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ウィタミーキスの探命日誌  作者: MasauOkubo
不審の探求に覗かれる兆し
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製剤会社敷地内における異常検知

 リーピが大規模感染の兆候を発見した旨を、フィンク議員へと早急に連絡したのは正解であった。


 空中では枯死してしまうため空気感染しない特異菌糸も、養分と水分が固定されている土壌を媒介とすることで特定の条件下においては爆発的な感染力を発揮することが判明した。現時点で感染が推測される人間集団は、大きく二つある。


 まず、市長邸宅の解体現場で働いていた作業員たち全員。


 いかに安全基準を遵守し、身体を防護する作業服や手袋を着用していたとしても、一切素肌を土に触れさせることなく作業を完了することはほぼ非現実的であろう。


 次に、製剤会社の滅菌剤生産ラインを占拠しに向かった現市長一派。


 市長や、取り巻きの議員たちが土に直接触れる作業に従事することはあるまいが、製剤会社敷地内の土壌は深刻な汚染状況にあるはずだ。最初の感染から時間が経ち、既に特異菌糸が枯れ果てているものと油断している彼らが、菌糸汚染を防ぐ手立てを十分に講じるとは期待できない。


 現市長の退場を望むフィンク議員が、早急な対処の必要性を見出した感染集団は当然ながら前者、市長邸宅の解体作業員たちである。現在の街における問題を早急に解決した手腕を示すことで、フィンクは市民からの支持を集めるだろう。


 解体作業員の一員であったソントの自宅調査を終えた翌朝、リーピとケイリーはフィンク議員邸へと呼び出された。


「朝っぱらから呼びつけてスマンな、寝不足になってねぇか?」


「お気遣いありがたく存じますが、僕ら自動人形には睡眠が必要ありません。フィンク議員は、早朝からお元気ですね。」


「世が乱れるほどに政治家は元気になっちまうんだ、お前らも冗談への返しは学習しとけ。」


 今となってはすっかり門衛とも顔なじみとなったリーピとケイリーを、書斎へ招き入れるフィンク議員。


 邸内では早朝であろうが関係なく、慌ただしく人員が立ち働いている。市議会議員たちを現市長へ対立する派閥へ引き込む工作が完了した今、フィンク議員を新市長の座へと押し上げる算段のため、多数の若手議員や秘書らが各々仕事に追われているのだ。


 書斎のテーブル前、大型の事務椅子に腰を下ろしたフィンク議員は、リーピとケイリーの方へメモを書き散らした一枚の書類を半ば投げるようにして寄越す。


「昨日の時点で、お前らが率先して俺に連絡を入れたのには感謝する。市長邸宅の解体現場、動員された作業員のリストは俺の手元にあったからな。」


「以前の下町における簡易宿泊所での大規模感染とは異なり、感染可能性のある人物が全員リストアップされているのは追跡調査においても有利ですね。それで、対処は順調なのですか?」


「昨晩、日付が変わるまでに感染の疑いがある全員を拘束し、特異菌糸罹患者で確定した身柄は残らず焼却処分した。帰宅した作業員の家族全員が感染者だった例もあったが、可哀想などとは言ってられん。メディアが聞きつけたら人権問題だの何だのと騒ぎたてかねんところだが、現市長手ずからの隠蔽体質が大いに役立った。」


 すらすらと述べるフィンク議員の言通り、先ほど投げ渡された書類には解体現場の作業員たちの氏名と住所がずらりと載せられており、その全てに上からペンのインクで線を引かれ、拘束および処理が完了した時刻まで記載されていた。


 拘束された後、感染していないことが判明した作業員は全体の一割にも満たないようだった。リーピはフィンク議員へと尋ねる。


「こちらに記載されている、感染が確認されなかった方たちは帰宅されたのでしょうか。」


「いや、大規模感染の現場にいた事実には変わりない、時間差で感染が確定するか否か、警察署内で経過観察中だ。自宅の鍵は開けさせ、現場に持ち込まれた作業服、それに触れた家具や私物は例外なく焼却処分する。当然、市長邸の解体現場に帰すわけにもいかない。あの土地も滅菌作業が済み次第、しばらく立ち入り厳禁だな。」


