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エイプリル・ループ ~僕と彼女の4月0日~  作者: 尾久沖ちひろ
ループ2 4月1日

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5/21

#5 「嘘、だろ……」

春一(はるかず)! 起きてるの!?」



 母さんの声と、ゴンゴンゴン、とドアノックの音が同時に不快に響く。



「んあぁ~……起きてるよぉ~……」

「だったら早く下りて来なさい。今日は入学式でしょ? 遅刻なんてしたら一年間の恥よ」

「まだ慌てるような時間じゃ──えっ……!?」



 母のその言葉が、微睡(まどろ)みの中にあった僕の意識を現実に引き戻した。



 いや、まさか。

 そんなはずは無い。



 ガバッと布団から跳ね起きて、カーテンを全開にする。



 春の朝は、どこか嘘臭い。

 まるで何かを誤魔化すかのように。



 空はやけに澄み切っていて、前の季節を無かったことにするみたいに明るい。

 差し込む光が、机の上の真新しい学生証を照らしていた。



 そして、日捲りカレンダーに視線を移す。



「嘘、だろ……」



 そこに示されていた日付は──【3月31日】。

 昨日確かに捲ったはずのカレンダーが、何故かまた戻っている。



「今日は……今日は何日だ……?」



 パジャマ姿のまま、ドタドタと階段を駆け下りてリビングへ向かった。

 テーブルには、朝食を食べる祖父。



「お早う、春一」

「爺ちゃん、その新聞貸して……!」

「おい、何をする……!?」



 挨拶をする祖父の手から新聞を引っ手繰り、日付を確かめる。



「何で……嘘だ……何で……今日は……」



 この部屋にだけ冬が戻ったような寒気が、僕の身をブルリと震わせた。



 馬鹿な。

 有り得ない。



 新聞に記されていた日付は──【4月1日】。

 新年度の到来を告げる、始まりの日だ。



 食卓に並ぶ朝食は、トーストと目玉焼き、それにサラダとヨーグルト。

 三連続だ。



 身体的には腹が減っているが、精神的にはまるで食欲が湧かない。



「昨日のあれも……予知夢じゃなかったのか? 同じ朝が……4月1日が、繰り返されてるのか……!?」



 信じ難い、しかしそうとしか思えない事実に、クラクラと目眩すら覚える。



「どうした春一、入学式だっていうのに暗い顔だな」

「……そう?」

「ああ、悪い夢でも見たように蒼褪めているぞ。具合でも悪いのか?」

「夢……ね、そうだったらいいね。悪いことは全部悪い夢であって欲しいよ」



 予知夢だとしても、二日続けて全く同じ夢を見るなど有り得ない。

 むしろ、何故昨日──否、前回の時点で気付かなかったのか、自分の鈍さに呆れ果ててしまう。



〈アメリカのニューマン大統領は、日本時間の昨日二十時にイギリスを訪問、ブラウン首相と会談し──〉



 テレビからは、例のニュースが流れていた。

 今やその音声も気持ち悪く感じられる。



「お爺ちゃん、訊いてもいい?」

「何だ?」

「その……お爺ちゃんは、この朝、何回目なの?」



 混乱冷めやらぬ頭を働かせ、恐る恐る尋ねてみた。



「……ん? すまん、もう一度言ってくれんか?」

「だから、昨日──じゃなくて、前と同じこの4月1日の朝は、何回目なのかってことだよ」

「…………すまん、お前が何を言っているのかさっぱり分からん。前と同じ4月1日が何回目? ……去年の今日、という意味か?」

「い、いや……何でもない。分からないのならいいんだ」



 どうやら、この4月1日のループを自覚しているのは僕一人だけのようだ。



 考えてみれば前回──最初のループによる二回目の4月1日も、僕以外の人は、僕が影響を与えない限り初回と全く同じことを繰り返していた。

 ループを自覚しているのなら、僕のように言動に何らかの変化が生じたはず。



「行ってきます」



 身支度を整えて自宅を発った僕を、朝の空気がやや冷たく出迎える。



 そして、この後に起きる出来事も既に二度も体験して知っている。



「ようハルイチ!」

「やあ、お早う」



 照沢雄人(てるさわゆうと)海野大吾(うんのだいご)浜田敦(はまだあつし)

 すぐそこの曲がり角から、自転車に乗った三人が現れた。



「雄人たちは……今日は始業式なんだっけ? 在校生との交流とか、部活動の勧誘や体験入部も始まるんだよね?」

「お、おう。よく知ってるな。言ったっけ?」

「さあ? 俺は言ってないけど」

「まあ勿論、俺たちはバスケ部一択だけどな」



 僕の言動が変われば、それに影響を受けた者の言動も変わる。



「──っと、急いでるんだった。じゃあな」

「また今度一緒に遊ぼうな」

「ハルイチも頑張れよ」



 別れの挨拶を告げて、三人はペダルを漕ぎ出す。



「……うん、また」



 駅の方角へ去る三つの背中を見送ってから、僕も自分の道を再び歩き始めた。

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