クーデター③
それでも時間に猶予はなかった。カイはボヤ騒ぎをおこすために該当エリアに向かう。わたしは保安部を足止めしたカイと合流した後、長官のいる塔に向かう予定だった。立ち去ろうとしたとき、モリーがわたしにある物を握らせた。
「これは?」
「銃だよ。物語で出てきただろう。殺傷能力のある武器だ。これも禁制のものだが、長官に禅譲を強いるにはあったほうがいい」
「使い方がわからないわ。それにこんなものどうしたの」
「古いものが自宅に残っていてね。ユキムラに頼んで修理してもらっていたんだ。使わないにこしたことはないが、長官が武器をもってないとは言い切れないからね。これできみの身を守り、目的を果たすんだ」
モリーは、優しい目でわたしを見つめる。まるで最後の別れであるかのように、切ない表情をする。今までもずっと優しかったけれど、今までで一番優しくて愛おしげな表情。お別れの時かのような。いや、そんなわけない。計画通りにいけばこのクーデターは問題なく進むはずだ。わたしは、わたしたちに自由を取り戻したい、ただそれだけ。
怖いことなんてないよ、大丈夫、うまくいくというようにわたしはモリーに微笑んでみせる。そして振り返らずに、この秘密の書庫を後にした。
わたしは甘かったのかもしれない。カイは思っていたより遅く待ち合わせの場所に来た。そして、ひどく動揺しながら言った。
「全員を封印しそこねてしまった。だから長官の部屋に突入するのは阻止されるかもしれない。なんとかきみだけでも塔に上がらせるようにできるだけやってみるが、ユキムラの確保に動いてしまったP388を抑えておけなかったのでそう簡単にはいかないかもしれない」
カイの話では、保安部の精鋭はボヤ騒ぎを無視しユキムラの確保に向かったらしい。ユキムラは無事なのだろうか。あのいつものからかうような面白がるような彼の表情が見たくてたまらない。背筋が寒くなるような怯えが全身を走る。でも、もう既にカイは仲間を裏切り保安部を閉じ込めるという行為をおかしたわけだからもう後戻りはできない。わたしとカイは、長官のもとへ向かう。溢れるような不安と混乱で、思考がまとまらないままだ。突然、ドンっとどこかで大きな爆発音がする。何か恐ろしいことが起きているみたい。しかもわたしは恐ろしいことをこれから実行しようとしている。
わたしとカイは、長官の塔に向かう階段の前で少したじろぐ。心配していたけど保安部はそこに誰一人いなかった。よかった。そして、わたしたちは石造りの階段に足を乗せる。
乗せた途端、キンっという嫌な音が響く。きっと、この音は死の矢が放たれた音。わたしとカイは見つめあう。できることはそれくらい。死の矢が飛んでくるんだ。わたしたちのクーデターはここでお終いになるんだ。だから、最後はカイの眼をみていたい。わたしたちは見つめ合う。書庫の時のようなあの甘さで、あの時のような愛情で。これが最後の眼差しであっても、それでも。この感情が生きるってことだよね?そうでしょ、モリー……。




