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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
3章

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48節 手合わせ

 気付けば俺は牢屋の台座の前に立っていた。

 どうやら元の世界に戻ったみたいだ。


「おかえり、無事に契約は完了したようだね。」


 加賀さんが俺の右手に目を向ける。

 そこには黒色の噴射器が淡い光を放っていた。


「……加賀さん。」


 俺の顔を見て加賀さんはフッと吐息を溢す。


「修練場なら屋敷を出て離れにあるよ。」


「え、どうして分かったんですか?」


 俺が求めていたのは正に身体を動かせる場所だった。


「そんなキラキラした目で見られたら大体察しはつくよ。試してみたいんだろう?」


「はい、ありがとうございます!」



 ―――



『修練場』


 加賀さんと一緒に修練場を訪れる。

 大きな平屋とグラウンド。

 どうやら修練場は屋内と野外があるみたいだ。

 うちの大学の体育館とグラウンドより何倍もデカい。


 屋内修練場は開放された引き戸から中の様子が見え、自主練に励む者、教官のような人にしごかれている者、隅で休憩がてら雑談に花を咲かせる者と、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。

 わらで作られたカカシに木製の剣や槍など、様々な武器が並んでおり、基礎訓練用といった感じだ。


 野外修練場は白線で引かれたコートが四分割されていた。

 しかし、どのコートも先客がおり、すぐに試すのは難しそうだった。


「仕方ない、少し待とうか。」


 加賀さんの言葉に俺は頷いて近くにあった長椅子に座り、修練の様子を眺める。

 ここでは当たり前のように神器を使った試合が行われていた。

 目新しいものが多く見ていて飽きない。


「あれ、加賀さん!?こんな所に来るなんて珍しいですね!!」


 突如、横に座っていた筋肉質のおじさんが加賀さんに声を掛ける。

 いかにも体育会系という感じだ。


 加賀さんはその人に事情を説明した後、俺を紹介する。

 俺が軽い会釈をすると、「よろしくなっ!!」と快活な声で返ってきた。


 その後、加賀さんと元気なおじさんは世間話を始めたので俺は再び修練を眺める。


 目の前には弓を持った長身の男と大槌を担ぐ太った男が戦っていた。

 戦いの様子をボーッと眺めていると。


「ねぇ。」


 突然、声を掛けられた。

 いつの間にか隣に同年代くらいの青年が腰掛けていた。


「あの二人、どっちが勝つと思う?」


「……へ?あの弓とハンマーの奴ら?」


 俺がそう尋ねると爽やかな笑顔で頷く。

 いきなり話しかけられて少し動揺したが、不思議と俺は友達のように自然体で接していた。

 初対面のはずなのに妙な親しみやすさがあった。


「あー……ハンマーの人かな。」


「へぇー!どうして?

 弓のほうが有利じゃない?」


「えーっと……意外とハンマーの人の身のこなしが良いんだよな。矢を的確に叩き潰してる。逆に弓の人がさっきから同じとこにしか矢を射たないから、ワンパターンっつーか……。

 だからそこだけ注意してればハンマーが勝てんじゃね?」


 もちろん罠の可能性もあるけど、弓の男の余裕の無い表情がそれはない事を物語っていた。

 多分、弓の能力は『自動追尾』、ハンマーのほうは『高速打ち』とかそのあたりではないだろうか。


「……あ!見て!」


 そうこうしている内に決着がついたようだ。

 結果は――予想通り、ハンマーの勝ち。


「おぉー!すごいなぁ!君の言った通りだ。

 よく視てるね!」


「まぁ、それほどでも……ありますけどねぇ!ガハハハー!」


 おいおい、何だこの気持ちの良い奴は。

 こんな奴が盗賊団にいたなんて…まだまだ捨てたもんじゃないな。


「ほらコート空いたよ、行こう!」


「えっ?おい!?」


 ソイツは俺の手を引き、コートまで連れてくる。

 そして、ポケットから何かを取り出したかと思えば、それは淡い光を放ち、豪華絢爛な黄金剣へと姿を変えた。


「手合わせ!!やるでしょ?」


「いきなりだな!?

