外②
ラオ爺は外に出るまでは歩くといって聞かなかったので好きなようにさせた。ぼくたちはゆっくりと居住エリアを通り抜け、朽ち果てたフェンスを抜けて30年ぶりに外に出た。
城の上の階にぼくたちは上がる機会はあまりないとはいえたまに高いところから外を眺めることはできていた。だから外が居住エリアと違い緑で溢れているのはわかっていた。とはいえここまで違うのかと絶句する。色のない居住エリアと違い、濃い緑、淡い緑、赤みがかった、茶色がかった、黄みがかった緑で、外の世界は溢れていた。人の手の入らない放置された緑の世界の迫力にぼくとラオ爺は少し立ち尽くす。
道はありがたいことに残っていた。わさわさ繁る雑草だらけの中に一筋、緑が繁茂していないところが残っている。ぼくたちは外に出られた高揚感とここまで荒れ果てていることへの衝撃をかかえて、歩き出す。ラオ爺は外でも歩きたがった。何か使えるものはないかと周囲を見回しながら彼のペースにあわせて荷車を引きながらゆっくりと進む。ぼくの家はここから数キロ、ラオ爺の家はそこからさらに奥だった。急ぐ必要はなかった。あの後、またツバサが仕事の顔でやってきて、ぼくに外の手引書を作ることが許可されたと伝えてくれたからだ。ぼくたちは当分、居住エリアと外との出入りが許されたし、公的にイレギュラーな振る舞いも許されることになった。だからぼくは荷車に簡単な寝具を積んでおり、泊まれそうならこっちで泊まることも考えていた。
かろうじて道はわかるものの度重なる災害で倒木があったり地割れした箇所があったり、進むのには時間がかかった。
崩れ落ちた工場、学校などの建物を目の当たりにするとなんとも言えない気持ちがわいてくる。ここは過去で溢れている。失われ放置された過去の遺物に囲まれぼくたちは黙って歩き続ける。ラオ爺は時折ため息をついた。何を考えているのか、ぼくは聞けなかった。
ぼくの家はあった。雑草まみれでつる植物に覆われ占領されている状態を家と呼んでもよいのならば、だが。雨漏りすることは間違いない、部屋の中から灰色の空が見えるくらいだから。居住区へ強制移住させられた時私物はすべて置いていかなければならなかったので、ぼくの持ち物はすべて家にあるはずだった。隠していた本やアルバムは雨風に晒されて開くこともできなかったとはいえ、管理部はこのことをどう考えているのだろう、監視をつけようと思わなかったのかと思った。ただ、次世代の人間を監視に同行させなかったのはこのためか、とも思った。ぼくもラオ爺もどうせ過去の記憶をもった人間なのだ。そいつらが過去のものと出会ったところで革命的な何かが起こるわけはないのだ、ただ、せいぜい懐かしさに涙する程度だろうと思われていたのかもしれない。事実、ぼくは懐かしい本のどうにも開かない表紙をみて、少し泣きそうになった。どういう感情によってなのかは、うまく気持ちを整理することはできなかったので曖昧なままだ。
今回の役目としては、補修につかえる木材や石材の確保と、行ける範囲の見取り図の作成だった。ただ、ぼくには当然、別の目的があった。この機会を逃しては果たせないこと、アップルシードル造りだ。
林檎がまだ収穫できるのか、これが1番の気がかりだった。そもそももう林檎の木が枯れ果てていたり実がなっていなかったりすれば、頓挫する話だ。だからぼくは、ぼくの家を少しはましな居心地になるように慌ただしく整えた上でラオ爺を置いて、昔、林檎園があった丘をひとりで目指した。




