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『Primula』編 ①

今回は双子のユニット『Primula』編です。

「今年はSSCの参加権は得られま……した!」


 事務所のミーティングルームに呼ばれ、マネージャーの野中(のなか)咲菜(さきな)からその言葉を聞いた二人の少女は一瞬何が起こったのか理解出来なかった。


「えっ⁉︎ ……本当に?」

「私達が……SSCに……。嘘じゃないよね?」

「嘘じゃないわ。全部事実、二人はSSCに出れるのよ!」


 マネージャーの喜びようを見て、ようやく現実を理解した彼女達。満面の笑みを浮かべて喜ぶその目尻からは涙が流れていた。


 Starlit(スターリット) Sky(スカイ) Cup(カップ) —通称SSC 。それはアイドルならば誰もが夢見るステージ。選ばれた者しか立つ事が出来ないそのステージを勝ち抜いた者にのみ与えられる称号“星の輝き”はアイドルの頂点の証とされている。

 そんなステージに憧れる二人の少女。彼女達は三年前、中学二年生の時にデビューした、奏プロダクション所属の一卵性の双子のユニット『Primula(プリムラ)』。


 双子の姉—桜田(さくらだ)真衣(まい)。落ち着いて見えるが、自分の主張ははっきりと言う性格の持ち主。髪型はミディアムでオレンジに近い茶色。顔立ちも整っていて、誰が見ても美人だと分かるルックスだ。


 一方、妹の真那(まな)は姉と比べて活発な性格で、髪もショートカットというボーイッシュな見た目をしている。一卵性の双子なので顔や髪型以外は瓜二つだ。


 結成一年目から、SSCランキング—SSC に参加する為のランキングに登録している新人アイドルの中では上位に食い込んでいた二人。

 三年目にして夢を叶えたのである。業界ではSSCに参加出来る様になるには最低でも五年はかかり、ドームでのライブを成功させなければならないと言われている。それ程までに参加権を得るのは難しいのだ。


