第3話 倉瀬さん、BADEND……?
「地図によると、王都の近くに村があるそうです。とりあえずそこに行ってみませんか?」
いつの間に地図を手に入れていたのかは知らないが、なんにせよ否定する理由もないので倉瀬さんについて行く。村へ道中には森があり、最短で行こうと思うと通らざるを得ないのだが、どんなに道が整備されていようとも、逃げ道を確保しずらい森を何の準備もなしに歩くのは危険すぎる。
「俺は遠回りがいいと思いますよ。ほら、まだ日も傾いていませんし、時間は十分にありますから。」
その言葉を受けて倉瀬さんは、では回り道を…と言いかけるが、早希さんが喉が乾いたらしく、出来れば到着が早い方が良いと言い出した。
「日が落ちる前に行けば明るいんですから、何があっても対応しやすいのでは?」
「ごめんなさい、急いで準備したからお水いっぱい飲んでくるの忘れてて…」
倉瀬さんはしばらくオロオロと戸惑い、地図を凝視し出す。しばらくして地図を下ろして、森を通ろう!と告げる。目はグルグルと周り、どう見てもパンク状態だ。不安に思いつつも明るい間に行けば大丈夫だろうと、自分に言い聞かせ森へと入っていく。しっかり周りを確認しながら、物音一つ一つを聞き逃さないように耳を立てる。
(どうしてこんな状況で前だけ見て歩けるんだよ。)
俺の前を歩いている人達に目をやりながらため息をこぼす。俺の後ろの2人はどうだろうと、彼らの側に行くためため足を止める。
滝原さんは俺と同じように周りをキョロキョロと見渡し確認しているようだ。浅田さんは前すら見ず、ダルそうな顔を斜め下に向けそばの人にただついて行っている状態で不安だ。
(このメンバーでおそらく一番動ける人がこんな感じって誰が想像できるのか)
またひとつため息をこぼし前へと足を早める。しばらく歩くと、外からの光がいっそう強い場所に出た。先程まで薄暗い場所にいたせいか思わず目を細める。小休憩との事で、皆地面に腰を下ろし足を休め、俺も木に体を預け様子を見ると、倉瀬さんは運動が得意じゃないのか既に息が上がって、汗をかいている。
「倉瀬さん大丈夫ですか?随分と疲れている様子ですけど」
「ああ、気にしないでください。デスクワークばかりで、運動をしていないせいですから。」
(過度な労働から身体がまだ回復しきっていないのもあるのかも)
「ねえみんな!これ!」
早希さんが大声を出し、指をさしている先を見ると大きめなカバンが鎮座し、開けてくださいと言わんばかりに少しだけ開いた口がこちらを向いていた。その光景はあまりにも異様で、俺が住んでいたところからは考えられない景色だった。早希さんがカバンを開け中身を取り出す。中には分厚い本が1冊に水と食料がいくつか入っていて、やはり不思議に思う。こんなものを置いていく人が居るのか?そもそも何故こんな森の中に、いくらここが明るいからと言っても夜になれば暗闇からは避けられない。周りに人がいる様子もなく、俺たちと同じで休憩の為にカバンを置いているという感じでも無さそうだ。
(何かおかしい、この食料もいつのか分からないけど随分いたんでるみたいだ。)
『早く出た方が良いぞ』
早くこの森を出よう、と声をかけようと振り返ると滝原さん以外が輪になり座って、入っていた本を読んでいた。
「これって、魔法の本?すごい!けどなんか難しそう。私も魔法使えるのかな。」
早希さんがキャッキャと子供のようにはしゃぎキラキラとした目で魔法書を見ていてなんだか微笑ましい。
「こうかな、ウォーター!えーと、アクア?うーんサンダー!ファイ…」
単語を叫ぶ声が止まる。先程まで明るかった地面が何かに覆い隠されるかのように暗くなり、周りの音はピタリと止み、風が葉を吹く音だけがこの場に響く。座っている人達は顔を上げられないのか、プルプルと震えだし持っているものをぎゅっと握る。俺はと言うと顔を動かせず、ただ汗をかくことしか出来ない。1番に動いたのは滝原さんで「お先!」と言い大きな影の後ろへと素早く移ると、そのまま音を立てないように慎重にこの場を後にする。それを見て、俺も後について行こうと首をまわす。
「あ、ずるい」
