第7話:押しちゃダメ
警報音が施設中に響き続ける。
(落ち着け、冷静にだ……)
赤色灯が一定の間隔で回る中、石崎はもう一度防爆ガラスに近づいた。
「だっくちゃん」
「ぐわっ!」
「さっきは押してくれてありがとう」
「ぐわっ♪」
嬉しそうに胸を張るだっくを見て、石崎は苦笑した。
石崎は防爆ガラスの前で小さく息を吸う。
「……まだ終わりじゃない」
解除できる。
そう自分に言い聞かせると、もう一度だっくを見た。
「だっくちゃん」
「ぐわっ!」
「今度はよく聞いて」
石崎は青いボタンを指差す。
「青を一回だけ」
人差し指を一本立てる。
「一回だけだからね」
だっくは青いボタンを見つめると、
「ぐわっ!」
力いっぱい頷いた。
ゆっくり足を持ち上げる。
石崎は息を止めた。
カチッ。
青。
石崎の表情が少しだけ緩んだ。
けれど、そこで終わらなかった。
カチッ。
赤。
「えっ?」
カチッ。
黄色。
だっくは羽をぱたぱた振る。
「ぐわっ♪」
《セキュリティレベル3》
《防衛モード移行》
石崎の声が裏返る。
「全部押すなぁぁぁぁぁ!!」
絶叫がガラスに跳ね返った。
さらに低い警報音が、施設全体を震わせた。
次の瞬間。
ゴォォォン……
地面の奥から重たい振動が伝わり、施設中の隔壁が一斉に動き始める。
ガシャン。
ガシャン。
金属同士が噛み合う音が廊下に響き、分厚い隔壁がゆっくり閉じていった。
◇
実験区画でも、突然の音にルナたちが一斉に顔を上げる。
それぞれの部屋の向こうで、重い隔壁が動く音が響いていた。
「……え?」
「何の音?」
「なんか閉まってる!」
四人は顔を見合わせると、閉じていく隔壁に駆け寄った。
ガシャン。
最後の隙間がゆっくり閉じる。
「開かない!」
コウが扉を押す。
ミーアも取っ手を引いた。
「ほんとだ!」
ルナも隔壁に手を添え、小さく首を傾げる。
「なんで?」
誰にも理由は分からなかった。
◇
その瞬間だった。
ブロロロ……
施設の外からエンジン音が近付いてくる。
一台。
また一台。
社員旅行から戻ってきた車が、静かだった研究施設に次々と入ってきた。
大型バスが正門前でゆっくり止まる。
車内では研究員たちが荷物を降ろしながら笑い合っていた。
「いやぁ、楽しかった」
「食べ過ぎたな」
「温泉最高だった」
施設長も伸びをしながら外へ出る。
見慣れた研究施設を見上げ、小さく頷いた。
「さて。石崎はちゃんとやってるかな」
一人の研究員が正門へ近付く。
その瞬間だった。
施設入口の認証装置が反応する。
ピッ。
《帰還車両確認》
軽い電子音が鳴る。
《社員証照合中》
全員が何気なくゲートを見つめる。
《照合失敗》
「……え?」
笑顔が止まる。
《侵入者認定》
「……は?」
誰かが声を漏らす。
次の瞬間。
《排除します》
低い機械音が施設の外壁に響く。
「え?」
「ちょっと待──」
ドォォォォォンッ!!
爆音が正門前に響き渡った。
大型バスが爆炎に包まれ、衝撃で車体が大きく跳ね上がる。
黒煙が一気に立ち昇り、瓦礫が辺りに飛び散った。
コントロールルームの大型モニターへ、その光景が映し出される。
石崎は思わず画面を見上げた。
「うそ……」
黒煙の中から、煤だらけになった研究員たちが慌てて飛び出してくる。
施設長が大型カメラへ詰め寄る。
モニターいっぱいに顔が映った。
「石崎ぃぃぃぃぃぃ!!」
石崎は反射的にガラスへ張り付いた。
「僕じゃないですぅぅぅぅぅ!!」
二人の声は館内放送を通して施設中へ響き渡った。




