#7 「は……?」
「は……?」
結論から言おう。
目論見は失敗した。
今日の日付は【4月1日】──昨日までと同じだ。
眠らずに朝まで過ごせばループを回避できるかも、という僕の見通しは甘かった。
しかも不思議なことに、学校の制服に着替え、ベッドに横になるどころか座ることさえすまいと決心したはずが、どういう訳か、気付いた時には寝間着姿でベッドの上で熟睡していたのだ。
どのタイミングで僕は寝間着に着替え、ベッドに入ったのか──全く身に覚えが無い。
寝起きの脳を回転させて記憶を掘り起こしてみるも、23時56分を示した時計をチラリと見たことだけは辛うじて憶えていたものの、それ以降はやはり思い出せない。
まるで自分の体が他の誰かに支配されているようで、薄気味が悪い。
何にせよ、眠りに入ろうが徹夜しようが、ループは関係無く行われる。
僕の推測だが、4月1日23時59分59秒までは進むが、4月2日0時0分に到達したまさにその瞬間、全てがリセット、4月1日の同時刻へ回帰するのだろう。
それが分かっただけでも収穫、一歩前進と喜ぶべきか。
結局、今朝もこれまで通り、母の声で起こされた。
「……お早う、爺ちゃん」
「おお、お早う」
階段を下りると、食卓には既に朝食が並んでいた。
トーストと目玉焼き、それにサラダとヨーグルト。
「いい加減、飽きてきたな……」
四連続で同じ朝食。
母のせいではないと分かっていても、恨めしさが込み上げる。
〈アメリカのニューマン大統領は、日本時間の昨日二十時にイギリスを訪問、ブラウン首相と会談し──〉
最早ニュースは只の雑音、不快な音でしかない。
げんなりとしながらも、変わらない朝食を喉の奥へ流し込む。
「入学式だっていうのに暗い顔だな」
「……だろうね」
「人は第一印象で大体が決まる。愛想良くしないと人が逃げていく。人が逃げるということは運が逃げるということだ」
「……はいはい」
全く同じことを毎朝毎朝言われ続けて、いい加減うんざりしてきた。
勿論これも祖父が悪い訳ではないことは分かっているが。
「行ってきます」
朝の空気が僕をやや冷たく出迎える。
さて、次のイベントは──もう分かっている。
「ようハルイチ!」
「やあ、お早う」
照沢雄人、海野大吾、浜田敦。
すぐそこの曲がり角から、自転車に乗った三人が現れた。
「雄人たちは……今日は始業式なんだっけ? 在校生との交流とか、部活動の勧誘や体験入部も始まるんだよね? 当然バスケ部に入るんだろうけど」
「お、おう。よく知ってるな。言ったっけ?」
「さあ? 俺は言ってないけど」
「確かにバスケ部にするつもりだけど、せっかくだから、他の部も少し体験してみたいなって気持ちもあるけどな」
僕の言動が変われば、それに影響を受けた者の言動も変わる。
「──っと、急いでるんだった。じゃあな」
「また今度一緒に遊ぼうな」
「ハルイチも頑張れよ」
別れの挨拶を告げて、三人はペダルを──
「あ~、ちょっと待った。もう少しだけ」
ここで変化を加えてみようと思う。
「何だ、ハルイチ?」
「いや……その、次に暇な時っていつかな? 今から予定決めておこうかと思ってさ。やっぱり土日?」
「かもな。──あ~、いや、俺は親戚が来たりとかして、もしかしたら予定合わないかも」
雄人が悔しそうに頭をボリボリと掻く。
「そう? 別に遠出しなくてもいいんだ。またハウンドランに行って、ボウリングとかスケートとか、色々やりたいなって思うんだけど……」
「俺も多分行けないかも。家族で花見行くって言ってたし」
「同じく。新年度ってことで色々と準備しなきゃならないことがあるから。日が経って落ち着いたら行けそうだけど」
「……そう、なんだ」
彼らにも事情や個別の用事があるのだから、無理強いはできない。
「おっと、そろそろ行かないと」
「ああ、うん。引き止めて悪かったね」
会話はここまで。
「じゃあなハルイチ。そっちも入学式なんて退屈だろうけど、頑張れよ」
別れの挨拶を告げて、三人はペダルを漕ぎ出す。
「……そうだね。何度も何度も繰り返されて、本当に退屈だよ」
届かない答を返して、僕も歩き出した。
こんな小さな変化でも、何かが変わることを期待したい。




