表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アップルシードルに乾杯  作者: 立夏 葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/22

鍵⑥

「この部屋の鍵もってるのってわたし以外にもいる?」


モリーは言った。


「いないよ」


わたしはただ頷く。すると彼は聞いてくれた。


「誰かに渡したい?」


「できることなら、物語を知る仲間がいたらなって」


モリーは驚くほど勘がいい。次に会った時にわたしの好きにしていいよと鍵をもう一つくれた。それは、明らかにわたしへの信頼だった。この鍵をわたしが誰に渡すかは恐ろしいほどのリスクを秘めているのに、何も聞かずに渡してくれた。その気持ちが嬉しくてそして少し怖くもあった。これからわたしが選ぼうとしている道は、危険だから。



DBY1にしようと思った理由は二つある。彼が何かを感じさせる存在だったこと。そしてもう一つの大きな理由は彼が保安部員だったこと。


保安部員についてもっと情報を集めて知ることができなければ何かを変えることは難しいと思っていた。だから保安部員を計画に引き入れる必要があると思っていた。わたしは誰がいいか考えていて、保安部員を気に掛けるようになった。そのうちDBY1が気になるようになってわたしはいつも彼の姿を探した。彼の何かに飽きたような諦めたような表情は、他の皆と少し違って昔の自分を思い出させたし、何かを求めているような切望感をその瞳に感じた。そしてわたしが彼を見つめるようになったことで、彼もわたしを意識しはじめていった。それをはっきりと感じた。わたしたちは情緒的なものを遮断され恋愛感情などわきようもなく、好悪の情すら薄い暮らしを続けていているのに、ただ彼にとってわたしが「見つめてくる存在」だっただけで、彼の意識を動かすことができていた。



それほどわたしたちは、非日常に飢えていたのかもしれない。わたしがモリーが握らせてくれたあの鍵一つで危険を冒す道をあっさりと選んだように。わたしが彼に近づけば、彼は保安部という責務とわたしとの接点の狭間に立たされ悩ませることになることはわかっていた。でも、わたしには自由が必要だったから、躊躇はしないでおこうと思った。



折をみて彼にこの鍵をそっと渡す。


「これを持って地下3階まで来られる?」


彼は軽く目をみはり、そしてただ頷いた。



わたしは地下で待ち、そしてあの部屋へと案内した。わたしはすぐには彼の仕事や立場のことは聞かないでおく。彼を困った状況へと追い込んでいることに触れないでいるし彼も触れようとしない。何も問いたださない。ただ死の矢のプロテクトの話だけはしておく、前もってEK28(ユキムラ)に頼んでいるからその点については安全だと。



彼も夢中になって物語を読む。わたしよりはかなり時間がかかるようで、それは普段の仕事の種類からしてももともとの訓練でも文字に触れる機会がわたしより格段に少ないからだろう。それでも明らかに興奮し物語に引き込まれていく。この光景を見る側のわたしにもある恍惚感がわく。これをモリーとラオ爺、ユキムラも味わっていたのだなと思う。彼を興奮させていることが嬉しくて、そして恐ろしい。これから進めようとしていることの重さに慄きつつ、でもけしてこの計画をやめることができない自分がいることもわかっている。初めて抱いた希望を簡単にあきらめるなんて、できるわけないじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