クーデター②
頭の中でいろんなシュミレーションをする。なるべく安全に、誰かを傷つけることなく自由を手に入れる方法を模索する。本当は長官が死ぬか引退してくれれば一番いいのに。そうすればわたしが新しい長官として力をふるえるのに。長官の死を願うことはわたしにとっては親の死を願うことでもある。でも遺伝子上ではどうであろうと、わたしたちには親子としての絆はなかった。保育施設、児童施設でみなと一緒に養育されたあと城に連れてこられたのだからたいして特別扱いされたわけではない。ただ、児童施設のあと、城につれてこられ、後継者と囁かれるポジションにつき、管理部で長官の補佐的な仕事をしているだけ。ただの一度も個人的な会話をしたこともない。まるで、長官すら親子の親しい会話をすることによって「死の矢」が飛んでくることを恐れているかのように。わたしは彼らの前では口にしなかったけれど、長官の死や病を願っていた。それが一番、合理的だと思っていた。
ここでモリーやラオ爺、ユキムラからどんな風に社会が変わっていったかを聞き、昔の社会が今よりもずっと自由があったことを知った。「死の矢」によって誰も逆らえない社会が、今の長官の前の亡くなった前長官(会ったことはないけどわたしにとっては祖父)によって急に作り上げられ、それを今の長官は踏襲しているわけで、今現在、この体制の維持を望んでいるのはいまや現長官だけとしか思えなかった。みんなは怯え、馴らされ、この仕組みに従っているだけなのだ。大きな変化を起こすことに怖さはあるし反発もあるだろう、それにわたしは長官の娘として糾弾されることだってあるかもしれない。でも、このままの仕組みを続けるのは嫌だった。それは最も選びたくない選択だった。
でも、事態は急変した。発端はユキムラだった。
カイから連絡がきて、わたしたちは書庫に集まった。カイは言った。
「ユキムラはマークされている。なんの容疑かはわからないが保安部にユキムラの一挙手一投足を見張れという連絡がきている」
それは最も恐れていた事態だった。安全のためこの集まりはユキムラに声をかけられなかった。想像していたよりよくない知らせだったことで、もう猶予がないことは明白だった。このタイミングで何かを起こすか、起こさないか。起こさなければ二度とこんな集まりは持てないだろう。ユキムラのコントロール下にあった「死の矢」のシステムは、他の人間の管理するところになれば、わたしたちへのプロテクトが見つかってしまうかもしれない。それだけですめばいいけど、下手すればみんな処分される。よくてバラバラ、悪ければ、悪ければ。
わたしが顔をあげると、カイもモリーもわたしを見ていた。わたしは頷く。
「危険なことはわかっている。でもやろう。なるべく誰も傷つけないやりかたで、クーデター計画を実行しよう。これは『死の矢』に脅かされてないわたしたちにしかできないことだから。みんなに、生きることを、絆を、自由を教えてあげたい。そして名前を取り戻してあげたい」
クーデター計画といっても要は禅譲計画なのだ。長官のところにいって禅譲を強いる。危険にさらされるのはわたしたち以外は、長官だけだった。長官を殺す必要はない。従ってくれなければ強要や監禁をする可能性は想定していたが、誰も死ぬ必要はない。ただ、わたしたちが長官の元に無事に行くのがそう簡単ではない。長官の執務エリアの塔に入るには許可が必要だった。わたしですら塔に上がったことはない。長官は幹部エリアにはほとんど降りてこないし、長官の塔の入口は保安部の監視対象だった。だから監視している保安部をどうやり過ごすかが難題だった。これについては前からいろいろ議論はしていて、カイに動いてもらうしかないという結論にいたっていた。原始的だが、ボヤ騒ぎでも起こし保安部が駆けつけて消火活動している隙に保安部がいるそのエリアをカイが封印する。そうすれば保安部は足止めできるわけだ。また、その段階に至ったときには、ユキムラが死の矢で保安部全員をロックオンするシステムを作り上げていた。異常行動をとってなくてもロックオンすることで、保安部の制圧は可能だった。わたしたちは何度もいざ時が来たらどうすればうまく運ぶかについて意見を出し合っていて、封印しやすいエリアとしてボヤ騒ぎを起こす場所も既に決めてあった。でもこの計画は、ユキムラが今システムを触れていないのであれば完全には進まないだろう。




