Sei Ren編 ①−2
前回の続きです。
スカウトされた日から二日後。
汐里の実家である料亭で、三人は朝からお小遣い稼ぎの為にお手伝いをしていた。
汐里の母から汐里は受付と案内、渚と湖羽は給仕の手伝いを任されて黙々と仕事をこなしている。
お昼時。店が一番混む時間帯になり、忙しさがどんどん増してきた。
店員も汐里たちも休む暇なく動き回っている。
そんな時間も十四時になる頃には落ち着いていた。
もうすぐ休憩に入ってもいいと母に告げられた汐里が、湖羽と渚を呼びに行こうとすると、若い男女合わせて十人の団体客が店に入ってきた。
二、三十代の男性が三人、二十代前後の女性が七人。何の団体なのか気になるが、汐里はしっかりと仕事をこなす。
「いらっしゃいませ。予約はされてますか?」
「はい。吉沢で予約したんですけど……」
「えっ? 吉沢さん?」
予約の確認をする為にパソコンを操作していた汐里は、代表で答えた男性の声と名前に聞き覚えがあり、パソコンから顔を上げて男性の顔を見た。
すると思った通り、以前、汐里たちをスカウトした吉沢その人だった。
「比嘉さん?」
「ん? 汐里、早く案内しないの……って吉沢さん?」
「あ、本当だ〜。吉沢さんだ〜」
「与那嶺さんに南風原さんまで」
偶然、汐里を探していた二人も合流し、三人は思わぬ所で吉沢さんと再会したのだった。
三人は予期せぬ再会に驚きながらも、それぞれの仕事に戻った。
汐里は、吉沢たち一行を広い座敷の部屋へ案内し、湖羽と渚は料理を運んでいく。
案内の役目を終え、給仕係に合流した汐里も、料理を一人一人に運んでいく。
すると、その途中、あることに気が付いた。
吉沢が連れてきた十人の中にいた女性のうちの五人は、アイドルグループの子だということに。
最初は変装の為なのか、帽子や眼鏡、マスクなどをしていて気付かなかったが、部屋に入りそれらを外した姿を見た瞬間に確信に変わった。
今、目の前にいるのは、テレビで見ている『ぱれっと』だった。
正体に気が付き、若干緊張しながら、汐里たちがメンバーに給仕をしていると、リーダーの山崎莉菜が三人に声を掛けてきた。
「あなたたちが原石ちゃんだね? 吉沢さんから聞いたよ」
「……原石ちゃんって?」
心当たりの全くない呼び方に、首を傾げる三人。
「あっ! ごめんね。えっと……」
「汐里です」
「湖羽です」
「渚です〜」
「おっけー! 汐里ちゃんに、湖羽ちゃんに、渚ちゃんだね。急に話しかけてごめんね」
「いえいえ!」
「全然大丈夫です。むしろ嬉しいです!」
人気アイドルに話し掛けられて嫌な人はそういないと言わんばかりに答える、汐里と湖羽。
声には出していないが、渚も隣で首を縦に振っている。
「なら良かった。三人に聞きたいことがあって声をかけたんだけど。……三人は、吉沢さんにスカウトされたんだよね?」
「「はい」」
「でも、アイドルになりたい気持ちは無い」
「「……はい」」
「これは私個人の意見なんだけど……汐里ちゃんたちはアイドルに向いていると思うよ。だからと言って、無理になって欲しい訳ではなくて。単にさっきまでの汐里ちゃんたちのお仕事中の表情とか、お客さんとの話し方とか見ていたらそう感じたんだ」
「私たちの接客で、ですか?」
三人は自分たちの接客のどこが、アイドルに向いていると判断されたのか、わからないといった表情をしている。
「うん。例えば接客中、三人はずっと笑顔を絶やしていなかったでしょ? それってアイドルのパフォーマンスには大切なことなんだ」
「そうなんですね。でも、私たちは……」
「三人の気持ちはわかった上での提案なんだけど、 明後日、この近くのホールでやる私たちのライブを見てみない?」
「「ライブ、ですか?」」
「そう。私たちのライブで“本物のアイドル”を見せてあげる。知らないまま、やらないって言ってるのは勿体ないからね」
「でも、チケットとかないですし……」
三人もアイドルを目指すかどうかとは別に、ライブには興味がある様だ。
「チケットなら大丈夫、何とかなるから。どうかな、見に来てくれる?」
「……ちょっと、待っててもらえますか?」
そう言うと三人は、一度厨房に戻った。
三人はまだ中学生。家のルールで、遊びに行くには親の許可が必要なのだ、
「三人とも戻ってくるのが遅いわよ。早く次の仕事を」
「お母さん、ごめんなさい。すぐ仕事に戻るから、少しだけ話を聞いて」
そして、吉沢や莉菜からの提案について簡潔に話した。
「どうかな?」
「……まぁ、行くだけ行ってみたらいいと思うわ。先方が誘ってくれているのでしょう? アイドルになるかは別として、楽しんで来たら?」
「うん、行ってみる」
そうして、三人は吉沢たち一行がいる部屋へと戻った。
「あの、ライブ行ってみたいです。お母さんたちからも許可貰って来ました」
「ほんと! じゃあ明日の朝、ここのお店の前に迎えを用意するね」
「迎えの車まで用意してもらっていいんですか?」
そんなことまで出来るのか、と思った汐里が莉菜に聞いてみると、さっき厨房に行っている間にマネージャーと話して決まったという答えが帰ってきた。
明日の連絡用にと莉菜たちのマネージャーと連絡先を交換して、この話はようやく終わった。
「三人とも、仕事中なのに長いこと引き止めちゃって悪かった。明日のライブもよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
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