(2)
弾む足を不自然ではない程度に抑えて歩く。
彼女の背を目で追いながら一定距離を空けながら車とと歩を切り替えながら追いかける。
博物館回覧が終わった後は一度小学校に戻り、そのまま遊びに行くのか、先ほどもいた女友達一人と公園に向かって歩いている。
博物館から数時間つけているが、友達と離れる気配はない。
焦れる気持ちもあるが、お預けにされる気持ちすら心地よいほどに焦がれている。
だが少し、いやかなりあの二人は奇妙だ。
片方の女友達は兎も角、彼女の方が何かが変だ。
しかし何と表現すればいいのかは分からない。
最高傑作の予感がするからこそ、下準備には念入りに細心の注意を払わなければ。
ただ待つ。
日も暮れ夕陽の熱さも夜の暖かさに溶けていく。
夜の帳が降りて周囲には人影が図ったようにない。
どうするか。
「二人同時、か…」
そこまで仲がいいのであれば、友情も永遠にするのも悪くない。
一緒にいた子も彼女ほどの逸材でなくとも、彼女が居なければ選んでいたほどには美しい。
同時に二人はやったことはあるが、やはり一人の方がやりやすく、警察にも目を付けられにくい。
だが、それすら気にならないほど意欲が湧いていた。これまでにないほど思考が冴えている。
その覚えた意欲のままに動く。
「はぁ、はぁ。行けた行けた行けた…!」
小さく声を潜めて車を走らせる
後部座席には意識を失った二人の"処置"前の個体。
傷は当然ない。
最高だ。最高の状態でできる。
気分を高揚するのを自覚しながら前を見て何よりも安全運転をする。
近場にある僕の家まで丁重に連れて行く。
父から借りた家でそれなりに狭いが僕が一人で、かつ防音の地下室が着いているので気に入っている。
“処置”は博物館でするが、まず質問をしてからだ。
質問の途中は声を出せる為、そこまで強力な防音設備のない職場で叫ばれるとバレてしまう可能性が高い。
そして質問は極上の素材には欠かせない。
地下室に連れて行き、縄で手足をぎちぎちに、かと言って血流が止まらないように、跡が残らないようにしっかり縛る。
手足は動かせない。だが上体まで固定してしまえば、縄の跡が残る。
逃げられない程度に縛っていく。
一仕事を終えて一安心と言いたい所だが、本番は全然ここからだ。
質問用紙を取り出し、椅子に腰掛けて本を読みながら起きるのを待つ。
本命の彼女の方を見るが、記憶に焼きついた目こそ瞑っていて見えないが、美しさは全く損なわれていない。
「…うぅ」
1時間ほどそうしていると、女友達の方が起きる。
それに続き彼女も目を覚ます。
「…うぅ」
同じように呻いて起き上がる姿に、言葉で言い表せない感情が湧き上がるが、抑えて周囲を見渡す二人を向かえる。
「…ここはどこ!?」
何もない無機質なコンクリートの締め切った地下室と家具として存在している一脚の椅子に腰掛ける僕を見て、彼女の女友達の方が聞いてくる。
「僕の家だ。早速で申し訳ないけど質問に答えてもらおうかな」
「だから、ここはどこ!?解放しなさい!」」
今度は彼女の方が同じような口調で叫ぶ。
困った。こうなると経験上、簡単には答えてもらえない。
傷をつけて脅すわけにもいかないし、悩ましい。
ドンッと足をコンクリートの床にたたきつけて大きな音を出す。
少女たちはびくりと身体を跳ね上げて口々に叫んでいた言葉を止めて、怯えた様子で黙ってこちらを見てくる。
これは演出だ。このために素足ではなく靴を履いて、中に鉄板まで入れている。
実際に手を下すわけはないが、驚き、恐怖を演出してからの方が話が早くていい。
「…質問に答えてもらおうか?」
出来る限りどすの利いた声で言い、バインダーに挟んだ質問用紙と先の丸いペンを彼女たちに手渡す。
それを二人共、怯えながら受け取り、震えながらも用紙に記入を始めた。
涙こそ浮かべていないが、一瞬見せた勝気な様子も鳴りを潜めてお互いと僕にちらちらと視線を彷徨わせる様は小動物の様で可愛らしい。
「おわ…り…ました」
「私も…」
二人同時に記入が終わったのか、バインダーごと渡してくる。
