10 役者は舞台に集う(3)
「こんばんは、ソフィア。今日もお美しいですわね」
「ありがとう。キャロラインもそのドレスすごく似合っているわ」
久しぶりに会う友人は変わらずふわふわとした微笑んでいた。いつも彼女のまわりだけ時間がゆっくりと感じるような気分になる。とりわけ美女というほどではないが、キャロラインは他人を和ませる雰囲気を持ち合わせており、その清廉さに惹かれる男性が多い。自分よりひとつ年上で結婚しなければならない年齢なのだが、ある噂のせいで男性が遠慮してしまうのだそうだ。縁談を組もうとしても不憫がられて断られてしまう。家のことを考えれば父親は相当やきもきしているのだろう。
「ソフィア?」
「……あ、ごめんなさい。ぼうっとしてたわ」
「このような舞踏会は久しぶりでしょう?疲れてしまったのかと思いましたのよ?」
「大丈夫、まだひとつも踊っていないのに疲れたなんて言えないわ」
何でもないように首を横に振れば、キャロラインは安心してほうっと息をついた。
「でも確かに久しぶりだから緊張してしまうわね。煌びやかなところは少し苦手で……」
「ノエルも一緒なのでしょう?彼女と一緒なら緊張もなくなるのでは?」
「ええ、食事のほうに行ってしまったけれど」
くすくすと漏らしながら食事が並ぶ机を示せば、キャロラインもおかしそうに口元を緩ませた。
「あらあら、ノエルったら。踊る前に食事だなんてお転婆ですこと。隣でお話されている方は確か……」
「アーネスト殿下だわ。来ていらしたのね」
仏頂面でノエルと話しているのはアーネストだ。昔、一度だけ姿を見たことがあるけれど記憶のままだ。ソフィアとは違う輝きを持つ金の髪も白の正装もシャンデリアの光を反射して眩しい。
「いつの間にノエルと仲良く……ああ、ソフィアの旦那様選びで仲良くなったのですね」
「旦那様選びのこと知っていたの?」
「随分有名になっていますのよ。辺境である我が領地にまで届いていましたもの」
「そこまで?」
「ええ。……ですがあのアーネスト殿下が女性と話す姿も珍しいですわね」
「これを機にノエルが恋に落ちてしまったら素敵だと思わない?正直なところ結婚なんてまだ考えていないのよ。妹が男性と触れ合う機会にでもしてもらえたらいいと思うの」
手を組んでうっとりとノエルたちを見守る。その姿は妹を案じる美しい姉妹愛を連想せるが、違うものも見え隠れしていることをキャロラインはかすかに感じた。しかし気づかないふりをして、よりおかしそうに口元に手を当てて笑ってみせる。
「ふふ、そのようなことを考えていたのですね。それでノエルに変化はありまして?」
「この前はアラン様が良いのではと言っていたわ。でもあの様子を見るにアーネスト殿下も捨て置けないのかしら」
「そう……だからあなた、今回の舞踏会に参加したのね。アラン様とお会いするために」
そして、次はアーネスト殿下かしら。
キャロランの含みを持たせた小さな呟きは、ホールを流れる楽団の演奏が重なってソフィアに届くことはなかった。
「あの、お姉様」
伺うような声かけに振り向けば、アーネストと一緒にノエルが立っていた。
「キャロライン久しぶり。お話中ごめんなさい。アーネスト殿下がお姉様と踊りたいって」
「まさか僕との踊りを断るわけないよね?」
有無を言わせぬ鋭い視線と差し出された手に、ソフィアは苦笑しながらその手を取った。
「もちろんです殿下。ご一緒できて光栄ですわ」
「当たり前でしょう」
「では、キャロライン。またお話しましょう」
「ええ、お話できて楽しかったですわ」
ソフィアはアーネストに連れられてダンスの中心に向かった。踊っていた者たちも恐れおののいて素早く道を開けていく。背中を向けているからわからないけれど、きっとアーネストが睨みを効かせているに違いない。ノエルは呆れてものも言えなかった。
「ではノエル。あなたもこれから試練になるでしょうが頑張るのですよ」
「あ、うん。ありがとう」
ふわりと目付きを和ませながらキャロラインはこの場を後にした。
何気なく返事をしたが、ん?とノエルは腕を組む。
「試練って?」




