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ウィタミーキスの探命日誌  作者: MasauOkubo
不審の探求に覗かれる兆し
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依頼28:製剤会社敷地内感染状況確認

 フィンク議員からの依頼を受け、街から離れ製剤会社敷地へと赴くリーピとケイリー。


 以前はロターク本社から菌糸動力車両によって運搬された道程であったが、徒歩で踏破するとなれば相当な距離であった。休憩を必要としない自動人形が、前日に出発し、そのまま夜を徹して歩き通し、到着するのが翌日の午後だった。


 製剤会社敷地の周辺は都市部から離れた地域特有の寂れ方であり、人間の身で移動するのはいよいよもって困難な道程だ。


 一応は舗装された道路が通っているものの、周囲は手入れのされていない雑木林、荒れ果てた耕作放棄地に取り囲まれており、休憩に適した施設や店舗は存在しない。かつては賑わいがあったろう農村に点在する住宅も、ほとんどが空き家ばかりであり迎え入れてもらえるとも期待できない。


 大企業が広大な土地を買い上げ、しかし従業員の住宅や生活インフラをすべて自社内で完結させる敷地を完成させたため、土地の売却で得をした村民はさっさと地元を離れて都会へ出て行き、そのまま寂れたという流れがあったのだろう。


 モース研究主任から身体パーツメンテナンスを受け、養分液の補充も施されてから期間も空いていないリーピとケイリーは難なく歩き抜いたものの、ひとつの違和感は更に強化された形となった。


 薄明の路上に歩を進めながら、リーピはおもむろに口を開く。


「ナービルさんが通常の人間であるならば、この距離を踏破するのは殆ど不可能です。女性秘書であるという職種を考慮せず、訓練された人間であると仮定しても尚のことです。」


「事前に食事を摂らず、製剤会社敷地から脱出後は睡眠も食事も無しに歩き通したのだからな。そのうえで疲労困憊の体ではなく、心身ともに余裕が残っていた。彼女は、警邏隊員トロンドと同様の存在ではあるまいか。」


 ケイリーの言葉に、リーピは頷き返す。


 長時間にわたって養分補給や休憩を必要とせず、人間以上のパフォーマンスを発揮し続けられる。さらには菌糸汚染の発生した現場に身を置いても、感染することがなかったトロンド。


 その体質を見たプロタゴとアリシアが、歓喜の言葉を遺していたことも鑑みて、トロンドは生態上の欠陥が無い特異菌糸を内包しているのではないか……とリーピとケイリーは推測していた。むろん、事実としては確定しておらず、その推測は他言せぬようにしている。


 小柄で細身な女性であるという外見や、必要な事項以外は口にしない振る舞いの点でも、トロンドとナービルは類似していた。


 ナービルの運動能力については直接確認する機会など無かったが、製剤会社の敷地が視野に近付くにつれ、彼女がそこから脱出したこともまた尋常の人間には至極困難な振る舞いであると判断された。


 敷地に近付きすぎる前に、リーピとケイリーは一旦足を止め、道路脇のブロック塀に身を隠しながら喋り合う。


「製剤会社へと出入りするための、全ての門扉が閉鎖されています。それだけであれば以前と同様ですが、門衛詰め所や訪問客応対用の窓口までシャッターが下ろされています。ナービルさんは、あの高い塀を乗り越えでもしたのでしょうか?」


「もとより外部との出入りが大きく制限されていたが、今は完全に外界との接触を絶っているようだな。脱走したナービルによって内情が漏れたことにはおそらく気づいただろうし、敷地内に外部機関からの調査が入ることを徹底して拒むつもりかもしれない。」


 当初は企業として産業スパイの侵入を物理的に阻止する名目で、工場やオフィスのみならず従業員用居住区まで、堅牢な塀や門扉によってぐるりと取り囲んでいた製剤会社敷地。


 しかし今はその建造物が、特異菌糸罹患者たちの籠城にそのまま利用されているらしかった。


 そのままでは滅菌剤の生産及び出荷はほぼ不可能だろう。が、利益を狙っていた市長の意思が既に消え去り、感染した特異菌糸の意図が働いているのであれば理に適った話である。菌糸の立場としては、世の中に滅菌剤が流通しなくなることこそ望ましい。


