第8話:助けなきゃ
実験区画にも、そのやり取りがはっきり聞こえてくる。
「……石崎さん、怒られてる」
ミーアが目を丸くする。
「どうしたんだろ?」
コウも不安そうにスピーカーの方を見る。
「なんかあったのかな」
ミルダが首を傾げる。
ルナも小さく頷いた。
「……あれ?」
ルナが部屋を見回す。
「だっく、いない」
三人もはっと顔を見合わせた。
◇
その頃、コントロールルームでは。
だっくが、ガラス越しに石崎をじっと見つめていた。
「ぐわ?」
さっきまで笑っていた石崎が、今はガラスの向こうで困った顔をしている。
だっくは首を傾げると、石崎が何度も指差している操作卓へ目を向けた。
「ぐわっ」
小さく頷き、そのまま操作卓へ歩いていく。
その姿を見つけた石崎の表情が変わる。
「だっくちゃん!」
「ぐわっ! だっくです」
「待って!」
石崎は両手を振る。
「そこじゃない!」
「ぐわ?」
石崎はガラスに張りついたまま、操作卓を指差した。
「今から言う順番で押して」
だっくは真剣な顔で頷く。
「ぐわっ!」
石崎は操作卓の赤いボタンを指差した。
「赤」
だっくは足を持ち上げる。
カチッ。
黄色。
「違う!」
「赤!」
カチッ。
青。
「違う違う!」
「赤!」
カチッ。
赤。
「そう!」
その瞬間だった。
「ぐわっ♪」
カチッ。
黄色。
「違う!」
カチッ。
青。
「だから全部押すなってぇぇぇぇぇ!!」
警報はまだ鳴り続けていた。
(何とかしないと……)
石崎は一度大きく息を吸い、ゆっくり吐き出す。
震える手を、防爆ガラスにつく。
「だっくちゃん」
「ぐわっ!」
「もう一回だけ! 今度で最後だから」
「ぐわぁいく?」
「そうそう、あとでアイス食べようね」
だっくは満足そうにこくりと頷いた。
石崎は操作卓を指差す。
「青」
だっくが足を下ろす。
カチッ。
青。
「黄色」
だっくがもう一度足を動かす。
カチッ。
黄色。
「青」
カチッ。
青。
「あと一つ!」
石崎がガラス越しに身を乗り出す。
「赤!」
カチッ。
赤。
その瞬間だった。
警報音が、ぴたりと止まる。
赤色灯の回転もゆっくり止まり、操作卓の表示が切り替わる。
《セキュリティ解除》
「助かったぁ……」
石崎はその場へへたり込んだ。
モニターに映る研究員たちも、一斉に大きく息を吐いた。