「二人ともおめでとう。まさかこんなに早く、参加権を得られるまでになるなんてね……。二人の努力の成果ね」


 感慨深そうに言うマネージャーのその言葉に、二人も嬉しそうに笑った。



 出場が決まってからは、撮影や取材、歌番組などの仕事も増え、あっという間に日々が過ぎていった。 

 三ヶ月が経った頃、真衣達二人は『Primula』の六枚目となるシングル曲を発売することを咲菜から伝えられていた。


「やっと六枚目かー。SSC前の発売になるから気合いを入れないとね、お姉ちゃん」

「ええ。ファンの皆さんも待ち望んでいるみたいですしね。二人で頑張りましょう」


 SSC前にファンを増やす為にも頑張ろうと意気込んだ二人だった。 


 だが……

 新曲の振り入れを始めて二週間が経ったある日のレッスンのこと。

 長時間のレッスンによって熱気が生じ、室温が上がったレッスン室で真衣と真那は個々の練習をしていた。


「お姉ちゃん、そろそろ止めない? 集中力持たなくなるよ?」

「私の自主練なんだから、口を出さないで。今日は先に帰ってもいいわよ」

「……。奥で歌の練習してくる」


 真衣に口を出さないでと言われた真那は、真衣の様子に少し違和感を感じ、レッスン室から出て行くことはせず、奥で歌の自主練をすることにした。

 暫くレッスンを続けていた二人。真那はふと、時計を見た。夕方から始めた自主練。気が付けば二十時になろうとしていた。

 そろそろ切り上げないと集中が切れて、怪我に繋がると感じた真那は真衣に声を掛けることにした。


 その時。レッスン室内にドサっという音が響いた。

 真那は驚きつつ、後ろを振り返ると、真衣が床に蹲っていた。


「真衣⁉︎」


 真那は普段と呼び方が変わっている事にも気付かず、慌てて駆け寄った。近づき、よく見ると真衣は右足の足首を手で押さえている事が分かった。


「っっ!」

「真衣! 大丈夫?」

「真那……。足首を挫いたみたい……」

「急いでマネージャー呼んでくるね!」


 真那は急いでレッスン室を飛び出し、マネージャー達が集まるフロアへ向かった。

 フロアに着き、専属のマネージャーを探すと、すぐに見つける事が出来た。


「咲菜さん! 咲菜さん! 真衣が……お姉ちゃんが……」

「真那!? 真衣がどうかしたの?」

「お姉ちゃんが、倒れて……足を挫いて……」

「真那、一旦落ち着いて。とりあえず真衣の所に急ぎましょう。」


 咲菜は、レッスン着から着替える事もせず、自分の所に駆けてきた真那に最初は驚いていたが、真那の慌てようを見て、何か大変な事が起きた事だけは分かった。

 近くにいた同僚の一人にも声を掛け、三人でレッスン室へと急ぐ。


「真衣!? 大丈夫?」


 咲菜は蹲っている真衣を見つけるとすぐに駆け寄った。真衣に問いかけながら、軽く状態を確認していく。


「右足以外は問題なさそうね。とりあえず病院に行きましょう。万が一、SSC に出られないって事になるといけないから。真那、親御さんに連絡取れる?」


 その言葉に、真那が急いで親に連絡を取り真衣が怪我をして病院へ行く事を伝えた。

 咲菜の同僚に真衣をおぶってもらい、咲菜の車で病院へと向かった。


 真衣の診察に少し時間が掛かりそうで既に時間も遅い為、病院へ向かう途中に真那は家まで送ってもらっていた。

 その夜、病院へ着いて行かなかった真那は、真衣の診断結果が分からず、寝ようとするも気になって中々寝付けなかった。



 翌日、朝から真衣と真那は事務所のミーティングルームに呼ばれていた。真衣の右足首には包帯が巻かれ、動かないように固定されている。

 結論から言うと真衣の怪我は捻挫だった。捻挫は一日二日で治るものではない為、今後の方針を話し合う為に呼ばれているのだ。

 暫く経って咲菜が部屋に入って来た。全員が席に着き話し合いが始まった。


「それじゃあ今から今後の話をします。単刀直入に言うと、真衣の怪我は全治一ヶ月程だと診断されました。そして、真衣が回復するまでの間は一時活動休止することになりました」


 大事な時期に活動休止。それは足止めを意味し、少しでもライバル達と差を縮めたい二人にとって大きな痛手となる。


「お姉ちゃんだけじゃなくて私もですか?」

「ええ。勿論レッスンは続けてもらうけどね。この機会に苦手な事を克服してもらおうと思っているの」


 どうやら咲菜はこの活動休止期間に苦手を減らして、グループのパフォーマンス力を向上させようとしているようだ。


「真那はダンスの技術を磨くのは勿論、歌に力を入れましょう。真衣は怪我を治すことに専念してください。くれぐれもダンスの自主練をしないように」

「……はい。分りました」


 真衣は少し不満そうに返事をしたが、それでもSSC が控えている今、無理をするような事は無いと咲菜は思った。


 一週間後。


 ミーティングの次の日に各メディアでも活動休止の報道がされ、「SSC に出ないのでは?」という憶測も飛び交ったりした。しかし、事務所が公式にSSC までには活動を再開する予定だと発表した事によって、疑問の声は応援の声に変わっていた。


 そんな中、二人はレッスンを受ける日々を過ごしていた。ダンスレッスンの日は真衣だけ足に負担がかからない別メニューをこなし、歌のレッスンの日は二人一緒にレッスンを受けていた。得意な部分を互いに教えあったりした成果か、以前よりもパフォーマンスのレベルは上がっていた。

 真衣は前から上手かったダンスに更に磨きがかかり、歌も真衣の指導により以前よりも成長していた。


 一方で真衣は焦りを感じ始めていた。そもそも、怪我をするまでレッスンをしてしまったのは、真那と比べた時に自分のダンスは劣っていると感じたからだった。それなのに、怪我をした事で自分だけレッスンを受けることが出来ず、更にその差が広がってしまったのだ。

 焦りを募らせていた真衣は、一人で隠れて自主練習をしようとした。


 しかし、偶々真衣を探していた真那に見つかってしまい、こっ酷く怒られた。

 姉の行動が理解出来ない妹と、妹に怒られて苛つく姉。

 必然的に二人の喧嘩は始まった。


「お姉ちゃんはSSC に出られなくてもいいの?」

「そんな事ない! 私だって出たいと思ってる!だけど……」

「だけど何?」


 真衣が言い淀むと、喧嘩が始まってからずっと喧嘩腰だった真那の勢いが止まった。


「嫌だったんだよ……置いていかれるのが」

「置いていかれる? 何に?」

「……真那のダンスに」

「私のダンス?」


 真衣の返答に真那は意味が分からないと言いたげに首を傾げた。


「……真那はダンスが上手いでしょ?前からその事に引け目を感じてたっていうか、私も上手くならなきゃって思って」

「それで自主練を無理してやったって事?」

「……そんな感じ」

 