 これまでの少数個体による生存と異なり、籠城できる拠点を得たうえ大集団で生存し続ければ、特異菌糸たちが言うところの“我らの道を示す存在”……すなわち、生態的欠陥が無い特異菌糸との邂逅、確保を果たす可能性も高まるだろう。


 ナービルがトロンドと同じ性質を有しているのならば、彼らは悲願を眼前で取り逃したも同然であった。


「何にせよ、現時点で製剤会社敷地内を占拠している面々にとっては、可能な限り長期間の活動を続行することが第一の目標となるはずです。いずれ人口密集地まで行動範囲を拡大するのならば、いよいよもって多量の養分源を備蓄する手段を講じるでしょう。」


「……リーピ、製剤会社敷地に向かう前に、ちょっといいか。すぐ横にある、この家、様子がおかしい。」


 ケイリーが視線を向けていたのは、今しがたリーピが身を寄せたブロック塀の向こう側、すなわちこのブロック塀を建てた当の住宅の内部であった。


 かろうじてケイリーの目線の高さで覗き込める高さゆえ、身長の低いリーピは爪先立っても塀の内側を覗き込めない。ケイリーはリーピの両脇から腕を差し込み、彼にも同様にこの住宅内部を見えるように体を持ち上げてやった。


 たしかに、状況は異様であった。


 窓や扉は開け放たれ、部屋の中には照明が点けられたままである。そろそろ夕刻に差し掛かる頃とはいえ、家宅内の照明を全て点灯させっぱなしにするには明るすぎる時間帯だ。


 なによりも、庭に面した樹脂窓が割られており、窓枠には庭から上がったのだろう土足痕がついていることがますます状況の剣呑さを物語っていた。


「住居侵入が発生した恐れがあります。ケイリー、付近に公衆通話機はありませんか?」


「……見当たらない。侵入者も、この場所では容易に助けを呼べないことを見越して犯行に及んだのだろう。」


 巨大な製剤会社の敷地内で特異菌糸の感染が発生したことですら、この地域から他の街へと伝わるのが遅かったのである。


 菌糸通話網が行き渡っていない田舎で、寂れた一般の家屋からの連絡が都会まで届くはずもなかった。仮に通話機が存在したとしても、既に通話線は切られていることだろうし……万が一、警察に連絡が届いたとしても、都会から離れた地域までは彼らも手が回らない。


 状況を視認したリーピの身体を持ち上げるのをケイリーは止め、地面へと下ろしてやりながら尋ねる。


「どうする、私たちが内部を確認するか?」


「限りなく高い確率で事件発生を推測できる状況ではありますが、確定していない以上は無断で侵入するわけにはいきません。重要な調査依頼に取り掛かろうとする矢先に、他の問題を誘発するべきではないと考えます。」


 リーピはそう言いつつも、その住宅の入り口門へと回って観察を続けた。


 門は一応閉まっていたが、ますます際立って異様な状況がそこにあった。


 一枚の掛布団が、皺や破れ跡まみれになって、玄関までの飛び石脇に落ちていたのだ。


 蒔絵のごとき意匠が刺繍された布団は、いかにも老人好みといった様相であったが高級なものに違いない。土に汚れた状態でそれが野ざらしとなっている様は、静物でありながら剣呑な空気を存分に伝えてきた。


 リーピはケイリーと目を見合わせる。いよいよもって事件性は明瞭だったが、それでも現場に踏み込みはせず、この場での推測を補強するに留めた。


「照明が点きっぱなしであることを考慮すれば、この一軒家への侵入が発生したのは夜のことでしょう。昨晩か、更に前かは定かでありませんけれど。住民数も分かりませんが、少なくとも一名は就寝中に連れ去られたものと推測されます。」