浅田さんの声で皆我に返り勢いよく立ち上がり滝原さんについて走っていく。後ろからは大きな咆哮が響き、静寂だった森をざわつかせた。
「滝原だけ逃げるとか許さない。せめて道ずれ」
「いや、知らねえよ!俺はこんなとこで知らねー奴のために死にたかねーんだよ!」
「ちょっ、待ってください。も、もう走れな…」
「うわーん!何でまたあんな大きな魔物なの!神谷さん助けてー!」
「無理です!自分のことで精一杯なんです!古賀さん何か道具出してくださいよ〜!」
「え?俺ぇ!?えーと…く、腐ったたべもの〜!ってこんなんじゃ役に立たないよ!誰か俺の代わりに犠牲になってくれ!」
「おい!主人公のセリフじゃねーぞ!」
「知るかよ!生きるの最高!」
「もー!どうして王様はもっと強くてヒーローらしい人を召喚しなかったんですかー!」
どうにか助かろうと走るが後ろからはボキボキと何かが折れる音が絶えず聞こえてくる。
倉瀬さんのスピードがだんだんと落ち、次第に諦めたような声が聞こえる。
「もう…無理です。もう、は…走れない。」
黒い影が倉瀬さんに飛びかかる。最後に見た倉瀬さんの表情はどこか穏やかで、全てを諦めた笑顔だった。
森を抜けた後もしばらく足を止めず前を向いて走った。村が見えてきた頃、ようやく皆足を止め後ろを振り向く。倉瀬さんは着いて来ていない。
(…昨日今日の知らないおっさんを助ける度胸も度量も俺には無いんだよ。仕方なかったんだ。)
「倉瀬さん…尊い犠牲だった」
「ごめんなさい、でも仕方無かったんです。私も死にたくなくて…」
「…まぁこうなってしまったのは仕方ないことですし、自分たちは最後まで目標を完遂しましょう。倉瀬さんもきっとそうしますよ…」
「じぁ次はお前がリーダーな。なんかあった時は俺らを守れよリーダー」
「なんでそうなるんですかぁ…薄情者〜!」
(どうせ皆も『自分が助かってよかった』って思ってるはず。そうに違いない。俺だけが思ってるなんて言わせないぞ!)
俺たちは気持ちを切り替え再び村へと足を動かす。周りが開けた場所なので魔物の心配はないだろう。入口につき中を見る、人々は楽しそうに走り回り、動物は元気そうに吠え、作物は青々とよく育っている。やはりほのぼのとしていて、厄災と呼ばれるのは魔物だけではないのかと錯覚する程だ。安心して入口を抜けると、外で見た景色とは全くの別の光景が広がっていた。作物は萎れ、歩く人々は生気を失ったような顔をし、そこら中に人が倒れ、ぐったりとした犬猫までいる。何がどうなっているんだとみんな顔を合わせ困惑する。今までのは何だったんだ、何故王都とここで、こんなにも違う?ここだけに起きた厄災なのか?近くの人に声をかけるが反応がない。俺たちは恐怖を覚え、すぐ村を出た。
「ディエストさんって厄災を抑えて欲しいって言ってましたよね。これ、どうやって解決するんですか…私たちでどうにかなる問題なんでしょうか」
その言葉に皆顔を曇らせる。どんなに後回しにしても、ここを解決しない事には家へと帰れない、しかし何が起こってるのかさえ分からない物をどう解決できようか。ため息がそこらじゅうから聞こえてくる。
「そういえば、早希さん。本の内容はどうでした?」
早希さんはハッとしたように本を開く。そしてある一点を指さして言った
「魔法には主に火、水、雷、風、光、闇の6種類あるそうですけど、派生の属性がまだ沢山あるそうです。そしてその中の水からの派生『毒』は瘴気と呼ばれる厄災の対抗策になるのではないか、と書いてるんです。」
「薬は毒ってのと、毒は正しく使えば薬にもなる、みたいな話ですか。」
「ん、じゃあもしあれが瘴気なら毒の魔法が使える奴が必要って事ね。どうする?王都に戻って探す?」
「それなら今度は流石に遠回りですね、自分あの中に入っていく勇気はありません。」
「そういや山野、水飲まなくて大丈夫か?村に着いたぞ」
「あの中にまともな飲み物があるとは思えません!」
とりあえず、今度の目標は毒の魔法が使える人を探すことに決まりだろうか、その前にこの村が瘴気に侵されているのかの確証が欲しいところだ。
「って事で、最初はグージャンケンポン…クッソ…」
偵察部隊結成!メンバーは俺!俺!俺!の3人だ。
(よーし、行くぞぉ!ってなんで一人なんだよ!)




