第10節
フィルが孤児院に滞在してもう1週間が経とうとしていたがルイーズについての習慣、行動が大体まとまってきた。
まず第一にほぼ毎日供も付けず孤児院に現れる、そして来ない日は貴族としての仕事に専念しているようだが……ほとんど父親に任せているようだ。
普通ならば教会にお祈りに行く日にも村や孤児院で仕事している。
「信心は無い、と」
他の誰が見ても分からないように小さな手帳に普通の日記と共に記号を書きルイーズの特徴や行動を記入していくフィル。
「何を書いているんですか?」
「日記ですよ。ルイーズ様」
昼の仕事の合間にライ麦のパンとチーズの粗末な食事をとりながらルイーズはフィルの手帳を覗き込む。
こうしてみると最初に会った頃に比べても大分心の距離が近くなっていると感じる。
フィルに対しても自然な笑みを向けてくることが増え子供との間に入ってくることも無くなっている。
ルイーズから一定の信頼は得ているのだろう。
「さて、そろそろ休憩も終わりですね。村の人で動けない患者さんがいますから少し行ってきます」
「その前にですが少しお付き合いできませんか?」
「構いませんが……一体何の御用でしょう?」
「話をするだけです。貴方の事について。こちらに来てください」
まさかバレたのか?
そう思いながらパンを食べ終わりゆっくり歩くルイーズの後ろについていく。
†
「ここです」
「ここは?」
ルイーズに案内されるがままについていくと、村から少し外れてたどり着いたのは小さな木造の家。
古くはあるがよく手入れがされている家だ。
「私の別荘です。狭いですが生活に必要なものは殆どそろっています」
「ほう」
「で、お話ですが……フィルさん。ここにとどまり、その医術を村の為に振るって頂けませんか?」
フィルにとって予想外の言葉が飛んできた。
「この村に……ですか?」
「ええ、優秀な医者がこの村には不足しています。貴方さえよければここでいかがですか?報酬は勿論働きに応じてお出ししますし。それに子供達もなついているみたいですから」
その青い瞳で真っすぐにフィルを見ながらそう言ってきた。
「とてもありがたいお話ですが私にも大事な故郷があります。いずれ旅を終わらせて戻らなければ」
「そう……ですか」
フィルの答えにルイーズは残念そうに目を伏せた。
「ご依頼があれば、またすぐにでも駆けつけますとも」
「ええ、よろしくお願いいたします」
「あと一週間ほど、ここで滞在します。今診ている患者さんもその位で完治するでしょうから」
この時、フィルは決めた。
この村で滞在する最終日前日。
ルイーズ・ド・リオンヌ……彼女を殺害すると。




