47節 二つ目の神器
「……ックック…!威勢が良いな。そんなに俺と戦りたかったか?」
「な訳あるか。
ていうかそっちこそ、俺と戦いたいだなんて敵討ちのつもりかよ?」
「……ックック……そうだ。
やられっぱなしじゃ悔いが残るからなぁ。」
「殊勝な心掛けだな。
きっとあの世で主人が泣いてるぞ。」
俺は先制攻撃を仕掛けようと話を続けながらジリジリと距離を詰める。
もう既に戦いは始まっている。
「善治はそんな人情味溢れる人間じゃなかったぜ。悔いがあるのは俺の方だ。」
「そうなのか、意外だな。
お前も悔しいって思うのか。」
「まぁな。俺に勝てると勘違いしているお前に理解らせてやりたくてな。」
「ふ〜ん……。やれるもんならやってみろ、よ!!」
俺は挨拶代わりの前蹴りを顔面めがけて繰り出す。
腰が曲がっている奴は丁度いい位置に顔があるので、とても蹴りやすい。
しかし、そう来ると分かっていたのか奴は一瞬にして炎となり、辺り一面を火種で満たす。
「焔転か。」
こうなる前にとっととケリをつけたかったが、仕方ない、切り替えていこう。
俺は撒き散らされた炎の中心に入っていく。
精神世界でも痛覚はあるようで少しずつ身体が焼ける感覚があった。
それでも構わない。感覚を研ぎ澄まし、奴が現れるその瞬間を待つ。
炎となった奴を捉えるのは至難の業だ。
だけど――。
「そこだっ!」
「……!」
炎の揺らぎ。
焔転を解除した時に炎が不自然に揺らぐ。
それが奴の居場所を教えてくれた。
俺は右フックを入れ、そのまま回転して後ろ向きで蹴り上げる。
蹴りは腕で防がれたが、俺の目的は攻撃ではない。その衝撃により宙に上げる事が重要なのだ。
焔転の弱点は空中。
輝龍との戦闘経験が活きた。
これで焔転は潰した。
だが、そこで油断してはいけない。
焔転は出来なくとも、炎の噴射は可能だ。
反撃される前にこっちから追撃する。
俺は跳び上がろうと脚に力を入れる。
しかし――。
「なっ……!?火が…巻き付いて――!?」
炎がヘビのようにうねり、足首に巻き付いていた。
拘束する炎。
こんな隠し玉があったなんて聞いてない。
身動きが取れなくなった俺は奴を見上げる。
キィィ…と小さな駆動音が聞こえ、偽善治の右腕に装着された放射器から今にも発射されようとしていた。
「ウェルダン一丁。」
そう言った奴の憎たらしい笑みを最後に俺は一面真っ赤な光に包まれた。
―――
「…………もう一回戦わせてくれ。」
「……ックック。その黒焦げの身体でか?」
「……クッソ〜!!」
完全にやられた。
全身に炎を浴びた俺は、身体が炭化して動けなくなった。
それでも生きていられるのは、精神世界で負ったダメージが現実の肉体には及ばないからだろう。多分。
「あの炎、何だよ…!初見殺しじゃねーか!」
俺の隣で片膝を上げて腰掛ける偽善治は不気味な笑いを上げる。
「……ックック……!これで理解っただろう?
俺の本当の力。今見せたのはほんの一端に過ぎないぜ。」
「それ輝龍の時に教えてくれよ。」
「クク……教えてすぐ出来るような代物じゃない。こいつはエンソウ……まぁ、また後で教えてやるよ。」
偽善治は仰向けの俺に右手を差し出す。
「手ェ出しな。」
「いや、俺今動けないから……。」
それを聞いた奴は面倒そうに溜息を吐き、俺の右手を握った。
その瞬間、俺達の手から淡い光が溢れる。
「俺を使うのなら、名前だ。
俺に名前を付けろ。」
「名前…?お前無いの?」
てっきり善治に付けてもらってると思っていた。
「必要なのは"主からの名付け"だ。
早くしろ。もうじきここも閉じる。」
「急かすなよ…。えっと……お前の名前は――」
偽善治、ライター、炎……炎善治……。
「エンジ。」
善を炎に変えただけだが…どうだ?
ツバキみたいに拒否されないだろうか?
「安直だな。だが、ックック……悪くない。」
「よし、決まりだ!」
手を覆う程だった光が強くなり、目の前の男のシルエットのみが視界に残る。
「そろそろ時間だ。」
どうやら残された時間は僅かのようだ。
なら最後に言っておきたい事がある。
どう言おうか悩み、言葉が詰まる。
ええい、ままよ!
「その……あ、ありがとう。
これから宜しく……。」
自分で言っててアレだが、すごく恥ずかしい。
光が強くて良かった。
きっと今の俺は酷い顔をしているに違いない。
光に包まれ、意識が完全に遠のく直前、アイツの笑い声が俺の耳へと届く。
だが、その声はいつもの不気味な声よりも、ほんの少し柔らかで温かみのある声に聞こえた。