「今の所、住宅内に何者かが居る気配は無いな……連れ去りということは、製剤会社内部の連中が、養分を得ようとしたがための行為か?」


「おそらくは。地元住民をも特異菌糸に感染させることも考えられないわけではありませんが、集団内の個体数が十分であるとすれば、これ以上は養分を必要とする個体を増やそうとはしないでしょう。」


「ナービルの言によれば、彼らは植物用の液体肥料を大量に購入していたとのことだが、それだけでは足りないのだろうか。」


「未開封の液体肥料なら保管がきくでしょうし、いよいよ養分の入手手段が断たれる状況に備えておきたいのでしょう。彼らが周辺地域に求めるのは、養分、言い換えれば捕食対象です。」


 土壌や他の動植物からも菌糸は養分を吸えるだろうが、耕作放棄地ばかりが広がるこの地域で、最も養分が凝縮された存在は人体に他ならない。


 かつて街の中でプロタゴとアリシアが実行していたように、特異菌糸罹患者は人間の肉体を養分として扱う発想に至りがちであるらしい。それは、生態系の最上、頂点捕食者の座を人間から奪おうとする振る舞いでもあった。


―――――


 夕刻を過ぎ、周囲が宵闇に沈むころまでリーピとケイリーは先ほど発見した不審な一軒家の傍で待機したが、住宅の内部には何も居ない様子であった。


 住民が健在であることもなく、外出していた親族が帰宅してくることもなく……侵入を行った存在が現場に潜み続けているわけでもないらしい。リーピとケイリーの推測が正しければ、今ごろ実行犯は製剤会社敷地内へと戻り、住民の肉体を加工した養分液を摂取していることだろう。


 リーピとケイリーは調査開始直前の装備点検を行っていた。


「粘液滅菌剤、全ての注入器への充填は確認済みです。ケイリー、装着した防具は挙動を阻害しませんか?想定外の事態においては逃走を最優先とすべきです。」


「問題ない、モース主任が自ら、私の体型に合わせて設計したのだから。逃走が必要な場合はリーピが先行しろ、お前が損傷しても、庇っている余裕があるとは保証できない。」


 いつも通りに作業服を着こんでいるリーピとケイリーであったが、灰色を基調に灰緑や紺色の直線的なパターンが染められた迷彩模様が施されていた。姿を隠しきれなかった場合も、人型の輪郭を示さぬようにすれば遠方からは侵入者として認識され難い。


 更に、実力行使が必要な場合に備えてケイリーは身体を防護するアーマーを装備していた。移動能力を損なわない程度に軽量であり、特に脚部を重点的に守っている。敷地内の調査を終えて離脱した後、長距離を踏破して街まで戻る必要があるためだ。自動人形は下半身さえ無事なら歩行可能であり、上半身が損傷しても人間のように衰弱することはない。


 リーピはと言えば、粘液タイプの滅菌剤を充填した注入器を幾本か携行していた。粉末タイプよりも強力な薬効を発揮するそれは、特異菌糸罹患者に注入されれば忽ち対象の活動を停止させるだろう。


 ……このようにリーピとケイリーがいつになく物々しい装備をせざるを得なくなったのは、以前のように作業用自動人形に扮して侵入するという手が使えないためである。


「彼らが液体肥料を再び大量注文する、となれば園芸業者の雇った自動人形として入り込むことも可能だったのですが。」


「もはや外部に注文を行うこと自体、彼らは実行しないかもしれない。逃亡者が発生したことには気づいているだろうし、地元住民の肉体という養分源を既に得ているのだから。」


 直接侵入を行う手段をとるにあたって、ロターク本社のモース研究主任からは可能な限りのサポートを得ていた。


 自動人形メーカーであるロターク社としても、元をたどれば自社が管理していたはずの特異菌糸が外部で蔓延し、被害を拡大させているのを看過できない。あわよくば穏便に片付けたいという意図もあるだろう……そろそろ厳しいが。


