第14節
「行くところですか……」
困り顔で佇むミラベルをよそに、フィルは棚から出した葡萄酒が入った陶器に口をつけて一気に呷る。
「フィルの家にもう居ついちゃどうだい?夫婦にでもなれば村の人間も何も言わないだろうさ」
若干赤ら顔になりつつあるレア、彼女は酒には強いはずの人間だが……顔を見るにフィルが帰ってくる前から相当飲んでいるようだ。
(僕の酒が……)
「フィルさんが迷惑になるでしょうし……私は出ていったほうが……」
「出ていく……ねぇ……」
ここを出て行ったところで行く当てなどないだろうし何も知らずに森に入るような人間が生きていられるような甘い世界でもない。
第一出ていくというのならばせめてその青い瞳から流れる涙を止めてほしい、そうフィルは思った。
「怪我は治ったんなら、もうここに居る必要はないな」
「そう……ですね」
「けどまあ、君が居たいなら居ると良い。僕は気にせず飲んだくれてるから。それにいざとなったらレアおばさんが面倒をみてくれる」
横でぶはっといいながら葡萄酒を噴き出すレアを横目に彼女に目をやると少し安心したような表情を浮べている。
(まあ店番してくれるのはありがたいと言えばそうだしね。とはいえ身元は気になるしシモン神父に依頼しておこうか)
「まあとりあえず今日は飲みあかそうか。レアおばさん、なにかおつまみあるかな?」
「家にチーズがある、持ってくるよ」
「ミラベル、君はお酒は飲めるかい?」
「少しだけですが。飲めます」
「そうか、じゃあ一緒に飲もう」
†
「で?出張先はどうだったんだい?」
「いつも通りさ。村の人たちを治療して、おさまったらここに帰って来る。ただそれだけ」
その場に居る全員に程よく酒が回ってきたところでレアが口を開いた。
既に全員顔が赤いが、ミラベルに至っては耳まで真っ赤、つい先ほどからレアが持ってきたチーズ以外酒を飲んでもいない。
だが喋ってもいない所をみるにもう限界だろう。
「けどそのいつも通りのお陰で村の人が怪我しても医者が居なくなっちまうんだ。シモン神父も酷い事をするもんさね」
「怪我っていってもそれほど重症になる人も居ないからね。居なくてもどうにかなるよ」
「そうかねぇ?アンタがこの村に来る前なんて酷いもんだったけどね。ちょっとの傷でも傷口が化膿して足が全部だめになっちまった奴もいたもんさ」
「そういえばそんな時代もあったね」
フィルがレアたちの居る村に来たのがおおよそ4年前。
その頃はレアの言う通り少しの怪我で足を切断したりと重症になる人間が沢山いたものだ。
かつての村では医術の心得が無い人間が医者をしていたのがほとんどの原因だが。
「いつまでも医者としていておくれよ。アンタは村にとって大事な人間なんだから」
「突然何を言い出すのさ。レアおばさん」
「いつも突然行っちまうから心配なのさ」
「はいはい、お酒が回りすぎてるね?早く帰った方がいいよ」
「そうするかね……ごちそうさん。それとおやすみ」
「うん、おやすみ」
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