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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
3章

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49節 手合わせ(後編)

『焔転』


 焔転で距離を詰めて背後を取る。

 だが、またしてもタイミングを合わせられ、剣が迫りくる。


 俺はそれを間一髪で避ける。

 剣先が頬を掠め、血が流れる。


「その技、炎から出てくる時に空気の起こりがあるよ。

 感覚が鋭い人ならすぐ分かるから気をつけたほうが良いかな。」


 一回見ただけで焔転の弱点に気付きやがった。

 何回も見た俺でも気付いたのは最近だっていうのに。


「ご忠告どうも。

 だが生憎、この技くらいしか使い方を知らねぇんだ。」


「それ…言っていいの?」


 俺は頷く。


 良くはないが、コイツならば俺の手の内がこれしか無いことにすぐ気付くはずだ。

 知られるのがちょっと早まっただけだ。


「…ところで、どうしてその炎で俺を直接攻撃しないの?」


「……は?そんなの危険だからに決まってるだろ。

 寸止めとか出来ないし。」


 俺の言葉に青年は笑いながら言った。


「大丈夫だよ!俺、当たらないし!良いよ、じゃんじゃん撃って!」


「そういう問題じゃない。」


「じゃあどういう問題?」


『炎葬』はこの辺一帯まで吹き飛ばしかねない。

 俺にそこまでの火力調節は難しい。

 それに、いくら強いからとはいえ味方に炎を放ちたくない。


 でも、それを言ったところでコイツのことだ、「え?なんで?君なら出来るでしょ?」とか根拠の無い言葉が返ってくるだけだ。

 悩みに悩み抜いた末、出てきた答えは……。


「俺は!俺が正しいと思った事しかしたくないの!」


 子どもの我儘みたいな言い分になった。


 すると、青年は顔を俯かせ、プルプルと震える。


「……なんだよ?」


「いや、何でも……早く戦いを続けよう!」


 奴は半身になって剣先を俺の喉元に向ける。

 なにか仕掛けてくるつもりだ。


 その場で剣を振り上げる。

 俺との距離は5m程。普通に考えれば当たらない。

 だが、嫌な予感がする。

 距離を取るため俺は後ろに跳ぶ。

 ……そう、俺は後ろに跳んだはずだ。


 なのに――身体は前に向かっていた。

 正確に言えば、前に引き寄せられていた。


「なっ…!?」


 これは能力だ。

 コイツの神器は――。


「重力か……!!」


蛮勇引力ばんゆういんりょく


 俺は焔転で回避するために炎を放つ。

 しかし、後ろに放ったはずの炎が奴へ吸い寄せられていく。

 これでは焔転で逃れるどころか、わざわざ奴の間合いへ飛び込んでしまう。


「クソッ……!」


 打つ手を失った俺は賭けに出ることにした。

 ぶっつけ本番だが、やるしかない。


『焔転』


「またそれ?さっきの弓の人と同じだよ。」


 ワンパターン。

 そう言いたいのだろうが、そんなの百も承知だ。


 奴に接近するまで1秒にも満たない瞬間的時間。

 それまでに俺は、エンジが見せたアレを使う。


 ほんの少しでいい、ほんの少しでいいから――炎よ、動いてくれ!


「そこだ!」


 黄金剣が炎を切り裂く。

 降り掛かった火の粉は払われ、そこに俺は……いない。


「ウラァ!!」


 払った炎の中から俺は姿を現し、顔面を狙って左ストレートを放つ。

 奴は俺が遅れて出てきた事に驚き、反撃の剣速が落ちる。

 今が絶好のチャンスだ。


 しかし、当たる寸前に頭だけを動かし回避される。俺の拳は頬に掠っただけだった。


 追撃も虚しく、平静を取り戻した奴の剣を捌ききれず、ジェット噴射で緊急回避する。


「だぁ〜!クソ〜〜!!あと少しだったのに……!!」


「…………今の、凄いな!完全に騙されたよ!

 空気の起こりを逆に利用するなんて!」


 興奮気味に俺の作戦を褒める青年。

 自分がピンチだったのに相手を称賛するなんて本当に気の良い奴だ。


「さあ!続きだ!もっと俺を楽しませてよ!」


「あ…。」


「どうしたの!ほら!もっと戦ろうよ!!余所見してると危な――あ、あ…。」


 俺達は硬直した。

 青年の背後に夜叉が立っていたからだ。


「や、夜千代さん……。」


 鋭い眼差しで見下ろす夜千代が無言で青年の頭を鷲掴みにする。


「痛で!痛でででで!?

 す、すみません!!許してください!!」


 青年が必死に謝るも聞く耳を持たず、鷲掴みにしたまま俺の方に歩みを進める。


「ま、待て!俺はソイツに無理矢理付き合わされただけで…!だからこれは不可抗力っつーか…!

 は、話せば分かる!落ち着いて――ぐわーっ!!?」


 俺達は夜千代のアイアンクローにより撃沈。

 どうやら派手にやり過ぎて周りにも被害が及んでいたらしく、たまたま室内訓練場にいた夜千代が、加賀さんの命令で仲裁に入ったようだ。

 結局、勝負は有耶無耶になり、気付いたら青年はいなくなっていた。

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