 下手をすれば他社への不法侵入として糾弾されかねない行為は、既に自社の保証から離れた、正規の扱いであればとっくに廃棄されている筈の自動人形にこそ適任であった。


 リーピとケイリーに対し前述の装備品群を供与されたのをはじめとして、製剤会社敷地内への侵入経路もロターク社から提案されていた。


「下水管は地下深くに埋設され、進入不可能。敷地を取り囲む塀に脆弱な箇所はなく、乗り越えるにはあまりにも高すぎます。相応の機材を準備すれば乗り越え可能かもしれませんが、夜間とはいえ目立つ手段を用いることはむしろリスキーです。」


「ただでさえ、菌糸罹患者は私たち自動人形と同様、暗所で視力が阻害されることはないのだからな。とはいえ、だからといって、あえて正門を侵入経路に選択するのは危険ではないのだろうか?」


「ロターク本社からの提案です、侵入成功確率が最も高い手段であると信頼して構わないでしょう。」


 リーピはそう言いながら、既にスタスタと侵入予定地点へと歩きだしていた。


 ケイリーはそれでも不安げであったが、自分が欠けては成立しない作戦のため、リーピについて行かないわけにもいかなかった。


―――――


 製剤会社敷地への正門脇には、門衛詰め所が設置されている。


 本来は来客に備えて夜間でも照明が灯され、窓口は開けられているはずなのだが、今は真っ暗なままシャッターが下ろされている。外部から見れば、門衛を務める者が存在しないかのような光景だ。


 が、真っ暗な詰め所の中には、見張り番を任された男がふたり、佇んでいた。


 当然ながら、菌糸罹患者である。夜間の活動でも照明が必要ない彼らは、訪問客を待つことなどなく、ただ万が一、内情を探ろうとする侵入者に対してのみ備えていた。


 養分摂取量を制限するため敷地内で活動を続ける個体の選別が完了した今、彼らにとって唯一の懸念は、忽然と姿を消した一名のことである。製剤会社敷地内の全員が菌糸罹患者となった状況を見知ったうえで、外部へ何者かが逃亡したとなれば、その情報を受けて外部組織が対応に動く可能性もある。


 あるいは、その前段階として、実態を調査する者が送り込まれる方が先か……。


「定期巡回、行ってくる。」


「頼んだ。」


 短く言葉を交わし、門衛詰め所から一名が出ていく。


 まだ実例が無いとはいえ、侵入者への警戒は絶やさぬようになっていた。敷地を取り囲む塀に損傷が無いか、侵入の痕跡が無いか、定期的に見て回るのだ。


 余計な養分消耗は極力抑えたいところであったが、内情を知る者が一名脱走したことが明確となっている現在、警戒の目を光らせぬわけにもいかない。行動による養分消費を鑑み、巡回を担当する個体には優先的に養分が分配される決まりにもなっていた。


 門衛詰め所に残された男は、身じろぎせず物音に聴覚を集中させ、自らの存在を隠しつつシャッターの隙間から門外の状況を見つめ続けている。


 不意に軽い足音が近づいてきたことで、彼は急激に神経を尖らせた。


「……?」


 シャッターの隙間から姿が見えぬということは、かなり小柄な存在だ。足音の軽さからすると、人間の子供程度の体重と推測される。


 子供が近隣を行動することはあり得ない場所であり、時間帯だった。都市部から遠く離れたこの場所で、夜に子供だけがうろつくことはまず考えられない。


 なによりも、この近辺の農村に住んでいた数少ない人間たちの身柄は残らず確保し、養分液へと加工し終えたのだ。生存している住民は居ない。


「誰だ……?」


 男は門衛詰め所の扉をそっと開けて、外の様子を窺う。


 少し離れたところで、こちらに背を向け、うずくまっている子供の姿があった。


 明らかに自分よりも非力な存在に対して警戒する理由など無いはずだったが、男はそれでも声をかけるのを一瞬ためらった。養分液へと加工するために確保した近隣住民の中に、ちょうど同じぐらいの年頃の少年が居たことは記憶していた。


