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エボシオリ  作者: 緑兵 鍊
3章

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46節 保管庫

(俺が弟子?)


「イヤイヤイヤ!そんな急に!?」


「ま〜ま〜落ち着いて。」


 両手を前に出して俺をなだめるケイさん。

 盗賊団の最高戦力である武人から勧誘されるとは思わなかった。


「す、すいません。…でも、なんで俺を?」


「しぶとそうだから」


「し、しぶと……。」


 捉えようによっては悪口だよな、これ。


「あっしなら君の弱点、克服させることが出来るよ。

 …どうだい?やってみる?」


「……。」


 弟子入りするという事は、長い間家を空けるという事になる。

 学業もおろそかになるし、何よりも母さんに心配をかけてしまうだろう。


 だが、今は強くならなきゃいけない。

 そのためには、こんなチャンス逃す手はない。


「やります。」


「おお〜こんな快く受けてくれるとは…嬉しい限りだ。」


 ケイさんは賛辞さんじの言葉を贈ると、今後の事について話し始める。


 俺は一度家に戻りたい事を話すとそれを了承し、その後に弟子入りする流れになった。


(待ってろよ、ツバキ…!必ず取り戻してやるからな。)


 ―――



『保管庫』


 ケイさんに教えてもらった場所はアジトの地下。

 最低限の照明で照らされた薄暗い廊下を進んで行く。

 石造りの廊下には俺の靴の音がメトロノームのように一定のリズムで反響していた。


 代わり映えのしない廊下で、先に進んでいるのか不安だったが、案外すぐに終わりが訪れる。


 黒鉄くろがねの檻だ。

 廊下とその先に見える大部屋を隔てるように設置された檻。


 ――境界線。


 この先は危険だと知らせる目印サイン

 あの世とこの世の境い目、三途の川のような。


 何となくそんな印象を受けた。


「……来たね。」


「加賀さん。」


 壁にもたれて待ち受けていた加賀さんが俺と相対する。


「ここ……何なんですか?」


「ここは昔牢獄だったんだ。

 それを保管庫として再利用したんだよ。」


 そう言われれば、この奇妙な感覚も殺風景な内装に無骨な檻があることも納得できる。

 しかしこんな曰く付きな場所を保管庫に……。

 この中に入れた物はもれなく呪物化しそうだ。


 檻の中に入り、辺りを見渡す。

 元牢獄だからか等間隔に牢屋が並んでいた。

 扉のプレートには『植物』、『鉱石』など種別ごとに仕分けられていた。


(『素材』、『なまくら』、『ゴミ』……変な物まで置いてるんだな。)


 加賀さんの後を追い、奥へ進むとプレートの表記が変わる。

 ある扉は『★★』、その隣は『★★★』、反対側の扉には『☆☆☆』と星の数が同じでも色が違う。


(あの星は何だ?)


 俺が牢屋の中に気を取られていると、前にいた加賀さんの背中にぶつかる。

 余所見をしていて立ち止まった事に気が付かなかった。


「…っ、すいません…!周りに気ィ取られてて――」


「ここだよ。」


 俺の弁解を遮り、前を見据える加賀さん。

 その視線の先には、『★★★★★★★★★』のプレートがついた牢屋。


 赤い星が九つ。


 星が何を表しているのか分かっていないが、多ければ多いほど凄いものという認識で良いんだろう。


 加賀さんが牢屋の扉を開ける。

 部屋の中は、中央に台座がポツンと置いてあるだけだった。

 そして、その台座の上には――。


「ここに居たのか。」


 椿の枝花が装飾された黒のライターが横たわっていた。


「彼の神器は君から預かった後、ずっとここに保管していたんだ。

 もちろん、誰も触っていない。」


 そうだ。あの時確かに加賀さんにライターを渡した。そして、あれから誰も持ち出していないという。


 なのに。


「なのに、俺の元に神器解放状態で顕れた。」


「そんな話は初めてだよ。

 それに、この紋様…。まるで君の神器、ツバキちゃんみたいじゃないかい?」


 それは俺も感じていた。

 この赤緑の色合い、ツバキにそっくりなのだ。

 しかし、ツバキと善治は何の関連もない。


「俺はね、君の神器がえにしを繋げてくれたんだと思うよ。」


「縁?」


「君が輝龍という男にやられかけた時、善治の事が頭によぎったと言っていたね?