「解体作業に従事した方々にとっては災難に違いありませんが、適切な処理と評価できます。」


 リーピは解体作業員のリストをケイリーに渡しつつ、そう語った。


 ケイリーは無言のまま、表情を僅かに翳らせていた。今回の件でもまた、感染を引き起こした元凶とは関係のない、ただ自分の仕事をこなしていただけの作業員たちが巻き込まれた形となっていた。無辜の民ばかりが被害者となる状況は、理不尽そのものであった。


 とはいえ、感染を隠して市民の中に紛れ込み、感染拡大の機会を積極的に増やしていく特異菌糸の特性を鑑みれば、一切の妥協なく対策を進めるフィンク議員の方策が最適には違いなかった。被害者に情を掛けるなどして対策に隙があれば、制御から逃れた特異菌糸罹患者が市内に残ってしまうだろう。


 それでも、リーピは自身の認識の届く範囲に限るとはいえ、気遣われるべき存在への言及を忘れなかった。


「今回の集団感染において、遺族の方々に対する保障は十全に用意されるのでしょうか。少なくとも、発覚の契機を作った最初の通報者は、今後の私生活について困窮しておられました。」


「心配すんな、ちゃんとやる。何しろ、この俺が新市長となるにあたって、世間からの好印象を抱かせる材料に出来るからな。旧市長の負の遺産を全力で清算するのが初仕事だ、ファーストインプレッションは万全になる。」


 政治家らしく、打算に基づく行動決定であったが、だからこそ実行については信頼できるのがフィンク議員であった。支持者を増やすという目的が明確ゆえに、政策実行の約束を有耶無耶にすることは無いだろう。


 一方で、別の書類を取り出しながら、フィンク議員はリーピとケイリーへ告げる。


「その書類は捨てといてくれ、俺が的確に感染者対策を行った証拠として持っておいてもらってもいいがな。お前らに頼みたい仕事はこっちだ。」


 今度は投げ渡すようなことはせず、フィンク議員は席から立ち上がり、手ずからリーピへと新たな書類を手渡す。


 新たな仕事依頼と言いつつも、こちらの書類は何故か酷く汚れていた。皺だらけであり、更には一度滅菌剤を吹き付けられたのだろう、こびりついた薬剤の粉末で表面がザラついていた。


 印字されていた内容は、滅菌剤生産ラインの作業マニュアル、その一部分である。図面の傍らに、作業手順やメンテナンス事項についての注意がびっしりと書き込まれている。幾綴りもあるマニュアルから、無作為に一枚を取り出したような紙面であった。


 内容に目を通しつつも、フィンク議員の意図を汲み取れきれていないリーピは問いただす。


「これは、滅菌剤生産ラインに関する書類ですね。製剤会社内部から持ち出されたものであることは推測できますが、これに纏わるお仕事とは何でしょうか?」


「印刷された文を読み取るスピードは流石だな、自動人形さんよ。だが、俺が見てもらいたいのは、その裏面の殴り書きだ。」


 フィンク議員から促され、リーピは書面を裏返した。


 たしかに、そこには消えかけるほどにか細い、しかし書いた時の焦りは伝わってくる、鉛筆の字がのたうつように残されていた。


「製剤会社 全員感染 進入禁止」


 情報としては漠然としすぎた内容であり、その正確さを吟味する余地など皆無であった。


 が、現状を推測する材料が十分に揃った今となれば、これだけ断片的かつ乱雑な文面であることそのものが、情報の信憑性を高めていた。


 リーピとケイリーは視線を上げ、共にフィンク議員と目を合わせた。自動人形の眼差しに感情による変化はないはずではあったが、まだ何も喋らぬうちからフィンク議員は彼らが真相を察した様を受け取ったようであった。