 でも、良いぜ!受けて立つ!」



 ―――



 奴の神器は西洋でよくある、柄が左右に伸びた十字型の剣。

 刀身の長さは腰から足首まで。

 約90センチ前後。


 後は能力だが…それは戦いながら把握するしか無い。


「勝敗はどうする?」


 俺が尋ねると奴は首を傾げ考える。


「そうだなぁ……負けを認める、致命箇所の寸止めとかでどうだろう?」


「オッケー、それでいこう。」


 俺はライターを取り出し、神器解放する。


「うわ!何それ!?カッコいい!

 サイコガンだ!」


「サイコガン?

 …まぁ褒め言葉として受け取っておくわ。」


 右手の放射器に意識を集中する。


 ……。

 …………。

 ………………。


(反応無し、か。)


 ツバキのように呼び掛けても返事はこなかった。

 そもそも、神器の声を聴けるだけでも相当珍しいみたいなのでこれが普通なのかもしれない。


 気を取り直して一度深呼吸し、構える。


 一方、向こうは直立で構える素振りは無い。

 余裕。という訳ではない。

 アレがアイツの構えなんだ。

 妙な威圧感さえ感じる。


 俺は空に向かって特大の炎を放つ。

 俺なりの開戦の合図だ。


 すぐに噴射口を地面に向け、扇状に炎を放つ。

 コート内は砂しかないのですぐに炎は消えてしまうが、一瞬でも炎の道が作られる。

 それで充分だ。


『焔転』


 俺の身体は炎と化し、奴の背後に回ることに成功する。

 まずは、軽く一発小突くくらいにしよう。

 そう考えていると――。


 ――ビュン!!


「うおおおっ!!?」


 鼻先スレスレに剣が横切る。

 奴は振り向き、剣を薙いでいた。

 咄嗟に仰け反らなかったら首が胴体とおさらばするところだった。


「馬鹿野郎!?何が寸止めだ!

 思いっ切り振り抜いてんじゃねぇか!!?」


「……?君ならこれくらい避けられるでしょ?」


「なにを根拠に!?」


 奴はとぼけた表情を見せる。

 本当に何を言っているのか分からないという顔だ。


 分かった。コイツ、天才タイプだ。

 自分の理屈を他の人も当然のように理解していると勘違いしている。

 昔、この手のタイプに会った事があるが、こんな感じの反応だった。


 変な奴ではあるが、コイツはかなり強い。

 初見で焔転を見切られたのは初めてだ。


「今度はこっちの番だ!」


 剣を片手で持ち、下から剣を振り上げる。

 動きはかなり速いが、目で追えないほどではない。

 月ヶ瀬の神器を使っていたおかげか、以前よりも動体視力が上がった気がする。

 軌道を予測し、最小限の動きで避ける。


 剣は頭上へ空振る。

 今なら身体がガラ空きだ。

 カウンターで腹に拳を振るおうとしたその時。


(……何か、ヤバい!!)


 上からとんでもないプレッシャーを感じ、炎のジェット噴射で左方に緊急回避する。


 その直後、突風が吹き荒れた。


「今のよく避けたね。

 大体みんな引っ掛かるんだけど。」


(今のは…何だ?)


 さっきまで俺がいた位置に剣が振り下ろされていた。

 あの一瞬で切り返した?

 だとしたら余りにも速過ぎる。

 下手すれば幻神隊の女隊長レベルだ。

 盗賊団の一団員が戦闘部隊の隊長と同レベルだって?


「冗談だろ……。」


「ほら、かかっておいでよ。

 その神器の力試しするんでしょ?」


 その上、話してもないこっちの事情を知っている。

 天才通り越して、コイツは不気味だ。


「お前…何者だ?」


 俺の問いに奴は可笑しそうに笑う。


「何、その質問〜!

 俺が何者かなんて今聞く?」


「いいから、教えてくれ。」


 少し苛立ちながら再度問い掛けると、奴は少し考えた後に…。


「――じゃあ、俺に勝ったら教える…でどう?」


 俺を見下すように挑発的なニヤケ面を浮かべた。


「そうかよ…!

 絶対負かしてやる…!!」

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