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アップルシードルに乾杯  作者: 立夏 葉


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鍵①

H304とは何かと関わることがあった。彼は城の管理人で、ラオ爺と呼ばれている老人の相棒だった。管理人でなければ開けられない扉や必要な物資があるたび、彼らが呼ばれそういう場合はほとんど、まだ若いH304がやってきた。若いといってもラオ爺より若いだけでわたしよりは随分年上だったけど。


彼はなんというか他の人と少し違った。わたしたちはなるべく人と関わらないように、必要以上の会話をしないようにするのが普通なのに、彼はやけにわたしと話したがった。何気ない会話をしたがっていた。でもそれは危ない行為だったので、わたしは彼に警告の意味でこう言った。


「いくら他に誰もいなくても、こんな風に業務と関係のない会話をするのは危ないですよ」


すると、彼は言った。


「『死の矢』のことなら大丈夫。ぼくもきみもターゲットから外してプロテクトをかけてあるから。勿論このことはごく内密にね。もし保安部に知られたら処分されてしまうから」


わたしは驚いた。「死の矢」のことについて表立って触れるのはものすごく危険なことだし、更にそのターゲットから外すことができるというのも初耳だった。



「一体、誰が?長官の指示ですか?」


「いや。システム部のユキムラですよ。EK28。彼がここのシステムのすべてを管理しているからね」


そう言って、彼はわたしに近寄り手をとって何かを握らせた。細長い冷たい金属の何か。わたしは彼の顔をじっと見た。これは何?と聞くかわりに。


「それは鍵だから。今日仕事からあがる時、地下3階においで」


そう言って、H304はわたしの表情を黙って見つめた。わたしは、混乱し、つきかえすべきだと頭の中で何かが騒ぎ出していた。でもその騒ぎとは裏腹にわたしはその鍵をそっと胸元に仕舞った。



普段の業務ではほとんど地下に降りることはない。城はいつまでたっても慣れない迷路のような建物で、地下へと降りる階段を探すのにすら手間取った。よく考えてみたら、ここに来てから、管理部と居住エリアとの往復だけで、仕事が終わって寄り道などしたことがなかったことに気づく。「死の矢」のターゲットから外してあるという話を聞いていなければきっと躊躇しただろう。実際今でも、地下を目指すことが正しいのかわからない。でも、渡された鍵は、わたしを掻き立てた。これはなんだろう、今からなにが起こるのだろうという疑問がわたしを興奮させている。こんな気持ちは生まれて初めてだった。



上階と違い地下はほとんど石造りのままで、階段を降りてすぐのところはちょっとしたホールになっておりそこから放射状に部屋が並んでいた。地下二階も同じつくりでそのまま三階に降りると、H304が階段下で待ってくれていた。彼は黙ったままわたしを誘うように先に進み、一つの扉を押し開けた。そこは部屋ではなくその先に廊下が続いていていくつかの扉を通り過ぎ、一つの部屋の前で立ち止まった。彼は鍵穴を指差し、言った。


「開けてごらん」

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