 真衣の本心を聞いた真那は驚いていた。真衣が自分のダンスと比較し引け目を感じていたなんて聞いたこともなかった。しかも、それが焦りにつながり怪我をする原因になっていたなんて。


「私たちは二人グループでしょ?だから嫌でも差が分かっちゃう。真那の足を引っ張りたくなかったの……」

「お姉ちゃんは足を引っ張ってなんかいないよ。お姉ちゃんは歌でみんなを魅了してるじゃん!確かにダンスは私の方が得意だよ? でもお姉ちゃんは歌が得意でしょ? 二人で役割を分担するのはダメなの?」

「でも、SSCで勝ち抜くためには苦手なダンスも完璧にして、その為にはもっと上手くならないと……」


 真衣が言い訳のように話していると、真那がそれを遮って話し始めた。


「お姉ちゃんは本当にそれでいいの? それで楽しいの? 私は正直SSCで優勝しなくてもいいと思ってる。新人の私たちが先輩方に勝つなんて不可能に近いよ」

「だったら、何の為に」

「私はお姉ちゃんとステージに立てるだけで嬉しいよ。お姉ちゃんは忘れちゃった? 私たちがアイドルになった理由を」

「それは、SSCで優勝することでしょう?」

「違うよ。それはアイドルとしての目標。私たちがアイドルを目指した理由は、沢山の人に楽しいを届けたい。沢山の人を笑顔にしたいって思ったからでしょう? 今のお姉ちゃんには、みんなにその気持ちを届けることは出来ないよ」


 真那の言葉を聞いた瞬間。真衣はハッと何かに気がついた様だった。


「真那……。そうだったね。私たちはみんなに楽しいを、笑顔を届けるためにアイドルになったんだったね。ごめん。なんか色々と焦りすぎてたみたい」


 真那は真衣にアイドルになった理由を思い出させた。アイドルを夢見ていた頃の気持ちを思い出し悩みも吹っ切れたのか、喧嘩が終わる頃には真衣の表情はすっきりとした表情になっていた。


 真衣の怪我は二週間もすれば完治した。「絶対にヒットさせる」その思いを胸にレッスンを再開した真衣と真那は、これまで以上に真剣にレッスンに取り組んだ。その後は大きなトラブルは無く、月日は進んでいき——。


 一ヶ月後、CDが発売されると、多くのショップで売り切れが続出。歌番組にも引っ張りだことなった。


 

 そして、SSC 本番当日。

 前日に会場入りした時、リハーサルに集まった名だたるアイドル達に圧倒されていた二人。だが、二人もプロのアイドル。順番が回って来て、リハーサルのステージに立った瞬間、表情がガラッと変わり、いつも通りのパフォーマンスを披露していた。

 精神的にも、体力的にも疲れたその夜はぐっすりと眠れ、清々しい気持ちと共に今朝を迎えたのだった。


 本番直前の楽屋では二人が緊張感と戦いながら、自分たちの出番を待っていた。

 既にメイクは終え、真衣は紫、真那は赤色のそれぞれの担当カラーの衣装を身に纏っている。今日の為に誂えた桜草をモチーフにした衣装だ。

 一緒の楽屋に居る他のアイドル達がどんどん出番が来てステージへと向かっていく。中には出番が終わり、やり切った表情の人、悔いが残ってしまい涙を流す人もいる。その光景が目に入るたびに緊張が高まっていく。


「お姉ちゃん、私お腹痛くなってきた」

「私も……」


 二人してお腹が痛くなったことを知り、顔を見合わせて笑い合う。


「Primulaさん、スタンバイお願いします!」

「「はい!」」

「お姉ちゃん、最高のステージにしようね!」

「ええ。今の私達は誰にも負けない!」


 楽屋を出る時、扉のすぐ外に立っていた咲菜に「行ってらっしゃい!」と一言だけ言われる。「行ってきます!」と応える二人の声は重なり合っていた。

 ステージの階段下に着くとステージから漏れてくるライトに照らされてお互いに笑っているのが分かった。


「じゃあ、行こうか。みんなに楽しいを届けに。私たちのステージへ!」


 真衣の言葉と共に、二人はステージへと駆け出した。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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