15 確かめたいこと
泣いてしまってぷっつりと緊張の糸が切れたのか、あれから五日ほど寝込んでしまった。
気を抜けばあの恐ろしい光景が頭を過ぎる。正気を失いそうになってもどうにかもちこたえることができたのは、自室に飾られたガーベラのおかげだった。ピンクや白など色とりどりの可憐な花を見れば自然と心が落ち着いた。
侍女が飾る許可を取りに来た瞬間に、これはハルからだとわかった。ヒューイが気を利かせて男性の訪問を禁止したためにハルはあれから会いにきていない。だからせめて花だけでもと用意したのだろう。レヴィ家の庭園でいつの間に育てていたのか、今度見てみたい、などあれこれ考えるのは楽しかった。
ソフィアも鮮やかな花を持って度々お見舞いに来てくれた。しかし、いつも申し訳なさそうに頭を下げるから逆にこちらが恐縮してしまった。そんな顔をさせたくて頑張ったんじゃないと元気つければやっと姉は天使のような笑顔を見せてくれた。
うん、お姉様の笑顔は癒される。この笑顔を守ることが本当によかった。
家族やトムを始めとする使用人たちの支えもあって、全快とはいかないが気持ちを落ち着かせることができた。
だから今、久々に庭園に出てきている。
「寒いっ」
冷たい風が通り、身を縮めてやり過ごす。もうすっかり外は秋の装いで屋敷の木々は色づいていた。冬の厳しい寒さももうすぐ顔を見せそうだと、まとっていたショールをもう一度きつく巻きつけて目当ての人物をきょろきょろと探し回る。
「ハル!」
探していた姿に声をかければ、驚いたようにハルがすばやく振り返った。作業中だったのか、土まみれの手を払いながら慌ててノエルの側に走ってくる。
「ノエル様!もう、外に出ても……」
「うん。完全にとはいかないけど、何とか大丈夫」
心配かけてごめんね、と謝ればハルは目を潤ませながら首を振った。
「いえ。でも無理は絶対にしないでください」
「ありがとう。でもよく考えてみればああいうのって慣れてるのよね」
レヴィ侯爵の娘として誘拐されるといったことは昔からよくあったことだ。ソフィアは自分の倍以上だったけれど。
ノエルは苦笑するが、それでもとハルは真剣な目で訴えた。
「お願いですから無茶だけはしないでください」
「……う、ん」
あまりのひたむきさに、ノエルは頷くしかなかった。
「お花もありがとう。癒されたよ」
「それはよかったです」
「……舞踏会で何があったか聞かないの?」
顔を合わせればすぐに問い詰められると思ったが冷静すぎて不思議だった。首を傾げれば、ハルはバツが悪そうに唇を尖らせる。
「トムさ……義父さんに絶対に事件の内容を聞くなって目一杯に釘を刺されました。でないと当分はノエル様に会わせないと」
「トムがそんなことを?」
「はい。おまえは話を聞けば絶対に加害者を許せなくて血なまぐさいことをしそうだ、と」
「そんな、まさか。……ねえ?」
おずおずと問えば、ハルは黙り込んでしまった。
お願いだから否定して。
「ちょっとハルっ」
「わ、わざわざ花のお礼に来てくださってありがとうございました!」
ごまかすように話をわざと逸らす態度に対してますます心配になる。トムの杞憂は正しかったということなのか。
訝しい目で見ながらも、ノエルは首を振った。
「お礼だけじゃなくて聞きたいことがあるの。これが本題なんだけど」
頭に浮かぶのは事件から救い出された夜。
まさかそんなことあるわけない。
脳裏をかすめる懸念を払拭してもらうために、アランの語った昔話を今度はノエルが言葉にした。




