#10 「今日は何回目?」
「居ない……」
ハラリハラリと舞う桜の花弁が、僕の肩にそっと乗る。
校門とその道中に植えられた桜の木々は、当然ながら「九分咲き」。
「みんな、もうちょっと寄ってね~」
「だってさ。オリオン、もっと真ん中に寄ってよ。僕が見切れちゃう」
「やめろ伯雅、そんなに強く押すな……」
「ほらほら七香も。もうちょっとオリオンの方に詰めなさいって」
「ちょ、ちょっと晴蘭……!」
「フフッ、良い感じよ。じゃあ撮るわね~」
記念撮影をしている四人の生徒──間も無く僕のクラスメイトになる者たち。
そして、スマートフォンを向ける美人ママ。
目当ての彼女の姿は──校門のどこにも見当たらない。
「これで決まりだ。僕が影響を与えていないのに、吉野さんはループ前と違う行動を取っている」
ループの法則から外れた人物が、僕の他にもう一人。
もしかしたら他にもまだ居るのかも知れないが、少なくとも僕の身近では彼女以外に確認できない。
「確かめてみよう。何か知っているのかも知れない」
今、彼女がどこに居るのかは分からない。
既に一年A組の教室で入学式を待っているのか、それともまだ登校前なのか。
或いは──今回は登校する気自体が無いのか。
「せっかくですから、五人一緒に映ってはどうですか?」
「いいわね。じゃあ、お言葉に甘えてもいいかしら」
勿論、今回も記念撮影を申し出て美人ママと接触しておく。
何度も繰り返されて飽き飽きするループに於ける、唯一の癒しだ。
入学式には出る。
サボッても無意味だということは前回証明済みだ。
そして──吉野さんの姿を確認した。
誰にも邪魔されず、彼女と接触できる最善のタイミングは、全ての予定が終わって解散、全員が帰り出す頃。
そのための布石を自己紹介の場で打っておく。
「染井春一です。今日、4月1日の入学式は『五回目』です。この意味が分かる人とお話ししたいです。最初に出会った場所で待ってます。宜しくお願いします」
当然ながらクラスメイトたち、そして居並ぶ父兄たちも、何言ってるんだあいつ、意味不明、とばかりに首を傾げ、表情を微妙に崩していた。
一人だけ──予想通り、明らかに異なる反応を示した者が居た。
やはり、彼女だけはこのメッセージの意味を理解したようだ。
全ての予定が終了、全員が解散し、多くの者は帰宅を開始する。
「じゃあ母さん、先に帰っててよ」
「あまり遅くならないようにね」
これまでは母と共に帰宅していたが、今日は大事な待ち合わせがある。
メッセージを理解してくれたとは言え、彼女が本当に来てくれるかどうかは分からないが、来なかったら次の4月1日で、こちらから攻めていくつもりだ。
そして、彼女と最初に出会った場所──校門で待機。
「いやー、代表の挨拶は緊張したな~」
「全然そんな風には見えなかったがな。で、あれ本当にAIで作ったのか?」
「嫌だなぁ。ちゃんと自分の頭で考えた、エイプリル・フールのネタだって言ったじゃないか」
「あれ、優莉奈さんは?」
「何か先生と話があるんだってさ。気にせず先に帰って、って言ってたわ」
佇む僕のすぐ近くを、新入生とその父兄たちが続々と通り過ぎ、それぞれの帰るべき場所へと向かって行く。
まだかな、何をやっているんだろう、親と話しているのか、別の門から帰ってしまったか、などと頭の中で様々なことが巡りながらも、じっと待ち続ける。
実際に経過した時間はそれほどではなくとも、体感では妙に長く感じられてしまう。
そして、ようやくその時が来た。
「あ、あの……」
掛けられる小さな声。
眼鏡越しに僕を見つめる瞳には、不安と緊張の色が窺える。
待ち合わせの相手、吉野仁香がそこに居た。
親は先に帰ったのか、彼女一人だけだ。
「良かった、来てくれたんだ。ありがとう」
僕の感謝に、彼女は言葉を発さず一礼で応じた。
やはりお喋りは苦手なようだ。
僕も人見知りする方だから得意とは言えないのだが、僕以上に苦手意識を持っているようだ。
「じゃあ吉野さん、早速訊くけど……今日は何回目?」
こうして待ち合わせに応じて僕の元まで来てくれたのだから、この問いの意味は間違い無く伝わっている。
「ご、五回目、です。染井君と同じ……四回、戻りました」
指を立てて、彼女が答えてくれた。
ここまでの言動を見れば明らかだったが、言葉にしてくれたことで完全に確定した。
彼女は僕と同じ、ループの法則から外れた存在。
やっと真実を話せる相手と接触できた。
「取り敢えず中で話そうか。いい?」
春とは言え、屋外はまだ少し肌寒さが残る。