 幽霊、という概念は、現在の男の思考回路を占拠している特異菌糸に理解できるものではなかったが、生前の頭脳に刻まれた畏怖の念は消え去っていなかったのだ。


 意を決して、彼は見知らぬ子どもに声をかける。


「誰だ、きみは。ここに何の用がある。」


「……。」


 うずくまって背を向け続ける少年は、返答せず、身動きもしない。


 男の思考内では先ほどの躊躇いが去っていき、特異菌糸としての損得勘定が表に出てきた。衰弱して動けない状態の人体であれば、養分の足しになる。まだ若い個体ともなれば、多少消耗していたとしても養分の質は悪くないはずだ。


 少年がここに現れた経緯は不明のままであったが、ともあれ状況を確認せねばならない。


「おい、話を聞いているか?迷子なら、ウチで保護してやってもいい。食事も用意してやるぞ……。」


 ドサリ、と男の背後で重い音がした。


 振り返れば、つい先ほど詰め所を出て行った相方が、首元を抑えて倒れていた。傍らには、作業服を着こんだ不審者が、長い針を飛び出させた筒状の器具を手にしている。


 すかさず警棒を取り出し、男は警告の声を上げた。


「おい、何してる!そいつから離れ」


 彼が喋ることが出来たのは、そこまでだった。


 注意が目の前の状況に向いていた彼は、背後を全く警戒していなかった。つい先ほどまでうずくまっていた少年が自分の背に飛びついてくるのを、防げるはずもなかった。


 驚いて振りほどこうとした彼の肩の中で、骨格が砕ける鈍い衝撃が走る。


 既に、首元には滅菌剤の注入器が突き刺さっていた。


「え……?」


 辛うじて出た声は、既に細胞が枯渇しきった喉を通った、隙間風のごとき音。


 急激に死滅していく菌糸細胞。既に頭部の半分まで真っ白に枯れ尽くし、身体制御も停止した彼は地面に倒れ伏す。


 渇き切った半身が、地面に倒れた衝撃で砕け散る。


 それが、辛うじて彼の視覚が捉えた最後の光景であった。




「想定していた以上に強力な効果ですね、まさか、ほんの数秒で対象の全細胞を枯死させてしまうとは。怪我はありませんか、ケイリー?」


 倒れた男の首元から薬剤の注入器を引っこ抜きながら尋ねるリーピに、ケイリーは答える。


「奇襲したのだから反撃を受ける暇もなかった。リーピこそ損傷は無いか、先ほど無理やり振りほどかれたように見えたが。」


「問題ありません、滅菌剤の注入から直ちに対象は衰弱していましたので。」


 リーピと言葉を交わしながら、ケイリーは扉が開け放たれた門衛詰め所の内部を覗きこむ。


 他の見張りが残っていることを警戒していたものの、ここで見張りを担当させられていたのは二名だけであるらしかった。


「たった二名とは……片方が巡回に出たら、単独で門を守る羽目になってしまうじゃないか。よほど人員不足は深刻と見える。」


「あまり多くを生き延びさせようとすれば、それだけ生存に必要な養分量も増してしまいますから、生存個体は選別したのでしょう。それよりもケイリー、無力化した標的の残骸を隠すべきです。」


 リーピに促され、ケイリーは先ほど倒れた門衛の身体を引きずって、詰め所のデスク下へと運び込む。


 内部の菌糸がすっかり枯死しきった身体はごく軽く、ケイリーが引っ張った腕は門衛の服の内側でちぎれていた。乾燥し尽くした二体分の身体は、本来の人体ではあり得ぬほどに小さく畳まれ、狭いデスクの下に押し込まれた。


「では、ケイリー。正門の見張りを無力化したことに気付かれる前に、可能な限りの調査を完了しましょう。優先目標は、元市長の身柄が菌糸汚染されていることの確認です。」


「敷地内の全員が感染していることを確定するのは、流石に厳しいだろうな。」


 門衛詰め所の敷地内部側の扉をそっと開け、隙間から様子を窺いながらケイリーはリーピへと答える。


 昼夜関係なく行動できる特異菌糸罹患者たちの特質を示すように、この場所からでも敷地内を歩き回っている人影は幾名か確認できたのであった。

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