【8】
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
* * *
同じ頃、冒険者ギルドの薄暗い片隅に、もう一人の『最弱』がいた。
身の丈に合わない大きな杖を抱え込むようにして座る、魔法使いの少女。彼女もまた、ギルドのどこのパーティーからもつまみ出され、居場所を失った「役立たず」だった。
魔法の知識はある。魔力量も決して少なくない。
だが、いざ薄暗いダンジョンに入り、魔物の咆哮や生々しい血の匂いに当てられると、彼女は極度の恐怖で完全に身体がすくんでしまうのだ。
頭が真っ白になり、舌がもつれ、簡単な初級魔法の詠唱すら飛んでしまう。
『いざって時に固まりやがって!』
『お前みたいな案山子を守りながら戦えるか! 二度とついてくるな!』
幾度となく浴びせられた罵声と拒絶。
戦いの恐怖と、足手まといになることへのプレッシャーに押し潰された彼女は、すっかり自信を失い、ギルドの隅で一人膝を抱える日々を送っていた。
そんな彼女の視線の先には、最近、決まって一人の剣士の姿があった。
万年ソロの最弱剣士。ギルドの誰もが嘲笑し、彼女と同じように「底辺」と見下されている男。
しかし、数日前に死に損ないのような重傷を負って帰還して以来、彼の纏う空気が劇的に変わっていた。
毎日毎日、彼は一人でダンジョンへ向かう。そして、服を血に染め、新しい掠り傷をいくつも作って帰ってくる。
周囲の冒険者たちは相変わらず彼を嘲笑し、あるいは「狂ったか」と不気味に遠巻きにしている。だが、当の彼の表情には、一切の焦りも、惨めさも、そして『恐怖』もなかった。
(どうして……あんなに傷だらけなのに、真っ直ぐに前を向けるの……?)
魔物が恐ろしくてたまらない彼女にとって、たった一人で死地に赴き、痛みに顔を歪めることすらなく淡々と帰還する彼の姿は、あまりにも異質だった。
同時に、その底知れぬほど静かで冷たい瞳に、彼女はどうしようもなく惹きつけられていた。
声を掛けてみたい。
どうすれば、あんなふうに恐怖に打ち勝てるのか。あの揺るぎない強さはどこから来るのか、聞いてみたい。あわよくば、同じ『最弱』の烙印を押された者同士、少しだけ言葉を交わせるのではないか。
しかし、生来の臆病さが彼女の足を縫い止める。
(私なんかが声を掛けても、迷惑なだけだよね……。足手まといの役立たずだって、きっと知られてるし……)
拒絶されるのが怖い。呆れられるのが怖い。
そんな葛藤を抱えたまま、声を掛ける勇気が出ない彼女は、今日もギルドの隅から、彼が一人で出入りする背中を黙って見つめることしかできなかった。
そうして、すれ違いの数日間が過ぎていった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




