#13 「約束します」
「その……今の言葉は、本当ですか?」
「え?」
「ですから……私と……お、お友達に、なりたい、と……」
異性の友人はこれまで一人も居なかった。
どのように接して、どのような距離感を保っていけばいいか、まるで見当が付かない。
正直不安はあるが、吉野さんが抱えているものに比べれば何程のことも無い。
「勿論」
友情の証として手を差し出すと、
「では、約束して下さい。何があっても私を見捨てず味方で居てくれると。私がまた進めなくなった時は、背中を押してくれると」
今度は彼女の方から、小指を立てた左手を差し出された。
「約束します。吉野さんが楽しい高校生活を送れるよう、努力するよ」
右手で握手をしたまま、左手の小指を絡ませる。
指切り成立だ。
「嘘だったら、針千本飲ませますから。物理的に」
「えっ……!?」
思わず喉に手をやると、フフッという控え目ながら可愛らしい声が上がり、
「嘘です」
それが、彼女が見せてくれた初めての笑顔だった。
開けっ放しだった窓から香る風が吹き付け、春の花弁を僕らの教室へ届けてくれた。
時計の針は進み、教室に差し込む光がオレンジ色に変わる頃。
「おっと、もうこんな時間」
「そうですね。そろそろ帰りましょうか」
あれから二人で他愛無い話に興じた。
と言っても、ほとんどは僕の中学時代の話だった。
暗い中学時代を送ってきた吉野さんから、今後の参考にしたいとのことで教えて欲しいと言われ、語る内に熱が入り、つい時間を忘れてしまった。
互いの青春の差感じて気落ちしてしまうかも、と思ったが、彼女は熱心に耳を傾け、質問もしていた。
家族以外の異性と、こんなにも長く、そして夢中で話をしたのは初めてだ。
辛い思いをしてきた分、吉野さんには高校生活では過ぎるほどの幸せを感じて欲しい。
そうなるよう助けていくつもりだ。
「それじゃあ、また明日──4月2日の朝、この場所で」
「……はい、会いましょう。遅刻してはダメですよ?」
「勿論」
校門にて僕らは別れる。
再会の約束を交わして。
過去からの逃避も、未来への恐怖も、もう今の吉野さんには無い。
だから確信を持って言える。
「これが正真正銘、最後の4月1日になる」
今まで五回も同じ日を体験してあらゆる出来事に飽き飽きしていたというのに、いざ最後となると、どこか名残惜しさを覚えてしまうのは不思議なものだ。
しかし勿論、その名残惜しさ以上に、ようやくループから解放されるという安堵と、明日への待ち遠しさの方が何倍も強かった。
卓上の日捲りカレンダーに手を伸ばす。
毎朝、部屋を出る時に捲るのが日課のそれを、今ばかりは待ち切れず、つい先取りして捲ってしまった。
【1日】のカードを後ろへ追い遣れば、前面に出るのは【2日】。
友達とのキャンプやレジャーを前日に控えた、受験勉強に追われる前の充実した中学時代に戻ったように、期待に胸を膨らませながら早々に床に就いた。
明日は──4月2日はどんな一日になるのだろう。
そしてその先には、どんな未来が待っているのだろう。




