第15節
朝、寝ぼけ眼をこすりながらフィルが目を覚ました時、おいしそうなスープの匂いが鼻孔をくすぐる。
炉の近くには栗色のおさげを揺らしながら鍋をかき混ぜるミラベルがいる。
まるで母親のようだった。
「あ、おはようございます。フィルさん。カブのポタージュ作ったんですけど。食べますか?」
フィルの方へと親しみのある笑顔を向けてくるミラベル。
「ありがとう。いただくよ」
塩加減が良く、質素ではあるが暖かい朝食だった。
†
「珍しいね。君からのお願いとは」
朝食を摂り終えたフィルが向かったのは相変わらず人の居ないシモン神父のいる教会だ。
冷たい長椅子に腰かけるフィルに立ったままのシモンは不思議そうな顔をした。
「彼女、ミラベルの事を調べて頂きたい。どうにも怪しい」
「流れ者の娼婦にしては確かに知識は豊富だが……それほど気にする事とは思えないがね。それほど知りたいのかね?彼女の事が」
「ええ、せめて少し位は知っておきたい」
真剣なフィルの表情を見て、シモンはああなるほど!と言わんばかりに手を叩いた。
(多分勘違いしてるなぁ……シモン神父)
「いいだろう。君の頼みだ。私の伝手を使って調べてみよう」
「感謝します。シモン神父」
「しかし君が……ふふふ」
(うん、勘違いしてるね)
「それでは失礼します。また何かありましたら」
「ああ、呼ばせてもらうよ」
重い教会の扉を開けフィルは出ていった。
†
「おーいフィル!こっち手伝ってくれ!」
「分かったよ」
さて、フィルは基本的に自堕落な人間で普段まともに仕事をしない。
だがそんな彼にも絶対に参加する仕事がある。
それが今フィルがやっている麻袋に入った土を運ぶ仕事だ。
「相変わらず重いね。これ」
「フィルは非力に見えるのに意外と力があるよな」
10代の子供ほどの重さはあろうかというその袋。
中身の土はただの土ではない。
石英と長石を多分に含んでいる。
「ああ重い」
この村の人間が税金を払う手段。
貨幣を得るただ一つの方法。
それが『磁器』である。
一番近い村から材料を仕入れ、それを焼き、都市部に売る。
村人総出で畑仕事が無い冬の時期に働き、そうして得た貨幣を税金、個人の財産にするのだ。
ちなみにわざわざ近い村から材料を仕入れるのはその村にも仕事と利益を与える為だ。
「混ぜたり焼いたりは俺達がやる。フィル達は材料運びをしてくれ」
「僕に作らせてくれればいいのに。きっと芸術的な磁器ができるよ」
「芸術的じゃない。人はそれを下手くそと呼ぶ」
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