#6 「これが『三回目』です」
一体何故、こんなことが起きているのか。
もう夢だとは疑わない。
認めたくはないが、これは明らかに現実だ。
いくら今日がエイプリル・フールだからって、流石に嘘や冗談の域を超えている。
神様のイタズラだとすれば、あまりにもタチが悪いと言わざるを得ない。
誰が、どうやって、こんなループを行っているのか。
どうして僕だけがそれを自覚できているのか。
疑問は尽きないが、最も重要なことは一つ。
「どうすれば、このループは終わるんだ……?」
恐らくこのままでは、明日もまた「今日」が繰り返されてしまう。
どうすればそれを防ぎ、真の明日──4月2日へ進めるのか。
まだ何も分からないが、とにかくそれを探らなくては同じことの繰り返しだ。
僕一人の力で変えられるようなものなのかは分からないが、他の誰もループを自覚できていない以上、可能性があるのは僕だけだ。
「とにかく、今までとは違う行動を取ろう。バタフライ・エフェクト、だったっけ? 小さな行動が巡り巡って大きな変化を招く。影響が影響を呼んで、このループが終わるかも知れない」
ハラリハラリと舞う桜の花弁が、僕の肩にそっと乗る。
校門とその道中に植えられた桜の木々は、当然ながら「九分咲き」。
「みんな、もうちょっと寄ってね~」
「だってさ。オリオン、もっと真ん中に寄ってよ。僕が見切れちゃう」
「やめろ伯雅、そんなに強く押すな……」
「ほらほら七香も。もうちょっとオリオンの方に詰めなさいって」
「ちょ、ちょっと晴蘭……!」
「フフッ、良い感じよ。じゃあ撮るわね~」
記念撮影をしている四人の生徒──間も無く僕のクラスメイトになる者たち。
まずは彼らから始めてみよう。
「あの……もし良ければ、僕が撮りましょうか?」
「えっ?」
四人を撮影している女性に声を掛けた。
もしかしたら女優かモデルなのだろうか、太陽の如きオーラを放つ絶世の美女で、背もスラリと高く、何より──服を着ていても分かるほど、体の一部分がその辺の女性を凌駕している。
あの四人の誰かの母親なのだとは思うが、それにしても若い。
「せっかくですから、五人一緒に映ってはどうですか?」
「いいわね。じゃあ、お言葉に甘えてもいいかしら」
美人ママの女神級スマイルと優美なボイスに、脳が破壊されたような気がしてクラクラする。
この行動がループ阻止に繋がるのかは分からないが、これだけでもやる価値はあったと言い切れる。
渡されたスマートフォンで五人を撮影。
写りは申し分無い。
「どうもありがとう」
「い、いえいえ、どう致しまして……」
春の陽気は脳を蕩かす。
半ば夢見心地のまま、僕は誘われるように校門を潜った。
その後の入学式も、前回と変わりは無い。
同じ者が同じ挨拶をする、実に退屈で苦痛な時間だ。
まあ、いつ挨拶が終わるタイミングが分かるという点だけは有り難いが。
そして予定通り、一年A組の教室へ移って自己紹介タイム。
先程の美人ママも後ろの父兄に交じって並んでいた。
流石に今回は、これまでと同じ自己紹介にはしない。
入学式の間、ずっとどういう内容にするか考えていた。
「染井春一です。今日という日を迎えるのは、これが『三回目』です。だから皆さんの顔と名前もほとんど憶えてしまいました。宜しくお願いします」
今朝の祖父と同じく、僕の言葉の意味を測りかねたクラスメイトたちが、一様に首を傾げていた。
頭のおかしい奴と思われたか。
或いは、今日がどういう日かを思い出して勝手に納得するか。
そのどちらかが通常の反応だろう。
案の定、センスが無いと苦笑した者がチラホラと目に入る。
それからも、前回までとは多少行動を変えて、時は夜。
寝間着に着替え、今はベッドの上で思案中。
「眠って、朝起きたらまた4月1日、というのがこれまでのループだった。だったら……眠らずに朝まで過ごしたらどうなるんだろう?」
睡眠がループのスイッチになっているのだとしたら、起き続けることでそれを回避できるのではないか、というのが僕の推測だ。
「試す価値はあるな」
寝間着を脱ぎ捨て、学校の制服に着替える。
朝まで本を読むなり、ゲームをするなりして時間を潰そう。
ベッドに横になることすらしない。
コーヒーも用意して、徹夜の準備はバッチリだ。
本当にこれで終わるのか、終わらなかったらどうする、という疑問は、また次の4月1日になった時に考えるとしよう。




