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エイプリル・ループ ~僕と彼女の4月0日~  作者: 尾久沖ちひろ
ループ5 4月1日

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16/21

#16 「『運命』だって思ってます」

 僕らにとって、6回目となる今日の入学式。



「次、新入生代表、豊原伯雅(とよはらはくが)

「はい」



 僕か吉野さんが影響を及ぼさない限り、全ては狂い無く進行する。



「次、在校生代表。生徒会長、豊原宮子(とよはらみやこ)

「はい」



 代表たちが何を述べるか、校長や他の教師が次に何を言うか、僕と彼女だけは予言者のように全てを完全に把握している。

 目新しさの無い、行儀良く座ったまま耐えるだけの時間。



 ただし、それは前回までの話。

 これまでは気付かなかったのだが、僕と吉野さんは偶然にも同じ横列に配置されていたため、ほんの少し体を前に傾ければ、数席離れた彼女の姿を見られるのだ。



 彼女の様子を窺うことだけが、唯一の退屈凌ぎ。



 吉野さんの方も同じように気を紛らわせていたのか、時折こちらを見てきて、何度も眼が合った。

 友情の約束を結んだとは言え、式典の最中に、それも異性を何度もチラチラと見るなんて不躾(ぶしつけ)ではないか。



 悪印象を持たれていないか。

 嫌われていないか。

 周りからも落ち着きの無い奴と思われていないか。



 そんな風に考えながらも、開けっ放しになったスナック菓子の袋についつい手が伸びてしまうように、やめられない、止まらない。

 次も、更にその次も、彼女と視線が交わり、その度に顔を逸らし、それでもまた交わる。



 式典が終わっても、それは続いた。



織辺利恩(おりべリオン)です。宜しく」



 教室に移って、担任教師が挨拶する時も、クラスメイトたちが自己紹介する時も、まるで方位磁石のように、眼球は彼女の方ばかり指し示してしまう。



 そして僕の番。



染井春一(そめいはるかず)です。ええと、その──」



 吉野さんに視線を送ることにばかり意識が向いていて、台詞を考えるのをすっかり忘れていた。

 足りない脳を絞って言葉を捻り出しているまさにその間も、視線は彼女へ向いて──



「──こうして君と出会って同じクラスになれたこと、本気で『運命』だって思ってます」



 スルリ、と。

 余りにも自然に、それこそ息を吐くように、それは喉の奥から出てきた。



「………………………………………………………………あれ……?」



 ──静寂。



 世界が、時計の針が止まったと錯覚するような、耳が痛くなるほどの無音が、教室全体を包み込んだ。



 ……今、僕は一体何を口走った?

 日本のどこにでも居るような新高校生、ミスター平凡こと染井春一(そめいはるかず)らしからぬ言葉が、何の前触れも無く飛び出した。



 まるで僕の意識が一瞬飛んで、その瞬間に誰かが僕の口を乗っ取んて勝手に喋った、とでも理屈付けるしか無いような、それほどの違和感だ。



「……えっ? 何だ今の……」

「なあ、今の聞いたか?」

「染井、だったっけ? あいつ何て言ったんだ?」

「まるでドラマのワンシーンみたいなこと言ったぞ……」

「ああ、エイプリル・フールのネタか。下らねー」

「ねえねえ、もしかして今の、愛の告白だったり?」

「えっ、誰に? まさかあたしじゃないよね?」

「入学してすぐ? それもこんな場面で?」

「運命って、ポエマーかよ……プフッ」



 ざわざわ、ざわざわと、クラスメイトたちの囁き声が潮騒のように教室に満ち、様々な感情を乗せた視線の矢がズブズブと身に刺さる。

 ストンと脱力気味に着席した後も、それは続いた。



徳永晴蘭(とくながせいらん)です。まあ、仲良くして貰えると嬉しいかな」

徳永七香(とくながななか)です。そちらの晴蘭とは従姉妹同士なので、下の名で呼び分けて貰えると助かります」

豊原伯雅(とよはらはくが)です。先程の新入生代表の挨拶ですが、実は全部AIに書いて貰ったものです。──というのは嘘です。ちゃんと自分の頭で考えたからね?」



 その後もクラスメイトたちの自己紹介は滞り無く続いたが、四方八方から絶え間無く浴びせられる視線の痛さと、内から湧き上がる恥ずかしさの熱で、頭がどうにかなりそうだった。



「何であんなこと言ったんだろう……馬鹿なのか、僕は……? でも待てよ……」



 しかし、よくよく考えてみれば問題無いのではないか、と思い直した。

 ループの原因が分からない以上、どうせ結局無かったことになるのだから。



 エイプリル・ループは、起きた出来事全てを虚構(ウソ)にする。

 今回だけの辛抱だと思えば、ちょっとした青春の冒険、ノーダメージの人生経験となるのではと思えて、この感情の荒波も幾分収まった。



 明日が来ず今日が繰り返される以上、先程の恥ずかしい台詞は誰の記憶にも残らない。

 そう、彼女以外は。

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