塔②
ぼくは長官のエリアを目指して管理人室から上へ上へと登る。もう何にも未練はない。
この世界から奪われたのは手がかりだった。よすがというべきかもしれない。ぼくらには微かに残るそれが、若いものたちには微塵もないのだ。それがどうしようもなく痛ましくてならなかった。
ぼくらにもろくにないのにぼくたちがすがりついているこれすらなければ何を思い描けばよいのだろう、何を夢見ればよいのだろう。何も手がかりがないという罰はあまりにも残酷じゃないか。本人たちは気づいてないにしても。
ぼくは自分が過去に囚われていることを自覚している。ユキムラと彼女との子ども時代のあの過去の時間に未だ囚われている。ユキムラもそれを支えに生きていたと最後に言ったように、あのユキムラすらそうだった。それはおそらくその後の人生に何のとっかかりもないからだ。何もよすがになるものがないからだ。そして若い、ツバサたちの世代は生まれてからずっと、とっかかりを持たぬように生きさせられている。ぼくはそのことが堪らずに手を出してしまった。自由を欲しがるように仕向けてしまった。それがこの結末か。この結末がぼくへの罰なのか。
長官のエリアには誰もいない。保安部もおらず、躊躇なく塔を登り続ける。長い古びた階段を登っていき、塔の最上部の執務室にたどりつく。これほど登ったのにぼくの息はまるであがっていなかった。ひどく冷静な乾いた気持ちだった。
執務室には鍵もかかっていない。ぼくは扉を開けて、彼女と対峙する。
入ってきたぼくを見ても長官は驚きもせず、ただじっとぼくを見た。
「あなたがしたかったことは、これなの?モリー」
彼女はそう言って、ぼくを見つめた。




