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エイプリル・ループ ~僕と彼女の4月0日~  作者: 尾久沖ちひろ
ループ4 4月1日

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11/21

#11 「思い出の無い三年間でした」

「どうしてこんなことが起きているのか、吉野さんは何か知っているのかな?」



 皆が帰った後の一年A組の教室で、僕は本題に入った。



 しかし、返ってきたのは期待していたような言葉ではなく、首を横に振る否定のみ。

 挙動がオドオドしていて、傍目には、まるで僕が尋問しているように見えるのではないだろうか。



「そうか……」



 失望を露わにする僕を励ますように、吉野さんは少し身を乗り出し、



「でも、この街の知り合いが言っていました。天園市は、昔から常識では説明が付かないような不思議なことが起きる土地だって。悪霊や妖怪を見たとか、誰も居ない場所で、突然物が動いたり、壊れたり、体を触られたという話も聞きました。今まで信じてはいませんでしたが……」

「ん~、そう言えば僕もそんな話聞いた気がするな。オカルトや怪奇現象とは違うけど、お爺ちゃんも、まさにこの学校の卒業式の前日に、クラスメイトが行方不明になったって言ってた」



 これらはまだ現実味のある話だが、しかし同じ日が何度も繰り返されるなど流石に常軌を逸している。

 まさか悪霊や妖怪の仕業、エイプリル・フールならではの悪ふざけだとでも言うのか。



「疑問はまだある。どうして僕と吉野さんだけが、これを認識できているのかな? 他に認識していそうな人に心当たりは?」

「い、いえ、染井君だけです」

「やっぱりか……」



 やはり、外れているのは僕ら二人だけ。



 物事には全て理由がある。

 僕ら二人だけが例外になっているということは、ループの原因もそこにあるということなのだろうか。



「あの……私からも、訊いていいでしょうか?」

「勿論。僕ばかり質問するのはフェアじゃないからね。何?」



「染井君は……終わらせたいと思っているんですか? この4月1日の連続を……」

「そりゃそうだよ。望んでもいないのに同じ日が繰り返されるなんて、終わって欲しいに決まってるよ。これが友達と楽しく過ごす、夏休みのループとかだったら良かったよ? でも吉野さんも体験しただろうけど、食事は毎回同じで飽きるし、校長とか代表生徒とかの長話を背筋伸ばしてじっと耐えるだけの時間を何度も何度も体験して、まだ(ろく)に知らないクラスメイトの同じ自己紹介ばかり聞かされて、もう疲れたよ。ずっと同じ景色だけが続く日々なんて、優しい苦行、緩やかな拷問さ」



 だからこそ、色々と試してみたのだが、結果は見ての通り。

 吉野さんならば何かヒントを知っているかと期待したのだが、手掛かりはゼロ、これでは次の手が思い付かない。



「友達と過ごす──染井君は楽しかったんですか? 中学時代……」

「まあね。僕は中等部からの内部進学。でも、昔から仲良かった三人の友達は受験に落ちて別の高校に行っちゃってさ。楽しかった分、今はちょっと寂しいかな……」



 充実していた時期は過ぎてしまった。

 このループが続いている内はあの時間と場所で確実に会えるものの、ループが終われば、あの三人全員と一堂に会する機会はいつになるのやら。



「私は……楽しいと思ったことはありませんでした」

「えっ?」



 大人しかった吉野さんの声に、暗い雰囲気が滲む。



「ずっと東北地方で暮らしていました。でも……中学を卒業したら、進学先は地元から離れた場所にしようと決めていました」

「……何か嫌なことでもあったの? 地元に居たくなかった──居られなかった出来事……ひょっとして、いじめ、とか……?」



 失礼かも知れないと思いながらもおずおずと質問してみると、吉野さんは黙って、重々しい動作で首肯(しゅこう)した。



「……入学式の翌日から、でした。私なんかとは違って、頭も顔も良くて、お喋りが上手な人でした。ちょっとした口喧嘩から始まって、先生やクラスメイトに私のことを悪く吹き込んで……一ヶ月が経つ頃には、誰も私に寄り付かなくなっていました」



 人は第一印象で大体が決まる。

 入学直後の段階で優等生によって悪印象を着せられ、それが油汚れのように周囲の意識にこびり付いてしてしまえば、一発逆転の汚名返上は難しくなる。



「不登校の期間もありました。でも、両親は優秀な兄ばかり構って、私のことは真剣に考えてくれなくて……先生に相談しても、まともに相手にしてくれなくて……出口の無いトンネルを延々と進んでいるような気分でした。でも黙って耐えていれば、遊べない分勉強を頑張っていれば、嫌がらせと無視のループが終わって、トンネルを抜けた先に明るい青春が来ると期待して……それが私の、思い出の無い三年間でした」



 ポロポロと零れる雫が、スカートの上で握り締めた両の拳を濡らしていた。

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