内容は後で見ようと、床に置いて二人の方を見る。
二人共、学生服に身を包んでおりどのようにするかどちらから"処置"をするか迷う。
防腐処理は一週間ほどかかる。
食糧に睡眠薬を仕込めば傷付けずに運ぶことはできる。
正直先に手を出すなら女友達の方だ。
前菜と呼ぶには質がとてもいいが、主菜の彼女ほどの逸材ではない。
「私達を…どうするつもり…なの?」
真剣に僕が悩んでいると、少し落ち着き始めたのか彼女の方が聞いてくる。
「あぁおっと。ちょっとごめんね?」
バインダーに書いてもらった名前をちらりと見る。
「えっと楓ちゃん?と凛ちゃんかな?」
主菜の彼女が楓ちゃんで、女友達の方が凛ちゃんだ。
名前を呼ぶと身体が二人ともびくりと跳ねるが、二人の反応に若干心外さを感じる。
名前呼んだだけなのに。
「どうするつもり…だっけ?安心してよ。傷つけたりなんて絶対にしない。僕はただ綺麗なままでいてほしいだけなんだ」
間違いなく本心だ
彼女達みたいな未来溢れる美しい子たちの若さを永遠にする。
それが僕の本心だ。その為ならなんだってできる。なんだって出来てしかるべきだ。
美しさ程重要なものなどないのだから。
僕のような若さの失せたようなものでもあれほどまでに美しい物の時を保存できると知ってしまった。
彼女たちに告白して気持ちが固まった。。
やはりやるなら主菜からだ。
速く、早く、疾く。
彼女を永遠にしたい。
「ふーん」
主菜の楓ちゃんがそういうと、地面に頭をなんの躊躇いも躊躇すら感じさせずに叩きつける。
「何やってるの!?」
「はぁ!?おいやめろ!!」
言葉を荒げて急いで彼女の突然の凶行を止める。
硬いコンクリートの床に血が床についている。
「痛っ…賭けをしないかい?」
顔を上げると額に血がついており、決して深い傷でもない、が"処置"をするとすごく目立つのは分かる。
あの時見た黒い瞳が僕の姿を反射しているのが分かって言いようのない感覚が襲い掛かってくる。
「賭け…?」
「そ、賭け。私の傷が完璧に治るまで二週間くらいかな?その間私達に手を出さない。その代わり私達は二週間身綺麗にして傷を負わないようにする、で、時がたてば貴方のしたいことをさせてあげる」
出された条件に従う理由などない。
だがこれ以上の拘束ははっきり言って美を損ねてしまうのも事実。
でも時間を与えてしまうと、脱出の可能性すら高まる。
でも…。
明確な損よりも僕は優先すべき点がある。
僕にとっての敗北は、彼女たちに逃げられることではない。
僕が捕まることでもない。
彼女たちが損なわれることだ。劣化することだ。
僕が生きてさえいれば"処置"のチャンスはいくらでもある。
「分かった。その代わりもし約束を破れば構わず"処置"する」
こんな最高傑作を削りたくない。
損ねたくない。額に傷なんてつけて"処置"してしまったら一生残る後悔になる。
「でも当然家には帰さないけど…学校は?」
「今は夏休み期間で今日以降は登校日もない。お互いに家に泊まるって連絡を一度すれば二週間程度なら問題ないさ。今までも何度か家にお世話になってるからね」
当然の様にこちらの懸念点など埋められている。
「ちょっと勝手に…!」
「落ち着いて。時間さえ稼げば警察が気が付いてくれるかもだし、今暴れても何もできない…でしょ?」
よく見ると楓ちゃんは震えており、その仕草は凜ちゃんにも伝わっている。
その様子を見て、凜ちゃんは顔を少し歪ませてから大人しくなる。
一先ず救急箱を取りに地下室から出る。
彼女の言い分だと傷が治るまでがリミットだ。
傷を治すのが早ければ早いほどリミットが縮まると思っていい。
そもそもが僕の気まぐれ、というほど一貫性のない物ではないが、気持ちで十分変わる余白のようなものだ。
こんな風に焦れる気持ちも僕にとっては決して悪い物ではない。
「…そういえばなんで楓ちゃんは気が付いたんだ?傷をつければ賭けが成立するって」
一抹の疑問が湧いたが胸中の様々な思いに流されて消えていった。