「お前らの懸念、もう一方も当たった、ってことだ。その書きつけは、ちょうど今朝早く、製剤会社の敷地から逃げ延びてきた若い秘書が握ってた。誰にも頼れず、あの企業城下町からここまで徒歩で来たんだろうな。重要情報を持参してお疲れのところ悪かったが、とりあえず頭から滅菌剤をぶっかけて経過観察のため留置所にブチこんである。」


「製剤会社敷地内からの脱出には成功したものの、外の居住区に辿りつく前に力尽きてしまう懸念に備え、最低限のメッセージを携えておられたのですね。」


「で、お前らに寄越す依頼内容は、おおよそ推測がついてるだろうが、製剤会社の現状確認だ。全員感染したってのなら、いくら連絡しても返答しやがらねぇ現市長も、市長のケツについてった連中も全員、くたばってるってことになる。そうなってくれれば御の字だが、確証がないままに状況を動かすわけにもいかねぇ。」


 滅菌剤販売で得られる利益を独占しようとしていた市長や取り巻きが、特異菌糸によって全滅したのなら、確かにフィンク議員にとっての障害が一挙に取り除かれることとなる。


 今まさに街の新たな代表として地盤を固めようとしているフィンク議員にとっては、一刻も早く状況を確定したいところであった。むろん、まだ健在だった特異菌糸が製剤会社外部へと感染拡大する事態を防ぐためにも、現地の内部調査は必須である。大規模な菌糸汚染の現場となれば、人間が入り込むわけにいかない。


 リーピは頷き、フィンク議員が示す手振りに従い、その裏面にメモが走り書かれた書類をポケットに収めた。


「その秘書さんご本人からお話は聞けますか?」


「鉄格子越しにはなるが、出来るぜ。奴に喋る気力が残ってるんなら、の話だが。ちゃんとメシを食わせてやってるだろうな、警察連中は……。」


 フィンク議員は席を立たなかったが、代わりに机の引き出しから面会手続きを省略する書面を取り出し、自筆のサインを書き込んだのちに判を押し、リーピへ手渡した。


 それを受け取りながら、リーピは頭を下げ、今回の依頼を引き受ける旨を手早く述べた。


 既に、背後の書斎入り口にて、フィンク議員への用件を待っている面々が列を為していることには気づいていた。


「では、今回のご依頼、承りました。然るべき情報収集の後、製剤会社敷地内へと赴き、現地の状況を確認してまいります。調査報告は、本日中とはいきませんが、数日内に行います。」


「確実な調査をしてくれるんなら、数日程度なら待ってやる。俺に手を貸してもらいたいことが出たら、後からでも何でも言ってくれ。」


 改めてリーピとケイリーは頭を下げ、フィンク議員の書斎入り口に迫っている面々をかき分けるようにして外へと出た。


 せわしない屋敷から出た後、リーピは改めてポケットから先ほどの書面を取り出す。


 明るい場所で見れば、ますます薄れて消えそうな鉛筆書きの字をしばらく見つめた後、リーピは口を開いた。


「おそらく、女性の字です。自身以外の全員が菌糸罹患者となった製剤会社敷地から独りで脱出して、そのまま街までの遠路を踏破してきたという経緯を聞いた時点で、男性秘書を想定していましたが……。」


「何にせよ、実際に会えば、確定することだ。秘書として働いてきた者には、自身が留置所で一晩を過ごす経験など想像もつかないだろう。肉体面のみならず、精神面でも憔悴しきっているかもしれない。」


 リーピを先導して警察署へと向かうケイリーの足取りは、心なしか急いでいた。


 菌糸汚染への警戒ゆえ致し方ないとはいえ、長距離移動の疲れを労わられることもなく、滅菌剤を噴霧されたまま留置所に入れられるという扱い。並の人間であれば、心身ともに確実に衰弱する一方である。


