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だっく  作者: 君島極
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第7話:押しちゃダメ

警報音が施設中に響き続ける。


(落ち着け、冷静にだ……)


赤色灯が一定の間隔で回る中、石崎はもう一度防爆ガラスに近づいた。


「だっくちゃん」


「ぐわっ!」


「さっきは押してくれてありがとう」


「ぐわっ♪」


嬉しそうに胸を張るだっくを見て、石崎は苦笑した。


石崎は防爆ガラスの前で小さく息を吸う。


「……まだ終わりじゃない」


解除できる。


そう自分に言い聞かせると、もう一度だっくを見た。


「だっくちゃん」


「ぐわっ!」


「今度はよく聞いて」


石崎は青いボタンを指差す。


「青を一回だけ」


人差し指を一本立てる。


「一回だけだからね」


だっくは青いボタンを見つめると、


「ぐわっ!」


力いっぱい頷いた。


ゆっくり足を持ち上げる。


石崎は息を止めた。


カチッ。


青。


石崎の表情が少しだけ緩んだ。


けれど、そこで終わらなかった。


カチッ。


赤。


「えっ?」


カチッ。


黄色。


だっくは羽をぱたぱた振る。


「ぐわっ♪」


《セキュリティレベル3》


《防衛モード移行》


石崎の声が裏返る。


「全部押すなぁぁぁぁぁ!!」


絶叫がガラスに跳ね返った。


さらに低い警報音が、施設全体を震わせた。


次の瞬間。


ゴォォォン……


地面の奥から重たい振動が伝わり、施設中の隔壁が一斉に動き始める。


ガシャン。


ガシャン。


金属同士が噛み合う音が廊下に響き、分厚い隔壁がゆっくり閉じていった。



実験区画でも、突然の音にルナたちが一斉に顔を上げる。


それぞれの部屋の向こうで、重い隔壁が動く音が響いていた。


「……え?」


「何の音?」


「なんか閉まってる!」


四人は顔を見合わせると、閉じていく隔壁に駆け寄った。


ガシャン。


最後の隙間がゆっくり閉じる。


「開かない!」


コウが扉を押す。


ミーアも取っ手を引いた。


「ほんとだ!」


ルナも隔壁に手を添え、小さく首を傾げる。


「なんで?」


誰にも理由は分からなかった。



その瞬間だった。


ブロロロ……


施設の外からエンジン音が近付いてくる。


一台。


また一台。


社員旅行から戻ってきた車が、静かだった研究施設に次々と入ってきた。


大型バスが正門前でゆっくり止まる。


車内では研究員たちが荷物を降ろしながら笑い合っていた。


「いやぁ、楽しかった」


「食べ過ぎたな」


「温泉最高だった」


施設長も伸びをしながら外へ出る。


見慣れた研究施設を見上げ、小さく頷いた。


「さて。石崎はちゃんとやってるかな」


一人の研究員が正門へ近付く。


その瞬間だった。


施設入口の認証装置が反応する。


ピッ。


《帰還車両確認》


軽い電子音が鳴る。


《社員証照合中》


全員が何気なくゲートを見つめる。


《照合失敗》


「……え?」


笑顔が止まる。


《侵入者認定》


「……は?」


誰かが声を漏らす。


次の瞬間。


《排除します》


低い機械音が施設の外壁に響く。


「え?」


「ちょっと待──」


ドォォォォォンッ!!


爆音が正門前に響き渡った。


大型バスが爆炎に包まれ、衝撃で車体が大きく跳ね上がる。


黒煙が一気に立ち昇り、瓦礫が辺りに飛び散った。


コントロールルームの大型モニターへ、その光景が映し出される。


石崎は思わず画面を見上げた。


「うそ……」


黒煙の中から、煤だらけになった研究員たちが慌てて飛び出してくる。


施設長が大型カメラへ詰め寄る。


モニターいっぱいに顔が映った。


「石崎ぃぃぃぃぃぃ!!」


石崎は反射的にガラスへ張り付いた。


「僕じゃないですぅぅぅぅぅ!!」


二人の声は館内放送を通して施設中へ響き渡った。


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