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第16節

 真夜中、月明かりが優しく照らす中、村に建てられた窯はまだ煙を吐き出し続けていた。

 とはいっても材料となる粘土は使い切り、現在は素焼きの粗末な陶器を作っている。 

 高価な磁器は裕福な家に、粗末な陶器は貧乏人や使い捨ての食器に使われる。


 「おおフィルか。お疲れさん」

 「ああ、ありがとう」


 地面に土が付くのも構わず座るフィルの隣に器に入ったビールを飲みながら村の男が来た。

 ひとしきり仕事の終わった運搬役は焼きあがった磁器の選別が終わるまでは休みだ。

 フィルも隣の男もこの時間を利用して休みと食事を取る。

 ぼそぼそのパンと干した猪の肉をなんとか噛み砕き、木の器に入ったビールでむりやり流し込む。


 「そういやお前、村から追い出された女の子家に招き入れてるみたいだな。大丈夫なのか?」 

 「いい子だよ。頭がいいみたいで薬の名前もすぐに覚えるし、家事もしっかり出来てる」

 「ほう、惜しい事をしたな。最初娼婦って名乗ってたから、面倒ごとになる予感がしてな。追い出しちまったんだ。悪い事した」

 「……自分の利益になると分かったとたん手のひらを返すのは気に入らないな」


 少しだけ、ほんの少しだけ器を持つ手に力が入った。


 「怒るなよ。悪かった」

 「その言葉はいずれ彼女にしてあげなよ」

 「そうするよ」


 それから暫く、たわいのない会話を続けていた時、見慣れた人間が夜の闇に紛れるように姿を現した。

 白髪混じりの初老の男性、シモンだ。


 「やあお二人さん。仕事はどうかね?」

 「順調です。これが終わったらみんなに酒でも振舞ってくださいよ?村の人間は全員参加するのに貴方だけは参加していないんだから」

 

 隣で立ったままの男がやや顔を顰めながら毒づく、みんなが仕事をしている中一人だけ呑気に歩いてきたらそんな反応にもなるだろうが。

 シモンも思わず苦笑した。


 「勿論そうするよ。上等な葡萄酒と豚も2頭だそう」

 「神父様が四つ足を積極的に食べさせようとするのか……」

 「たまにはいいじゃないか。このことは神にも内緒にしておくさ」

 「はいよ。それじゃ仕事が終わったら宴会だな。伝えてくる」

 「ああ、頼むよ」


 シモンが気前よく振舞ってくれると聞いてすっかり機嫌のよくなった男が仕事仲間の元へと軽い足取りで駆けていく。

 そうしてその場に残されたのはフィルとシモンのみ。


 「……それで、御用は?」

 「宴会が終わった後でいい。教会に残っていてくれ」

 「分かりました」


 フィルもシモンも笑っていなかった。


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