 これ以上、理不尽な原因による犠牲者が増えるべきではなかった。


――――


 警察署の窓口に顔を出した職員は、フィンク議員直筆の面会申請書を手にした自動人形二体を前にして、露骨に面倒臭そうな表情を示した。


 事前の連絡なしに現れる訪問者をいかに手っ取り早く門前払いするか、その手腕ばかりを磨いてきた公務員にとって、議員から特権を与えられた遣いの者が現れることは災難そのものであるらしい。


「リーピ探命事務所です。フィンク議員によるご指示で、今朝がた製剤会社からこちらへ到着された議員秘書さんから聞き取り調査を行いに参りました。」


「はぁ……おーい、誰か、受付代わっててくれ。」


 窓口の職員が事務所奥へと声をかけても、自分の仕事を早く済ませることにしか興味の無い他の職員が席を立つことはない。辛うじて、一番若手と見える職員だけが、座ったままながら頭をぴょこっと下げて中途半端な会釈だけ返した。


 幾度も溜息を吐き、渋々といった手つきで留置者との面会許可証を作成し、嫌々ながら留置場所への扉を開く職員。


「どーぞ。」


 外回りの仕事から離れて長いのだろう、デスクワークで蓄えた贅肉を腹周りに揺らしながら、職員は鉄格子の並ぶ廊下を進んでいく。


 彼の丸っこい背中が進む先、リーピとケイリーは既に自分達が面会を望む相手が入れられている留置場所を判明させていた。一か所だけ、滅菌剤の白粉が撒き散らされた床がある。ある程度は清拭されたのだろうが、薄暗い中では白粉の痕跡はわかりやすかった。


 鉄格子を叩き、職員は中に収容されている者の名を呼ぶ。


 その者は感染者か否か、経過観察を以て判断するためにここに入れられているのであって、トラブルや被疑によって拘束されているわけではないのだが、そんな経緯を職員は慮る気もないのかごく粗雑な呼び方であった。


「ナービル。お前にお客さんだ。フィンク議員からのお遣いだとよ。」


 鉄格子の内側を覗き込んだリーピとケイリーは、自分たちの推測が若干外れていたことを知った。


 女性秘書である、という推測は当たっていた。上背はあるものの、男性ではあり得ないほどにほっそりした胴体と腕がまず目についた。


 頭から被った滅菌剤の粉末まみれで真っ白になっており、歩きやすさを重視したのか下には作業服ズボンや作業靴を着用していたものの、上着には女性用スーツのジャケットを羽織っている。伸ばした髪を後ろに流し、簡素な髪留めでまとめた顔立ちも明らかに女性のそれだった。


 しかし、疲労困憊の体で、さらに一晩鉄格子の内側で過ごす羽目になり、憔悴しきって震えているのではないかという様相への推測については外れていた。


 表情には一切緩んだところが無く、リーピ達へ向けた視線には警戒の色こそあれ、精神面での余裕はかなり残っていた。留置所内の粗末なベッドに彼女は腰掛けていたが、項垂れもせず姿勢を正したまま微動だにせず座り続けていたのである。


 事前にフィンク議員から伝えられた情報が無ければ、リーピもケイリーも、彼女が女性型自動人形ではないかとまっさきに推測しただろう。リーピは口を開く。


「ナービルさん。あなたが、製剤会社敷地から脱出してきたという秘書さんですか?」


「はい。トニー議員の秘書を務めておりました。自動人形であるあなた方をフィンク議員が起用したということは、製剤会社現地の調査に踏み切ったということですね。」


「そうです。名乗りが遅れましてすみません、僕はリーピ、こちらの相棒がケイリーです。現地調査に先立ち、内部状況について可能な限り情報収集を行う算段です。」


 リーピは返答しながらも、このナービルという女性秘書には、警邏隊員トロンドに似た雰囲気を感じていた。


 発言時、最初から要点のみに言及し、会話内容に無駄が無い様である。ことによっては、精神的に消耗しきっているだろう秘書のメンタル面を気遣うところから始まり、本題に入るまで相応に手間がかかるだろうとも予測していたのだが、現状は情報収集において実に好都合だ。


