春乃と会えた短い時間。
「結香、今日何時までいられるの?」
春乃が私の顔を覗き込んだ。
「お昼くらいまでかな。ずっと車椅子だから、あんまり長くはいられないんだって。」
「そっか……。」
春乃は少しだけ視線を落とした。
「じゃあ、いっぱい話そう!」
そう言って笑う春乃に、私も頷いた。
何を話そう。
何から話そう。
頭の中には、聞きたいことがたくさん浮かんでいるのに、いざとなるとうまく言葉にならない。
「そういえば、最近どう? 学校。」
「うーん、いつも通りかな。
授業も難しくなってきたし、課題も多いし!」
春乃は困ったように笑った。
「結香がいたら、一緒に勉強できたのにな。」
「……うん。」
嬉しかった。
春乃が、私のことをそんなふうに思ってくれていたことが。でも同時に、胸の奥が少し痛んだ。
一緒に勉強する。
放課後に話す。
帰り道を歩く。
そんな当たり前のことが、今の私には遠い。
「ねえ、結香。」
「ん?」
「また、学校に来られる?」
一瞬、息が止まった。
春乃は、何気なく聞いただけなのかもしれない。
それでも、私はすぐに答えられなかった。
「……わかんない。」
やっと出てきた声は、自分でも驚くほど小さかった。
春乃は何も言わなかった。
その沈黙が怖くて、私は慌てて笑った。
「でも、今日来られてよかった!みんなにも会えたし!」
「うん。私も、結香に会えて嬉しい。」
春乃がそう言ってくれたから、私はそれ以上、何も言わずに済んだ。
窓の外を見る。
いつもと同じ青空。
教室に響く笑い声。
懐かしい匂い。
あの頃の私は、こんな日々がずっと続くと思ってた。
明日も、明後日も。
来年だって。
なのに今は、またここへ来られるかどうかさえわからない。
「結香ちゃん、そろそろ時間だって。」
夏希先生の声がした。
もう、終わりなんだ。
「……うん。」
私は春乃に向き直った。
「またね、春乃。」
「うん! またね、結香!」
笑って手を振る春乃に、私も手を振り返す。
教室を出てからも、私は何度も振り返りそうになった。
でも、振り返らなかった。
次に来られる日がわからないからこそ、
今日の景色を忘れたくなかった。