 その時、ふと願ったんじゃないかい?『善治ヤツの神器があれば』と。」


「……!」


「君の神器はその願いを基に善治の神器を喚び寄せた。その呼びかけに応じた際にその紋様が刻まれた…。

 どうかな?これなら辻褄が合うと思うんだけども。」


 その可能性は十分にある。

 偽善治の『喚んだ』発言も俺ではなくツバキに対して言っていたのだろう。

 だが、奴は何故俺達の呼びかけに応じたのか。

 そこだけが分からない。


 その事を加賀さんに伝えると難しい顔を浮かべる。そして小さく首を振った。


「いくつか予想はあるけど…真意は、君が聞いてみるといい。」


 加賀さんの目がスッ…と俺から逸れる。

 その方向はライターの神器に向けていた。


「……分かりました。」


 俺は台座の前に立ち、ライターを見つめる。

 その時、椿の紋様がほんの一瞬だけ光を帯びた。コイツも話したいことがあるらしい。


 覚悟を決めて手を伸ばす。

 その手がライターに触れた時、俺の意識はまたあの空間に飛ばされた。



 ―――



「よぉ。生きてたみたいで何よりだなぁ。」


「ああ、おかげさまでな。」


 何も無い白い空間に善治の姿を借りた神器が立っている。


「いい加減、その姿やめられねぇの?」


「言っただろ、お前次第だって。」


 やっぱり覚えている。

 神津島こうずしまで喚んだのはコイツ自身で間違いないようだ。


「……今日は話をしに来た。」


 俺の言葉に偽善治は目を丸くし、不気味な笑みを浮かべる。


「…へぇ。話してみろよ。」


 俺はこれまでの経緯を説明した。


 第一戦闘部隊隊長に負けた事。

 ツバキを奪われた事。

 そして、ツバキ奪還のために力が要る事。


「……だから……お前の力を借りたくて――」


「いいぜ。」


「……はっ?」


ライターの神器()の力を使いたいんだろ?いいぜ、協力してやる。」


 俺からの提案を待っていたかのように話が早い。いや、あまりにも早過ぎる。


「……条件は何だ?」


「……ックック…!よく分かってるじゃないか!…ああ、そうだ!1つだけ条件がある。」


 案の定だ。

 俺は奴を睨む。

 放火したいなんて言った日にはコイツを殴り飛ばしてやる。


「……ックック…そう睨むな…!お前にとっても簡単な要求の筈だ。」


「何だよ。」


「俺と戦え。」


「……何だよ、それ。

 ――物凄く簡単じゃねぇか…!」




 ―――――――

 豆知識


 ・保管庫の星が描かれた部屋には神器が保管されている。


 ・星の数は神器の有用性や力の強さで決められている。


 星1〜3

 特に特殊能力を持たない、または限定的なもの

 身体能力の向上もほぼ無い

 現在保管中の神器のほとんどがこの中に分類される


 星4〜6

 一般的な強さを持つ

 特殊能力は人類の叡智を結集させれば模倣出来る範囲に留まる


 星7〜10

 一つで軍隊壊滅級の力を持つ

 科学では解明できない人智を超えた能力が分類される


 ・星の色は神器の持つ能力別に振り分けている


 赤=DANGER(危険)

 緑=SAFETY(安全)

 黄=UNKNOWN(不明)


 ※神器の振り分けについてはあやし黒龍斎(こくりゅうさい)が行なっているため、彼の独断と偏見である。


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