城②
ラオ爺は政府機関が入っている通称「城」という建物の管理人で、この「城」は堅牢なはるか昔の建造物で迷宮めいた複雑なつくりのため、全てを知り尽くしているのはラオ爺しかいないと言われていた。つながりを作ることを防止するかのように業務は次々と変えられるのが普通だったが、いくつかの業務にはこの人でなければ支障が出るという性質のものもあり、「城」の管理人もその一つだった。ただし助手についてはその限りではないらしく、偏屈なラオ爺の相手は務まらないのか助手は次々に変わっていたらしく、この度ぼくにその白羽の矢がたったというわけだ。
ラオ爺とぼくの波長があったのはひとえに彼が祖父と似た人種だったおかげだろう。彼らには自分のペースがありそれを乱されることを好まない。彼らの呼吸にあわせ、こちらから性急に答えを求めなければ、やるべきことは示してくれる。それを待てばいい。ぼくは幼い頃から物静かな祖父が大好だった。ラオ爺はぼくにそのことを思い出させてくれたし、もしかしたらラオ爺にとってもぼくは誰かを思い出させる存在だったのかもしれない。それからぼくらはずっと城の管理人を勤めることになった。
城は不思議な建造物だった。有機物ではと疑うくらいムラッ気があり日によって違う顔をみせた。ある日は機嫌がよくすべての扉は簡単に開き、迷うこともなく目的の部屋にたどり着くが、ある日は扉という扉が容易には開かず経験を積んだぼくですら無理でラオ爺に頼らなければ開くことが出来なかったりする。時に悪夢のような迷宮と化すこの建物をなぜ政府が使用し続けているかと言えば、今はもうこんな建造物をたてる技術も資材もないからなのだろう。あちこちに古い資材が貯めこまれている部屋があり、この倉庫の管理や必要な資材を探し出すことも管理人の重要な仕事の一つだった。そして、城の管理人になってから何年もたったある日、ぼくは城の地下の一室に、禁制のものがひっそりと残されていることを知った。ラオ爺はそれが残されていることを報告しなかったのだろう。この部屋の扉は癖が強く開けるのは容易ではないから、誰も見つけることもなく、ただずっとそこにあり続けている。
離れ離れになっていたユキムラとは城で再会した。ユキムラはかなりの特殊業務についていて、「この人でなければ支障が出る」というタイプの人間だった。必要最低限のことしか会話をしないことが強いられている中、ユキムラと立ち話をすることもリスクだった。だが、ユキムラはそのリスクを意に介さないように相変わらずおしゃべりなままだった。ユキムラの仕事部屋であるコンピュータールームに部品を届けたとき、ユキムラはその訳を教えてくれた。
「俺、『死の矢』のシステム管理をしてるんだよ。要するにドローンでターゲッティングする仕組みなんだが、違反行動をするとそれが累積していき自動的に放たれる。違反行動はあちこちの監視カメラでチェックされているんだよ。まあチェックされてることはもうみんな知っているから、最近はほとんど放たれていないんだが。で、監視カメラの位置も把握しているし、あと、実はこのシステムは個人にプロテクトをかけることができる隠しコマンドがあって、何人かにかけてるんだ」
驚くべき話だった。ユキムラの業務がそんなものだったとは。
「お前と俺とラオ爺と、あと彼女にもかけてある」
僕は不意打ちを食らったように動揺した。ユキムラは続けた。
「あの頃が懐かしいな。お前と俺と彼女と」
そう言うユキムラに目で訴える。その話はしてくれるなと。ぼくの気持ちが手に取るようにわかるのだろう、ユキムラはそれ以上は何も言わず、その代わり二人とも黙ったまま、あの頃を思い出していた。




