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エイプリル・ループ ~僕と彼女の4月0日~  作者: 尾久沖ちひろ
ループ5 4月1日

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15/21

#15 「また後で考えましょう」

「居ない……」



 ハラリハラリと舞う桜の花弁が、僕の肩にそっと乗る。

 校門とその道中に植えられた桜の木々は、当然ながら「九分咲き」。



「みんな、もうちょっと寄ってね~」

「だってさ。オリオン、もっと真ん中に寄ってよ。僕が見切れちゃう」

「やめろ伯雅(はくが)、そんなに強く押すな……」

「ほらほら七香(ななか)も。もうちょっとオリオンの方に詰めなさいって」

「ちょ、ちょっと晴蘭(せいらん)……!」

「フフッ、良い感じよ。じゃあ撮るわね~」



 記念撮影をしている四人の生徒──間も無く僕のクラスメイトになる者たち。

 そして、スマートフォンを向ける美人ママ。



 目当ての彼女の姿は──校門のどこにも見当たらない。



「もしかしてループ継続に落ち込んで、今日は登校しなかったのか? いや、むしろループ継続に安堵した、という方が有り得る気がする」



 このままループが続いて欲しいと考え、しかし約束を交わした手前、僕の前に現れることに罪悪感を抱いて不登校という選択をした──というのは考え過ぎだろうか。



 前回は良い感じに説得できたと思ったのに。

 友情を交わして、二人で前へ進もうと決めたはずなのに。



「あの……もし良ければ、僕が撮りましょうか?」

「えっ?」

「せっかくですから、五人一緒に映ってはどうですか?」

「いいわね。じゃあ、お言葉に甘えてもいいかしら」



 今回も記念撮影を申し出て美人ママと接触しておく。

 何度も繰り返されて飽き飽きするループに於ける、唯一の癒しだ。



「どうもありがとう」

「い、いえいえ、どう致しまして……」



 潤いが失われた今の気分に、少しだけオアシスの水を補給して、校門を潜ろうとすると──



「お早うございます、染井君」

「わっ……!? えっ、吉野さん……?」



 待ち構えていたように、校門の陰から吉野さんがニュッと目の前に出て来た。



「お、お早う……。良かった、居たんだね」

「はい。染井君を待っていました」



 応じる彼女の様子からは、落胆や苛立ちといったネガティヴな感情は窺えない。

 初めて会った時の、オドオドとした怯えや緊張も見られない。



 校門を境界線にして、僕らは言葉を交わす。



「……見ての通り、また4月1日に戻っちゃったよ」

「そうですね。また今日に戻ってしまいました」



 あっけらかんとした態度で吉野さんが返す。



「吉野さんが勇気を出してくれたから、今度こそ2日に進めると思ってたのに……」



 期待と希望を抱いていた分、それが外れた時の落差で味わう痛みも増す。



「……一応訊くけど、吉野さんが拒否したって訳じゃないよね? 前回別れた後、やっぱり2日には進みたくない、ループが続いて欲しい、なんて心変わりしたとか……」

「いいえ。私はもう前のようには思っていません。このループが終わって欲しいと、4月2日が来て欲しいと望んでいます」



 疑われたことに気を悪くした風も無く、国語の教科書でも音読するかのように、声も態度も実に淡々としていた。

 辛い過去からの逃避、未来への恐怖を涙ながらに吐露していた前回までの彼女とは、まるで別人のようだ。



「……そう、だよね。ごめん、疑ったりして……」

「大丈夫です。気にしないで下さい」



 吉野さんが原因でなくて良かった、と安堵する一方で、彼女が原因であって欲しかった、という落胆も覚えずにはいられなかった。

 何せループの原因が、他に全く心当たりが無いのだから。



「吉野さんは? 原因に心当たりは無い? 何でもいいんだ。どんな些細なことでも……」



 縋り付くような僕の問いに、しかし彼女は首を横に振り、



「……いいえ。残念ながらありません」



 と、静かにあっさりと答えるばかり。

 望んでいた4月2日が訪れず、またしても1日が再開して手掛かりゼロだというのに、僕とは対照的に驚くほど落ち着いている。



「どうすればいいんだろう? これから……」



 僕らの行動範囲から離れた場所に、このループを望む人物が居るのだとしても、どうやってそれを見つけろというのか。

 無限に繰り返される今日の中、学校をサボッてたった二人であちこち駆け回り、異なる行動を取っている者を割り出すなど、どう考えても不可能──成功確率はゼロだ。



「染井君は、まだ諦めてはいないのですか? このループを終わらせることを」

「そりゃそうだよ。同じことの繰り返しなんて何の面白味も無い。それに……約束したからね」

「約束?」

「えっと……何があっても吉野さんを見捨てず味方で居る、進めなくなった時は背中を押す、友達として一緒に楽しい高校生活を送れるよう努力する、って。それを嘘にはできないよ」

「……っ」



 時が戻れば、それまでの出来事は全て虚構(ウソ)になる。

 捲ったカレンダーも、舞い落ちた花弁も、世界の全てが3月31日と4月1日の狭間の、ゼロの時点までリセットされる。



 それが、僕らが囚われているエイプリル・フールの円環(ゼロ)──『4月0日(エイプリル・ループ)』。



 しかし、戻らないもの──虚構(ウソ)にならないものもある。

 吉野さんと交わした言葉は、結んだ約束は、確かな「事実」として残る。

 僕らの中に、今もはっきりと。



「──なんて言ってはみたものの、ループを終わらせる当てが見つからない以上、嘘としてこのまま永遠に続いてしまいそうだけど……」



 と、苦笑いを浮かべると、彼女は少しだけ唇を緩め、



「それについては……また後で考えましょう。今は取り敢えず入学式に」

「わっ……」



 吉野さんは僕の手を取り、ぐいっと学校の敷地内へと引き寄せた。



 前回握手と指切りを交わした時も思ったが、女子の手は驚くほど華奢で、そして柔らかい。

 まるで桜の花弁のように。

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