Sei Ren編 ①−1
今回の主人公は沖縄出身の幼馴染3人組『Sei Ren』です。
数回に分けて投稿します。
中学一年。八月の初め。
小さな背に、少し茶色がかった色のポニーテールを揺らしている少女——与那嶺湖羽は幼馴染の比嘉汐里と南風原渚と共にショッピングモールに来ていた。
湖羽としては七月中に来たかったのだが、真面目な性格の汐里に「遊ぶのは宿題を終えてから」と言われてしまい今日になったのだ。
「湖羽、今日は何をするの? 言われた通りに動きやすい服装で来たけど」
「着替えもちゃんと持って来たよ〜」
汐里と渚は湖羽から動きやすい服装で、着替えも持参で来て欲しいと言われていたが、何をするのかは聞かされていない。
「今日は、お店じゃなくてアスレチックのエリアに行こうかなって思ってるんだ。急だけど二人はそれでも大丈夫だった?」
「もちろん、いいけど……アスレチックって小学生までじゃなかったっけ? 私たちもう中学生だけど大丈夫なの?」
「もしかして〜、湖羽は自分のことをまだ小学生だと思ってるの〜?」
汐里と渚にイジられた湖羽は二人に少し反論する。
「そんなこと思ってないよ! 最近リニューアルされて大人用のエリアが出来たんだよ!」
「そうなんだ。じゃあ今日はそこで遊ぶんだね」
「うん。でもせっかくだし、二人の行きたい所があればそこも行こうよ」
湖羽の問いかけに、渚が元気よく手を挙げる。
「は〜い。渚、ドーナツ食べに行きたいな〜。期間限定で動物の形のやつがあるんだって〜」
「動物⁉︎ 絶対に行こ! 汐里は行きたい所ある?」
「私は特に無いかな。夏休み中にあと一回はここに来るでしょ?」
「まあ、そうだね」
今日やりたい事を話しながら歩いていると、いつの間にか、目的地であるアスレチックエリアに着いていた。
受付を済ませ、荷物をロッカーに預ける。各々で準備運動を済ませるとボルタリングのエリアに向かい、係員の説明を受けて三人は壁を登り始めた。
早速コツを掴んだのか、元気よく、どんどん高い所まで登っていく湖羽。
そんな湖羽を心配そうに見ながらも、普段は下ろしている黒髪を縛って本気を出し、三人の中では一番高い身長を活かして、自分も高く登っていく汐里。
ゆっくりマイペースな言動の割に、茶髪のウェーブがかかった髪を揺らしながら、俊敏に壁を登っていく渚。
登っているのを見ていると三人とも運動神経に優れていることがよくわかる。
夢中になって、登れそうな壁を片っ端から試す三人。そんな三人をじっと見ている人がいることに誰一人、気づくことは無かった。
結局、二時間ほど遊んだ三人は、休憩をしに渚が行きたいと言っていたドーナツ屋へ行くことにした。
着替えを済ませ、今いる一階から三階にあるドーナツ屋へ向かっていると、不意に後ろから声を掛けられた。
「あのー、すみません。少しお時間よろしいでしょうか?」
三人は驚きながらも、後ろを振り返ると、黒いスーツに紺のネクタイを締めた三十代くらいの男性がいた。
「……私達に何か用ですか?」
三人の中で一番しっかりしている汐里が代表して答える。
「少しお聞きしたい事がありまして、お声がけしました。私は芸能事務所MiYaでスカウトを担当している吉沢と申します」
吉沢はそう言いながら、上着の内側の胸ポケットから取り出した名刺を三人にそれぞれ渡した。
「そちらにも予定があるかと思いますので、率直にお聞きしたいのですが……アイドルに興味はありませんか?」
「……あ、アイドルですか?」
「はい。アイドルです」
三人は突然の話に驚きながらも、話だけでも聞いて欲しいと言う吉沢の話を聞く為に当初の目的地であったドーナツ屋へ移動した。
その移動中、汐里は考えていた。
芸能事務所MiYaと言えば、全国の女子中高生に人気のモデルやアイドルが数多く所属していることで有名な事務所だ。アイドルに関してはプロデュースまでしており、四年前にデビューした五人組グループの『ぱれっと』は、常にアイドルランキング上位に位置し、「知らない人はいない」と言われるほどの人気を誇っている。
そんなMiYaに何故、自分達がスカウトされているのだろうかと。
「では改めて自己紹介から。私は芸能事務所MiYaでアイドル事業のスカウトを担当している、吉沢秀一と申します。普段は東京で勤務しているのですが、昨日からここ沖縄に出張で来ています」
「初めまして、比嘉汐里です」
「与那嶺湖羽です」
「南風原渚です」
「自己紹介ありがとうございます。今回、私が比嘉さんたちに声を掛けた理由ですが、先程ボルダリングをしている姿を見まして――」
吉沢の話をまとめると、休憩していた時にふと、ボルダリングをしている汐里たちが目に入り、しばらく見ていたら華奢な体にも関わらず、どんどん高い所まで、壁を登っていた。それを見てスタイルが良く、運動神経がいいなと思ったこと、スカウトマンとしての直感が「この子たちだ!」と訴えかけていたので声を掛ける事にしたそうだ。
「それで声を掛けてくださったんですね」
「はい。アイドルになるのは正直、大変な事も多いですが、やりがいを感じる機会も沢山あります。私たちもサポートするので、アイドルになってみませんか?」
吉沢の話を聞いて汐里たちは考える。
いくらアイドルが女の子の憧れだったとしても、見ているのと自分がやるのでは話が違うと。三人はアイドルを見ることはあっても自分達がなろうとは思わなかった。その思いは、吉沢の話を聞いた今も変わらなかった。
「あの、話を聞かせてもらった上でなんですけど、私はアイドルになる気はありません。家を継がないといけないし……。ごめんなさい」
「私も汐里と同じで、アイドルになろうとは思わないです」
「渚も二人と同じ気持ちです」
三人の答えを聞いた吉沢は残念そうな表情をしていた。
「……そうですか。今日は話を聞いてくださりありがとうございました。八月末までは沖縄にいるので、興味が湧いたらいつでも連絡をください」
けれど、三人のことを無理やり勧誘するようなことをせず、名刺だけ渡し、三人の分を含めた会計を済ませると、もう一度三人に挨拶をして店から去っていった。
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