何かある訳でもなく、この一部屋しかないため見る範囲は限られる。白服の人達も何かを持っている様子もなく、収穫なしかと項垂れていると鈴の音がどこかから聞こえてくる。よく耳を立て場所を探るが、今まで聞こえていた鈴の音よりくぐもり、小さい音でなかなか方向が掴めない。
(くぐもった音―もしかして下か?あるいは上)
カーペットをめくり床に耳を当てると、いくらか聞きやすくなった気がする。どこかに地下への入口があるのか、カーペットを完全に剥がし床を凝視してみるがよく分からない。ゲームによくある隠し通路だとしたら目印の無い現実でそれを探すのは至難の業だろう
『あっこ、線無いか?四角く型どられてるっぽいけど』
フラッと目線をやった床は薄らと四角く型どられ開きそうな床となっていた。しかし掴める隙間はなく何かを差し込む場所もない。息が苦しく、そろそろ頭が回らなくなる頃かもと目を回す。立ってるのがしんどく、休憩をしようと壁に寄りかかり背中を滑らすように座りこむ。その時何か段差のようなものを感じ、なんだ?と壁を見ると背後からゴゴゴゴと重い音が響きだす。びっくりして飛び上がり何事かと音の方を見ると床が開き階段が見えた。何が起こったのかわからず目を丸くし固まってしまった。
(と、とりあえず開いたし―まぁいっか!)
床下は先程より呼吸がしやすく、大きく深呼吸し、今までの重い空気を新しい空気へと入れ替え、苦しさから解放された嬉しさからほっと安堵の胸を撫で下ろす。
地下は天井が低く、石を蹴った反響は地下がそれほど大きくないことを伝えてくれる。
奥へと行き、俺は目を見開いた。驚きもあったが、恐怖が強く、整った呼吸は早くなり、足は後ずさり腰が抜けそうになる。
目の前には人の骨。骨はちょうどあの子供程の大きさで、身につけた草履には鈴が付き来着ている服はあの子のものとよく似ている。他には誰もおらず、鈴の音はこの骨からのものだと結論づけざるを得ない。しかし、俺は生身の人間を見ていたはずで、あの子はさっきまで走り回っていたはずなんだ。逃げたくなる衝動を抑えその骨に近づく。鑑定士でもないからこの子がいつこうなったのかは分からない。この骨が古いものなのか、新しいものなのか、原因はなんなのかは分からない。周りに散らばるメモには
『厄災』『瘴気』『役割』『生贄』
その4つの単語が何回も何枚にも渡り書き綴られ、顔をしかめる。
(マジでなんなんだよ、何が起きてんだこの村に)
もう我慢出来ず、震える足で地下室を後にする。教会の入口ではまた転びそうになったが、もうわけも分からず走り、入口へと飛び込む
『なんでそれ持ってきた?』
手元を見ると扉を破壊するのに使った箱を抱えており、飛び上がる
「ヤバっ持ってきちゃった」
「あ、おかえりー。随分長かったね。で?なんか分かった?」
「その箱何ですか?瘴気と関係が?」
「おせーよ待ちくたびれたわ」
「な、なんか顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」
やっと戻ってきて、皆の顔を見て力が抜け、地面へとへたり込む。落ち着いてから先程あったことを説明して、やはりこの村は瘴気に侵されてると結論づけた。
「じゃあ、魔法使いを探しに行きますか?それとも私たちでもう習得しちゃいましょうか!」
「そんな短時間で習得できるようなもんじゃないでしょ。あたしら野宿だよ?ご飯もないし、どうすんのさ」
ワクワクした表情を見せる早希さんを一蹴し生活を気にするべきだと浅田さんは訴える
「まだ行けそうな飲食物は、一応物色してきましたよ。お金も置いてきました」
これからどうしようかと話し合っていると、後ろから影が伸びてきた
「あの…」




