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アップルシードルに乾杯  作者: 立夏 葉


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鍵⑤

ラオ爺もEK28もH304を「モリー」と呼んでいたのでわたしもいつの間にか彼を「モリー」と呼ぶようになった。EK28のことも「ユキムラ」と呼ぶようにした。昔の人々にはちゃんとした名前がある。わたしにはないとわたしが残念そうに言うと、モリーは言った。


「自分でつけたらいいんだよ」



わたしはその言葉をかけられてなんだか泣きそうになる。そんなこと思いもよらなかった自分が少し恥ずかしい。名前をつけるのは自分という人間がようやく完成するような気がしてそれから名前探しに夢中になった。どんな名前がいいだろう、どんな名前がわたしを示すのにぴったりだろうかと。そしてある日、モリーとラオ爺に告げた。


「名前、決めた。わたしは『ツバサ』」


モリーは、今まで見てきた彼の中でこんな嬉しそうな顔は見たことがないというほど嬉しそうな笑みを浮かべて言った。


「『ツバサ』。すてきな名前だ」


それからみんなに「ツバサ」と呼ばれるたび、わたしは一歩ずつ、わたしという人間に遅まきながら近づいていけるような気がした。人間になった気がしたのだ。



城と居住区の往復だけの、モリーとラオ爺と稀にユキムラに会う以外は誰ともほとんど会話のないわたしの生活だけど、ツバサがあれば林檎の丘にも飛んでいけるのに。セイレーンの歌う海峡にすら行けるかもしれないのに。そんな気持ちで選んだ名前だった。わたしは物語に触れれば触れるほど、自由が欲しくなっていた。自由という言葉を知ってから、それに取り憑かれたように、欲しくてたまらなくなっていた。そして、そのためには何をすればいいか考えるようになっていた。

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