 初対面の状態から一言交わしただけで、リーピとケイリーが自動人形であることに気付く洞察力もまた、ナービルの精神的余裕の裏付けであった。


 それゆえリーピはナービルとの会話をそのまま続行したが、ナービルに全く心神耗弱の様子が見られない理由については不明のままだった。


「こちらにあなたが所持していたという走り書きをお持ちしましたが、『全員感染』というのはナービルさんご自身が確認された範囲で、という認識でよろしいでしょうか。」


「その通りではありますが、あの製剤会社内部にて感染していたのは、私以外の全員であると判断していただいて支障ありません。脱出する前に、敷地内全ての区画を確認しましたので。」


「なるほど。リスクある行為とはいえ、念入りな確認をしていただいたのは有難いです。ところで、製剤会社内で蔓延したのが特異菌糸であれば、健常者と罹患者の識別は容易ではないと思われるのですが、ナービルさんはいかにして感染の事実に気付かれたのでしょうか?」


「彼らは、敷地内に非感染者が残っていないと判断してすぐに、養分及び水分の多量摂取を可能とする状況作りを開始しました。具体的には水道管の増設、そして敷地内の植生保護を名目とした液体肥料の大量購入です。菌糸罹患者は、製剤会社敷地内においては隠すことなく、液体肥料と水を大量に飲み続けています。」


 それは確かに、菌糸罹患者の振る舞いとして明白であった。


 液体肥料を直に飲むことや、過剰に水分を摂取する振る舞いは、一般社会においては異常な行動であり、いかに生前の宿主の振る舞いを模倣する特異菌糸罹患者とて、目撃されれば感染の疑いを向けられることは避けられない。


 製剤会社敷地内という、閉鎖的領域だからこそ隠し立てもせず、特異菌糸として生存する手立てを行える……と、連中は判断しているのだ。


 リーピはナービルに対し、さらに尋ねるべきことがあった。


「でしたら、もう一つ、疑問が生じるのです。特異菌糸が液体肥料摂取の振る舞いを隠さないということは、敷地内の全ての人間が感染したと確信するに足る状況があったはず。ナービルさんは、いかにして感染を逃れたのでしょうか?」


「敷地内にて提供された全ての食事に、特異菌糸が混入される形で感染が拡大したためです。市長や議員さん達、さらに集められた研究員や作業員の方々は全員、食事を摂る必要がありました。私だけ、あの場所で出された食事を口にしなかったのです。」


「そうでしたか、であれば敷地内の全員が感染する状況は不可避だと思われるでしょうし、ナービルさんだけが感染を逃れることは可能ですね。ところで、ナービルさんは食事を摂らないまま、製剤会社を脱出し、ここに至るまでの長距離を踏破してこられて、栄養失調の予兆は見られないのですか……?」


「そこまでだ、面会時間終了。」


 リーピとケイリーの背後でずっと立っていた、肥満体型の職員が質問を遮るように声を上げる。


 自動人形として、人間の指示に従わぬわけにはいかない。リーピは大きな謎……ナービルが満足な食事もなしに活動し続けている理由の不明であること……を残したまま、職員に追い立てられるように留置場所から立ち去るしかなかった。


 とはいえ、リーピからの質問に返答しかけて開かれたナービルの口の中だけは確認できた。


 舌や歯茎からは多少血の気が薄れているものの、舌や歯がそろった、人間の口腔内である。ナービルは自動人形ではない。


 女性であるナービルの留置場所の監視を男性職員が務めていることにもまた、疑問が残った。今回はあくまで経過観察のために入れられているのみだが、通常ならば、女性職員が担当するはずである。


 今まさにリーピとケイリーの退去を急かしている男性職員が、鉄格子越しであろうとナービルの面前にあまり長居したがっていない様もまた、何やら理由がありそうだった。

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