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エイプリル・ループ ~僕と彼女の4月0日~  作者: 尾久沖ちひろ
ループ5 4月1日

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14/21

#14 「本当にごめん」

春一(はるかず)! 起きてるの!?」



 母さんの声と、ゴンゴンゴン、とドアノックの音が同時に不快に響く。



「春一、聞こえてるの?」



 声とノック音が先程よりも大きくなる。



「入るわよ。──って、起きてるんじゃない。だったら返事して早く下りて来なさい。今日は入学式でしょ? 遅刻なんてしたら一年間の恥よ」



 部屋に入って来た母が見たのは、佇む僕の姿。

 窓の外、晴れやかな朝空を呆然と見つめる後ろ姿だ。



 部屋を出て遠ざかる母の足音を、背中で聞き届ける。



「何で……どうして……」



 清々しい空と太陽の様子とは正反対に、僕の声と心は、降り出す直前の曇天だ。



 卓上の日捲りカレンダーが示す日付は──【3月31日】。



 昨日確かに捲ったはずなのに。

 それから一度も触っていないはずなのに。



 つまり今日は──



「くそっ……何でだ!? 吉野さんが原因じゃなかったのか……ッ!?」



 期待が外れたことへの怒りと絶望が、手を動かした。

 払い除けた日捲りカレンダーが、乾いた音を立てて床上に落ちる。



 今日は【4月1日】。

 新年度の到来を告げる、始まりの日。



 5回目のエイプリル・ループを経て迎えた、僕にとっては6回目となるエイプリル・フールだ。



 床上のカレンダーを置き去りにして、僕は部屋を後にした。

 暗く沈んだ気分のまま、とぼとぼと階段を下りてリビングへ。



 食卓には朝食。

 トーストと目玉焼き、それにサラダとヨーグルト。



 これで6回目、同一メニューの連続記録更新だ。

 例え大好物だったとしても、見るだけで食欲が失せるレベルだ。

 ましてこの愕然とした気分では、食欲どころか吐き気すら覚える。



「どうした。食べないのか?」



 卓に就きながら、朝食に手を伸ばす素振りが無い僕を(いぶか)しんで、向かいの祖父が首を傾げる。



「入学式だっていうのに随分と暗い顔だな」



 そりゃそうだ。

 今の僕が晴れやかな表情をしていると言う者が居たら、それは愚者か嘘吐きか、視覚障害者のどれかだ。



〈アメリカのニューマン大統領は──〉



 リモコンを引っ掴み、ニュースを流していたテレビの電源をプツンと切る。



「人は第一印象で大体が決まる。愛想良くしないと──」



 叩き付けるようにリモコンをテーブルに置き、祖父の言葉を遮って立ち上がる。



「うるさいな、毎朝毎朝同じことばかり! こっちはもう飽きてうんざりしてるんだよ! この朝食もお説教もッ!」



 と、ついカッとなって怒鳴ってしまった所で、ふと我に返る。



 家族は何も悪くないというのに。

 純粋に僕のことを心配してくれているというのに。



「ど、どうした春一……!?」

「何? 突然怒鳴り散らして、何かあったの……?」



 普段の僕からは掛け離れた様子を目の当たりにして、祖父が面食らっていた。

 ループの中に組み込まれている祖父や母からすれば、今の僕の言葉や態度は不可解そのものだ。



「……ご、ごめん。ちょっと、思い通りにならないことがあって……イライラしていた。本当にごめん。エイプリル・フールの冗談だとでも思って、忘れて欲しい……」



 冷えていく頭で謝罪と言い訳を絞り出し、大人しく卓に座り直す。

 いくら絶望しているからと言って、何も知らない家族に八つ当たりをするなんてどうかしている。

 思っている以上に精神的に参ってしまっていたことを自覚して、情けなさすら込み上げる。



「何か困っているのか? 話なら聞くぞ?」

「大丈夫。大丈夫、だから……」



 相談した所で信じて貰えるはずも無く、解決のヒントを出してくれるはずも無い。

 それができるのは、僕と同じ立場に居る者だけ──彼女だけだ。



「……行ってきます」



 食欲の代わりに罪悪感で朝食を平らげ、支度を整えて家を発った。

 学校に行って、今後の方針を練らなくてはならない。



 しかし、その前に──



「ようハルイチ!」



 すぐそこの曲がり角から、自転車に乗った三人組が現れた。



「……お早う」



 照沢雄人(てるさわゆうと)海野大吾(うんのだいご)浜田敦(はまだあつし)

 僕と共に、仲良し四人組で評判だった幼馴染みだ。



「ん……? ハルイチ、何か顔暗くないか?」



 僕の様子に気付いたのは雄人(ゆうと)



「何か嫌なことでもあったか?」

「まあちょっとね……」



 期待が外れてループが続く絶望感と、その苛立ちを家族にぶつけてしまった罪悪感。

 二つが重なった嫌な朝だ。



星皇(そっち)は、確か……今日が入学式だったっけ?」

今日も(・・・)、だけどね」

「えっ?」

「何でもない。そっちは……今日が始業式だったっけ? 羨ましいよ」



 星皇学院の始業式は明日──4月2日。

 今日を、4月1日を繰り返す内は僕に始業式は訪れず、目の前の三人もまた無自覚のまま始業式を繰り返す。



「──っと、急いでるんだった。悪いな」

「また今度一緒に遊ぼうな」

「ハルイチも頑張れよ」



 別れの挨拶を告げて、三人はペダルを漕ぎ出す。



「……一緒に遊べる時なんて……このままじゃ永遠に来ないよ……」



 駅の方角へ去る三つの背中を見送ってから、僕も自分の道を再び歩き始めた。



 早く彼女に会いたい。

 会わなくてはいけない。

 会って今後の方針を話し合わなくては。



 自然と足取りが速くなり、気付けば駆け出していた。

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