第11節
満点の星空に三日月が浮かぶ夜。
フィルとルイーズは別荘で一緒に星を眺めながら温めた葡萄酒を傾けていた。
正直フィルにとっては酒精が圧倒的に足りていないが……ルイーズにフィルの望む酒を用意してくれることを期待するのは詮無きことか。
「良かったのですか?供も付けず夜に僕と一緒など。良からぬ事を考える輩がいるやもしれませんよ」
「構いませんよ。言わせておきます。それにお世話になった人と最後の日くらい一緒に居させてくださいな」
穏やかな表情で微笑むルイーズに思わずフィルもつられて口角が上がる。
そしてルイーズの言う通り、今日でフィルがこの村に滞在する最後の日だ。
「……明日の朝には旅立ちます。居心地が良すぎて少し名残惜しいですが」
「本当に行かれるのですか?」
「……ええ。故郷に待っている人もいますから。戻らないと」
「またいつでも来てくださいね」
たかだか2週間程度で随分と最初の時とは変わったものだ。
最初は距離をとるのは勿論敵意すらあったというのに。
現在は隣で一緒に星を見るまでの仲に発展している。
「それにしても冷えますね。そろそろ戻りましょう」
「そうね。行きましょうか」
「それではお手を、僭越ながら今は私が貴方の騎士になりましょう」
「まぁ、それでは騎士様。お願いいたします」
そうして手を出したフィル。
その手には銀の指輪がはまっていた。
普段フィルが付けることは無いものだが、ルイーズがそれを気にすることは無かった。
そしてそれが、命取りになった。
「痛っ……」
「え?」
差し出されたフィルの手を握った直後、ルイーズは顔を苦痛に歪めた。
月明かりだけで見えにくいが、ルイーズの手からは鮮血が流れている。
「その指輪……」
「護身用の刃が折りたためるようになっているものです……申し訳ありません」
「仕方ありませんね……手当をお願いできますか?騎士様」
「はい、勿論」
†
「ハァ……ハァ……」
「大丈夫ですか?」
夜道を歩き始めて暫く、フィルの隣で歩くルイーズの様子がおかしい。
息がただ歩いたとは思えない程荒く、握った手が震えている。
「あ、貴方……まさか……」
「ルイーズ様!?」
とうとうその場に膝をついたルイーズ。
「う、おえええ」
「大丈夫ですかルイーズ様!おおいッ!!誰か来てくれ!!ルイーズ様が!ルイーズ様が倒れた!!」
フィルは嘔吐する彼女を抱きかかえ村人を呼ぼうと声を張り上げた。
薄れゆくルイーズの意識……
彼女が最後に見たのは必死の形相で彼女に声をかけ続けるフィルの姿だった。




