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9 役者は舞台に集う(2)

 相変わらずささくれた顔をしたアーネストが腕を組みながら値踏みするようにノエルをじろじろと見る。


「着飾ってもそんなものなの?」

「……恐縮です」


 あなたは相も変わらず眩しくて失礼ですね。

 心の中で毒突きながらノエルは愛想笑いを貼り付けた。高貴な白の正装を着こなす王子はいつも以上に際立って輝いている。燦然と輝く金の髪と美貌、白の正装とくれば物語に出てくる完璧な王子様像なのだが、その馬鹿にしたように見下す態度ですべてが台無しになっていた。


「まあどうでもいいか。ところでソフィアに会いたいんだけど、どこにいるのさ」

「お姉様ならカーティス公爵と……あ、あれ。いない」


 姉のいた方向を示そうとしたが、そこには公爵と父しかいなかった。母と一緒に移動してしまったのだろうか、と首をひねる。


「王子である僕に一番に会わせないとはどういう了見なの」

「そ、そんな。普通は主催者に最初に挨拶するはずで……。それに殿下が来られているなんて存じてませんでした」

「王家の分家筋の舞踏会だよ?王家の者が参加するのは当たり前でしょ。……本当は来たくなかったけど、計算高い宰相である伯父上がソフィアに何か働きかけると思ったからね」


 ぶすっと不機嫌そうにヒューイと談笑している公爵を睨む。

 そういえば伯父と甥の関係なのかと今更思い出す。初めて会ったときのアーネストとアランの気さくさも納得がいった。


「敵の動きは慎重に観察しないと」

「敵って……そこまでして姉と結婚したいのですか?」

「まあね。あの女は気位も高くて完璧だ。この僕の隣に立たせるには申し分ない」

「……?あのー……お姉様のことお好きなんですか?」

「利用価値のあるものは好きだよ」


 やっぱりそっちか、とノエルは内心げっそりした。この俺様何様王子様がソフィアを便利な道具としか見ていないことを薄々勘づいてはいたが。


「王位継承は四位だけどまだ可能性がないわけじゃない。レヴィ家の深い人脈は馬鹿にできないからね。それにあれくらいの品格がないと僕と並ぶのには不釣り合いだ」


 ちらっと小馬鹿にしたような視線を寄越されるがもう怒る気力もなかった。はいはい、私のような地味女はあなた様とこうしてお話しているだけでも奇跡のようなものですよ。


「で、ソフィアはどこなの?」

「……えーと、今から探しに」

「あ、やっと見つけましたよ殿下」


 淡泊な低い声と共に近づいてくる荒々しい足音。ノエルは一瞬にして頭の中がグラグラするように感じられた。思い起こされるのはあの男しかいない。恐る恐る視線を動かすと予想していた通りの赤髪の男が現れ、目眩がした。高級感のある黒地に金の装飾といった礼服を着たロバートが、同じ装いの男性を引き連れて歩み寄ってきた。ロバートと同じく近衛騎士の者だろうか。


「勝手にいなくならないでください。護衛の意味ないじゃないですか」

「どこが護衛?任務そっちのけで女に話しかけてばかりだったじゃないか」

「あっちから勝手に寄ってきたんですって。それにちゃんと護衛してたじゃないですか。ギディオンが」


 涼しい顔でロバートが隣の男性を指差すと、アーネストと男性が同時期に溜息を吐いた。

 この慇懃無礼騎士も相変わらずのようでノエルは冷めた目を向けた。すると、その視線に気づいたのかロバートがくるりとこちらを向いたために、ぎくりと体を強ばらせた。


「あんた妹じゃないか。ということはソフィア=レヴィも来てるのか?」

「……ええ、まあ」

「ちょっと!おまえは僕を護衛する任務で来てるんだろう!?勝手な行動するなよ!?」

「会うだけいいじゃないじゃないですか。ギディオンも見てみたいよな?」


 アーネストの叫びを軽く受け流し隣に同意を持ちかけるが、銀髪を撫でつけたギディオンと呼ばれる男性はぴくりとも表情を動かさなかった。鍛えられた体躯で直立不動し、薄氷のような青い瞳がもの静かに凪ぐだけ。しかし、冷たく映るその瞳を見つめても恐怖は感じなかった。どっしりとした構えに騎士としての風格を漂わせている。


「いつもの如く鉄仮面かよ。面白くねえな」

「こいつが正しいんだよ!ったく……。で、結局ソフィアは?いい加減にしないと不敬罪で捕まえるよ」

「ま、待ってください!今から見つけますから!」


 こんなことで人生を棒に振られたらたまったものじゃない。ノエルは大慌てで周囲を見回したが、意外にもすぐに見つかった。どこかの令嬢と歓談しているソフィアの姿に安堵して、アーネストに示した。


「ほら。あそこにいましたよ」

「本当だ。隣の女は?」

「えーと……キャロラインですね。ラドフォード男爵のご息女で私たち姉妹の友人です」


 覚えのある紅茶色の髪だと思ったら、案の定キャロラインだった。薄桃色のドレスが彼女の清楚さをうまく引き立たせている。ソフィア経由で知り合ったのだが、とてもおっとりとしていて優しい女性だ。


「ふーん。あの女もおまえと劣らず地味だね」

「……そうですか」


 もう何も言うまい。

 呆れたような表情を浮かべていると、隣でソフィアを見ていたはずのロバートが忽然と姿を消していた。


「え?ロバート様?」


 きょろきょろと周囲を探してみれば、脱兎のごとく背中を向けて走り去る姿が。風のごとく、もう目に映らない。


「……何あれ」

「……さあ?」


 ノエルとアーネストはふたりで首を傾げた。



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